コラム

さまざまな話題を振りまくスーパーボウルCM

2017年02月13日(月) 03:33

第51回スーパーボウルのロゴ【Aaron M. Sprecher via AP】

まさに劇的な展開となった第51回スーパーボウル。『FOX(フォックス)』による全米テレビ中継の平均視聴者数は1億1,130万人に上った。これで8年連続1億人突破となったが、第49回で記録した1億1,140万人から2年連続で減少、前回からは60万人減っている。とはいえ驚異的な数字であることに変わりなく、最も視聴率が良かった試合終了直前のアメリカ東部時間22時から22時30分には52.1%を記録している。

そして試合そのものと同様に今回も合間に流された通称“スーパーボウルCM”にも高い注目度が示された。今回30秒のCMを1回放送するための平均放送権料は史上最高の500万ドル(約5億6,500万円)に達したと見られている。それだけに各企業、団体は力を入れた豪華なCMを制作・放送するのが恒例になっているのだ。それゆえ、ある調査ではCMを目的にテレビ中継を見る人が約2割いるという結果もあるほどである。今回は70近く放送されたCMの中から人気や話題の作品をいくつか紹介してみよう。

まず全国紙『USA Today(USAトゥデー)』が毎年一般ユーザーからの投票で決めるCM人気ランキング、ADメーターで今回トップになったのが、韓国の自動車メーカー『現代自動車』の傘下にある『起亜自動車』の“ヒーローズジャーニー”という作品。クロスオーバー車Niroを宣伝するもので、映画“ゴーストバスターズ”出演した女優でコメディアンのメリッサ・マッカーシーが出演し、笑える内容になっているのが特徴だ。

【起亜自動車“ヒーローズジャーニー”】


2位に入ったのは第2クオーターに放送された日本の自動車メーカー『Honda』による“イヤーブックス”だ。元NBA選手、マジック・ジョンソンや音楽アーティストのミッシー・エリオットの卒業アルバムに掲載された写真が動き出し、夢の実現について語り出すという内容だ。

【Honda“イヤーブックス”】


NFL自体も2つのCMを放送した。1つ目は“スーパーボウル・ベイビーレジェンズ”という作品。これは昨年放送されたスーパーボウルで優勝した都市で優勝年に生まれた多くの“子供”たちが出演した“スーパーボウル・ベイビーズ”の第2段となるもので、元ベアーズのマイク・ディトカや元パッカーズのビンス・ロンバルディなどレジェンドたちに扮した赤ん坊たちが出演するもの。

【NFL“スーパーボウル・ベイビーレジェンズ”】


もう一つはNFLの結束を過去の映像を集めて表現した“インサイドディーズラインズ”という作品だった。

【NFL“インサイドディーズラインズ”】


一方、現役NFL選手が出演した作品も3つあった。携帯電話会社『T-Mobile』のCM“#UnlimitedMoves(アンリミテッドムーブズ)”では歌手のジャスティン・ビーバーと共演したのがペイトリオッツのタイトエンド(TE)ロブ・グロンコウスキーだ。ケガで出場できなかったグロンコウスキーだが、スーパーボウルCMでは健在ぶりを披露している。

【T-Mobile“#UnlimitedMoves(アンリミテッドムーブズ)”】


また自動車メーカー『Buick(ビュイック)』のCM“ピーウィー”ではパンサーズのクオーターバック(QB)キャム・ニュートンがスーパーモデルのミランダ・カーと共演した。

【ビュイック“ピーウィー”】


さらに以前に紹介した半導体メーカー『Intel(インテル)』の“ブレイディ・エブリデー”には今回MVPを受賞したペイトリオッツQBトム・ブレイディが出演した。いずれの作品でも選手はユーモラスな役を演じている。親しみやすさと力強さの共有を狙ってのことだろう。

【インテル“ブレイディ・エブリデー”】


トランプ大統領の政策との絡みで議論を生んだCMもあった。ペンシルバニアを拠点とする建材メーカー『84Lumber(84ランバー)』は今回初めてスーパーボウルCMを放送したのだが、メキシコからの移民を強く意識させるストーリーで当初の案ではトランプ大統領が作ると主張する国境の壁が登場する内容だったため、Foxが政治的過ぎるとこれを却下したのである。結局、修正したものが放送されたのだが、試合終了後、同社は5分44秒にも及ぶオリジナル版を公開した。

【84ランバー“The Entire Journey(ジ・エンタイア・ジャーニー)”】


一方、酒造メーカー『Anheuser-Busch InBev(アンハイザー・ブッシュ・インベブ)』の大手ビールブランド“バドワイザー”はドイツからの移民で共同設立者のアドルファス・ブッシュを描いた“ボーン・ザ・ハードウェイ”を放送した。同CMが1月31日に『YouTube(ユーチューブ)』で公開されると「国に帰れ」という場面があることもあって反トランプ的と話題になったのである。

【バドワイザー“ボーン・ザ・ハードウェイ”】


同社はトランプ大統領が入国禁止令を出す前から作品を制作していたとコメントを出したが、このCMにかみついたのが他ならぬトランプ大統領だった。2月1日に政治的な広告を流すバドワイザーをボイコットしろ、と『Twitter(ツイッター)』に投稿したのである。


このようにスーパーボウルCMはさまざまな話題を振りまく、スーパーボウルになくてはならない重要な要素となっているのだ。

わたなべ・ふみとし

渡辺 史敏
兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。