コラム

オフは補強の季節、フランチャイズ指名期間始まる

2017年02月16日(木) 08:59


星条旗を振るファン【AP Photo/Eric Gay】

ペイトリオッツの大逆転で終わった第51回スーパーボウルの余韻が冷めやらぬなか、ファルコンズの攻撃コーディネーターだったカイル・シャナハンが49ersの新ヘッドコーチ(HC)に就任し、これですべてのチームのHCが決定した。

これでようやく全32チームが本格的にオフの補強に乗り出す。NFLではすでにフリーエージェント(FA)とドラフトがメイントピックとなった。現地時間15日にはFAとなる選手へのフランチャイズ指名が可能となり、3月1日までに優先的交渉権を行使する選手を選択できる。

2018年のリーグイヤーはアメリカ東部時間3月9日午後4時(日本時間10日午前6時)に始まり、同時にFA市場が解禁となる。

フランチャイズ指名を簡単に説明しておくと、FAとなる予定に選手に対して1年の契約延長を保証する代わりに独占的(exclusive)または優先的(non-exclusive)な交渉権を得るシステムだ。各チーム1人だけに行使できる。

独占的フランチャイズ指名ではチームはFAとなる選手に、同じポジションの前年度のサラリーのトップ5の平均額、またはその選手の前年度の年俸の2割増しのどちらかの高額な金額以上の契約を提示しなければならない。選手は他のチームとのFA交渉が一切できない。

優先的指名は年俸は同じポジションのトップ5の平均以上の提示で、選手は他のチームとの移籍交渉が許される。ただし、チームは他球団が提示したものと同内容の契約で移籍を阻止することができる。また、移籍を認めた場合は移籍先から補てんとして2つのドラフト1巡指名権を受け取ることができる。

貴重な1巡指名権を2つも譲渡してまでFA選手をとろうとするチームはなく、優先的フランチャイズ指名も独占的指名と実質は変わらない。提示する年俸が低くて済む場合が多いため、一般的には優先的指名を使うチームがほとんどだ。

このフランチャイズ指名が行使される可能性が最も高いのはスティーラーズのRBレベオン・ベルだ。スティーラーズオフェンスにはなくてはならない存在で、ベル自身も残留を望んでいる。

フランチャイズ指名期間中に1年契約を結び、その後シーズン開幕までに長期契約を結ぶという2段階での契約更改が濃厚だ。焦点となるのは契約期間と年俸だ。ベルは故障が多く、過去3年間でプレーオフに出場できたのは今季だけだ。その今季もAFC決勝では腿の付け根のケガのため序盤で戦列を離れた。

スティーラーズはできる限り契約年数と年俸を抑えたいと考える。この交渉が決裂すればフランチャイズ指名を解除されて急きょFAとなるシナリオが現実となりかねない。

レッドスキンズのQBカーク・カズンズは本来なら昨年が長期契約締結のチャンスだった。彼と同じく2012年にNFL入りしたアンドリュー・ラック(コルツ)やライアン・タネヒル(ドルフィンズ)らはいずれも入団時の契約が切れる昨年までにチームとの契約延長を済ませている。

ところが、カズンズはロバート・グリフィン三世(現ブラウンズ)の控えに始まり、先発と降格を繰り返した。2015年シーズンは先発QBとして実績を残したが、1年だけの結果ではチームの信頼を得るに十分ではなく、長期契約は見送られた。昨季のカズンズは1年のフランチャイズ契約でのプレーだった。

昨季もカズンズは好パサーとして活躍できたため、契約延長は間違いないだろう。問題はレッドスキンズがどこまで年俸を払うかだ。昨季は2,000万ドルだった。今季はさらに上乗せをする必要があるが、それがチームのカズンズへの評価を表すものになるため金額に注目が集まる。

カズンズは他チームでもプレーできるだろうが、レッドスキンズはカズンズ以外にQBの選択肢がないのは事実だ。それを盾に交渉すればプレーオフの常連並みの年俸を手に入れることは可能かもしれない。ちなみにカズンズのプレーオフでの成績は0勝1敗だ。

始まる前から交渉決裂の懸念があるのはチーフスのSエリック・ベリーだ。昨年もフランチャイズ指名を受けてキャンプをボイコットしたベリーは、すでに今季はフランチャイズ指名契約ではプレーしないことを宣言している。すでに波乱含みなのである。

悪性リンパ腫を克服して復帰したベリーはすでに闘病前の姿を取り戻したと言っていい。その実力と経験はNFLトップクラスだ。これに対してチーフスがどのような交渉をするか。

アンディ・リードHCは交渉が長期化するのを嫌う。また、FAを機に30歳を過ぎた選手を放出する傾向もある。ベリーはまだ28歳だが、交渉が難航すればチーフスが再契約を断念する場合も考えられる。となればFA市場が沸騰するのは間違いない。

ベンガルズのOGケビン・ザイトラーはあえて再契約せずにFA市場を試してみるのも面白いだろう。カウボーイズやファルコンズの躍進でOLは注目が集まっている。ザイトラーは評価の高いOLで、引く手あまたとなるだろう。OLに高年俸を払いたがらないベンガルズよりもサラリーが上がると考えられる。

フランチャイズ期間の開始から間もなくドラフトコンバインも始まる。ここでの人材発掘はチームのFA事情に大きく影響を与える。そして月が変わればFA市場が開く。チームの首脳陣の忙しい日々はまだまだ続く。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。