リーグイヤーの“年の瀬”は粛清の季節、涙をのんだ選手は?
2017年02月26日(日) 08:47NFLの年度、すなわちリーグイヤーは毎年3月に切り替わる。今年はアメリカ東部時間3月9日午後4時(日本時間10日午前6時)が“新年”の始まりで、この瞬間からNFLは正式に2017年シーズンに突入する。
年度替わりを直前にした現在はいわばリーグイヤーの“年の瀬”だ。この時期は間もなく解禁となるフリーエージェント(FA)市場やトレードを見据えて、戦力構想から外れた選手が粛清されるつらい季節でもある。すでに幾人ものビッグネームが所属チームから解雇通告を言い渡された。
ディフェンシブエンド(DE)マリオ・ウィリアムス(ドルフィンズ)やコーナーバック(CB)ジャスティン・ギルバート(スティーラーズ)はいわゆるアンダーアチーバー(期待外れ)で、解雇されるのは時間の問題だった。
2006年にテキサンズからドラフト全体1位指名を受けたウィリアムスだったが、4-3守備でのDEから3-4隊形のアウトサイドラインバッカー(OLB)への順応がうまくいかず、ディフェンスシステムが変わるたびに好不調を繰り返してきた。ビルズを経て昨年ドルフィンズと契約し、本来のDEでプレーできる環境にあったものの、存在感を示すことができなかった。2016年シーズンは13試合に出場してわずか1.5サックに終わる。これではパスラッシャーとして失格だ。
ギルバートはブラウンズの2014年の全体8番目指名でありながらついにCBとして活躍の場を得られていない。昨年、ブラウンズとスティーラーズの間で行われた非常にレアなケースのトレードで移籍したが、才能が開花することはなかった。最後はキックリターナーに格下げされたうえでの解雇。早くもNFLでの選手生命が脅かされている。
長引く故障がリリースにつながる場合も多い。CBサム・シールズ(パッカーズ)、ワイドレシーバー(WR)ビクター・クルーズ(ジャイアンツ)などがそうだ。
シールズは今季開幕戦で脳しんとうを患い、そのまま復帰することなくシーズンを終えている。パッカーズはセカンダリーに故障者が続出したものの、最も経験の豊かなスターターだったシールズの戦列離脱はやはり痛かった。脳しんとうによる長期離脱のため、今後の健康問題にも懸念があり、パッカーズは袂を分かつ決断を下している。
クルーズはほぼ2年間を故障で棒に振った後に復帰した2016年、しかし、かつてのようなキレはなかった。QBイーライ・マニングのターゲットもWRオデル・ベッカムやスターリング・シェパード、TEウィル・タイらに移っており、居場所をなくした印象は否めない。
ジャガーズから解雇されたOTケルビン・ビーチャムやジェッツからカットされたOTライアン・クレイディはFA移籍が仇となった。ビーチャムはスティーラーズで、クレイディはブロンコスで先発を務めていたが、FAの権利を利用して移籍の道を選んだ。しかし、システムの違いのためか新天地になじむことがないままにともに1年でクビとなってしまった。
実はこれがFA移籍では最も難しい。選手はより高い年俸を求めて移籍先を探すが、スキームやチームメイト、コーチたちとの相性で実力を発揮できない場合が多々あるのだ。こうした選手は早々と解雇され、不適合のレッテルを張られてチームを追われてしまう。
運が良ければ元のチームに呼び戻されるが、その場合の年俸ダウンは避けられない。他のチームに拾われる場合でも条件も前のFA移籍時よりも悪くなるのが通常だ。
この点、スティーラーズのOLBジェームズ・ハリソンは幸運な選手である。2012年にチームから再契約されずにベンガルズに移籍するも、活躍できずに1年で解雇。一度は引退をしたものの、2014年にLBの人材不足に陥ったスティーラーズに呼び戻されている。2016年の後半はほぼスターターとして出場し、来季もチームに残るという。
現在までに解雇された選手の中ですぐに新チームが見つかりそうなのはFBマイク・トルバートだろう。パンサーズからリリースされたものの、パワフルで献身的な走りはまだまだ必要とするチームがありそうだ。最近ではFBを置かないチームも増えているが、カウボーイズやファルコンズのランオフェンスの成功により、わずかながらFBの存在が見直されている。トルバートはあと1、2年は十分に活躍できると思われ、年俸や移籍先にこだわらなければすぐに新しい就職先が与えられるだろう。
いけざわ・ひろし
- 生沢 浩
- 1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。