コラム

ハーフタイムショーを盛り上げた企業と人々

2017年02月28日(火) 19:27


インテル社のドローン技術でレディー・ガガのハーフタイムショーを演出【Intel Corporation】

歌手レディー・ガガが華麗で迫力のあるパフォーマンスを見せた第51回スーパーボウルのハーフタイムショー。その全米向けテレビ中継の視聴者数は試合全体の平均視聴者数、1億1,130万人を上回る1億1,750万人を記録した。ハーフタイムショーの視聴者数が試合の平均視聴者数を上回ったのは4年連続である。ハーフタイムショーはスーパーボウルにとって今やなくてはならない重要な要素となっていることを証明した形だ。

そんな今回のハーフタイムショーの人気は複数の企業、アーティストが盛り上げ、形作られた。そしてそれぞれのアピールがなされている。

まず挙げたいのがNFLによるレディー・ガガの起用だ。ガガは前回のスーパーボウルで国歌を独唱し、圧倒的な存在感を示している。まさに世界のトップアーティストだが、2年連続のスーパーボウル起用は例外的と言わざるを得ない。英断といえよう。

加えて、ガガは大統領選挙戦中から“反トランプ”を表明しており、トランプ大統領が誕生した中で今回のスーパーボウルの全米向けテレビ中継を“親トランプ”と言われる『FOX(フォックス)』が担当したとあって、ガガの言動に注目が集まったことも視聴者の関心の高まりという点でプラスに働いたと考えられる。

さらにガガはショーの直後に『Twitter(ツイッター)』でワールドツアー“Joanne”の開催を発表した。自身への関心が最高に高まった時を見事に活用したといえる。

一方、一番力を入れてショーをPRしたのがショーの冠スポンサーであるソフトドリンクのペプシだ。昨年9月にハーフタイムショーの公式サイトを開設。12月にはガガ愛を訴えるビデオをツイッターと『Facebook(フェイスブック)』に投稿し、優秀作品に選ばれるとハーフタイムショーをフィールドで見られるコンテスト“ゲスト・オブ・オナー”を実施した。その後、1月にはショーの舞台裏ビデオやカウントダウンビデオを順次掲載するなどし、ショーへの関心を高めていったのである。

さらに全米向けのテレビ中継ではショーの直前に歌手トニー・ベネットなどが出演したカウントダウンCMも放送されている。

そして、今回、ショーの演出で自社技術をアピールしたのが半導体大手の『Intel(インテル)』だった。ガガがショーの冒頭にスタジアムの屋根で“ゴッド・ブレス・アメリカ”を歌ったのだが、この場面でガガの背後に無数の光点が現れ、青や赤に色を変えたかと思うと星条旗を形作る、という演出が披露された。その光の演出がインテルによるものだったのである。300機のドローンが搭載したLEDライトの色を変えながら編隊飛行させたのだ。インテルが誇る多数のドローンを自在に飛行させられる技術“インテルシューティングスタードローン”が生かされている。全米向けのテレビ中継ではショーの終了時にドローンがペプシとインテルのロゴを形作る様子も放送された。

ただ、航空管制を担当するアメリカ連邦航空局のドローン飛行規制によって、7万人以上が詰めかけたNRGスタジアム上空にドローンをライブで飛ばす認可を得られず、ガガの歌唱も合わせ、これらのシーンは事前に録画されたものだったということである。

ショーの制作に直接的に関わったのはこの4者ということになるが、ガガをCMに起用し、ショーを間接的に盛り上げた企業も2社あった。

宝飾品メーカーで、スーパーボウル優勝杯“ビンス・ロンバルディ・トロフィー”を製造していることで知られる『Tiffany & Co.(ティファニー)』がその一つだ。放送地域が限定されるローカル枠ながら、ハーフタイム冒頭のCM枠でガガが出演した新ハードウェアコレクションをPRするCM“Introducing Lady Gaga for Tiffany HardWear(イントロデューシング・レディー・ガガ・フォー・ティファニー・ハードウェア)”を放送。同社がテレビCMを放送したこと自体20年ぶりだった。

2つめは『21世紀FOX』の傘下で、自然ドキュメンタリーなどで人気のケーブルチャンネル『National Geographic(ナショナルジオグラフィック)』。ショー終了直後に歴史上の天才たちの真実を紹介する再現ドラマ“ジーニアス”シリーズをPRするCM“ジーニアス”を放送したのである。

このCMではアインシュタインがバイオリンで奏でる曲が次第にガガのヒット曲“バッド・ロマンス”に変化するという構成。アインシュタインがバイオリンを手放さなかったというエピソードに基づいたものだ。ショーの余韻に浸るという点では最良のCMだったかもしれない。

こんな風に盛り上げた要素という視点でショーを改めて見てみると新たな発見があるかもしれない。

わたなべ・ふみとし

渡辺 史敏
兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。