コラム

RBに粛清の波、ピーターソンとチャールズに残された道は?

2017年03月05日(日) 08:48

ミネソタ・バイキングス時代のエイドリアン・ピーターソン【AP Photo/Andy Clayton-King】

新リーグイヤーの開始とフリーエージェント(FA)市場の解禁を間近に控え、2人のベテランランニングバック(RB)がチームを追われることになった。現地時間2月28日、チーフスはジャマール・チャールズを解雇し、同日にバイキングスがエイドリアン・ピーターソンの契約を更新しないことを発表した。チャールズは即日FAとなり、ピーターソンはアメリカ東部時間3月9日午後4時をもって正式にFA資格を得る。

両選手ともそれぞれのチームのエースとして一時代を築いた。チャールズは9年間でチーム記録となる7,260ヤードを稼いだ。パワフルなランニングスタイルでスクリメージラインを突破し、確実なゲインが計算できるバックだった。強力なディフェンスを持つチーフスにはボールコントロールを容易にするチャールズの存在は大きかった。

しかし、過去2年は故障が多く、出場した試合はわずかに8試合。スペンサー・ウェアやチャーキャンドリック・ウェストらの台頭もあって昨年は先発出場がなかった。Sエリック・ベリーとの再契約のために年俸700万ドル(約7億9,700万円)のチャールズを慰留する余裕がなかったとはいえ、このリリースは予想されていたことだった。

ピーターソンは鋭いカットバックと体格を生かしたパワーランの併用できる稀有な能力の持ち主だ。過去10年でオールプロ4回という経歴を紹介するまでもなく、バイキングスのみならずNFLを代表するRBとして活躍してきた。昨年は3試合目で膝の半月板を損傷し、そのまま復帰することはなかった。

一部報道によればバイキングスがプレーオフに出場できるようであればシーズン終盤からポストシーズンにかけてプレーできるほどにまで回復していたが、敗退が決まったために出場を見送ったとも言われる。

いずれにせよ2017年のサラリーが1,800万ドル(約20億5,000万円)にも及ぶことになるピーターソンの契約オプションをバイキングスが行使することはなかった。

気になるのは2人の今後の行先だ。ともに30歳を超えており、RBとして下り坂なのは否めない。あとどのくらいNFLでプレーできるのかは獲得を考えるチームが最も悩む問題だ。

ともに膝の靱帯(じんたい)を切る重傷を経験している。それだけでなく、激しく当たるプレースタイルのためにこれまでに蓄積された体のダメージも深刻だ。全盛期のようにフィーチャーバックとして1試合に20回以上のボールキャリーをするほどの力は残っていない。また、現在のNFLではそうしたRBを必要とするチームはほとんどない。どのチームも複数のRBを使い分けることで長いシーズンを乗り切っている。

もし、チャールズとピーターソンがともにフィーチャーバックとしての立場に固執し、多くのボールキャリーを入団の条件とするならば選択肢はごく限られたものになるかもしれない。

一昔前は20回前後のボールキャリーをすることで自分のリズムを作るRBが多かった。こうした選手は他の選手との併用を嫌ったものだ。チャールズやピーターソンはこうした世代の系統に属する。いわば、旧世代のRBの最後の砦だ。

ピーターソンの場合は移籍先をプレーオフの狙えるチームに限定するのではないかと思われる。RBとして輝かしい実績を残し、将来の殿堂入りも間違いないがスーパーボウルには縁がない。残り少なくなったNFL生活で最後の一花を咲かせたいと思うのが人情だ。並の選手なら傲岸に見える姿勢だが、ピーターソンにはそれを納得させるだけの実績とスター性がある。

ベテラン選手の解雇を見るのはいつでも辛いものだ。しかし、もっと辛いのはこうした選手が移籍先の見つからないままに引退に追い込まれる事態である。こうならないためにもチャールズとピーターソンには妥協も必要だ。そして、現在のNFLの潮流に合わせて自身が変化しなければならない。このままユニフォームを脱いでしまうにはあまりにも惜しい選手なのだから。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。