コラム

史上初のOT決着:ファルコンズが落ちた罠、ペイトリオッツが仕掛けた策

2017年02月12日(日) 12:44

ニューイングランド・ペイトリオッツ【AP Photo】

今年のスーパーボウルは51回目にして初めて突入したオーバータイム(OT)の末にペイトリオッツが34対28でファルコンズを下し、2年ぶり5回目のNFL制覇を達成した。

第3クオーター途中までに25点差をつけられながら第4クオーター残り57秒で追いつき、OTの最初のドライブでタッチダウンをあげるという大逆転劇だった。

この試合の勝敗を左右したものは何だったのか。両チーム合わせて3回犯し、計22点に結びついたターンオーバー、第4クオーターに追加点をあげられなかったファルコンズの拙攻、ハーフタイムを境に見事に修正を果たしたペイトリオッツの順応力、クオーターバック(QB)トム・ブレイディの勝負強さなどいろんな要素が複雑に絡み合う。

そんな中、第4クオーターに連続して起きた2つのプレーの意味について考えてみたい。

状況はペイトリオッツがファルコンズQBマット・ライアンのサックとファンブルで得たボールをブレイディからダニー・アメンドーラへのタッチダウンパスにつなげて20対28と1ポゼッション差に迫った直後だ。ファルコンズのドライブは残り時間5分53秒、自陣10ヤードから始まる。

ファルコンズが加点して2ポゼッションとなれば試合残り時間から考えてアトランタの初優勝はほぼ確実となる場面である。フィールドポジションは悪かったが、最初のプレーでライアンからランニングバック(RB)デボンテ・フリーマンへのショートパスがランアフターキャッチで39ヤードゲインとなり、一気にミッドフィールドまで進む。フリーマンの2ヤードランをはさんで、ライアンからワイドレシーバー(WR)フリオ・ジョーンズへの27ヤードパスが決まる。コーナーバック(CB)ローガン・ライアンのカバーをかわしたジョーンズが辛うじて両足をインバウンズに残して倒れ込みながら成立させたスーパーキャッチだ。これでファルコンズはゴール前22ヤードまで進む。

この時点で時間は4分40秒。堅実なプレーコーラーならばここでランやショートパスなど確実に時間を進めるプレーを3回行い、第4ダウンでフィールドゴールと考えるはずだ。そうすれば1かプレーにつき35秒を費やすとして残り時間3分を切って2ポゼッション差をつけることが可能だ。

ペイトリオッツが追い付くにはタッチダウンに加えて2ポイントコンバージョン、さらにフィールドゴール、逆転するにはタッチダウンとポイントアフタータッチダウン(キックでも2ポイントコンバージョンでも可)にタッチダウンが必要となる。いずれにせよ2回の攻撃機会が必要で、その間にはファルコンズのオフェンスを無得点に止めるか、もしくはオンサイドキックを成功させてファルコンズにオフェンスそのものをさせない必要がある。そのすべてを3分弱で行わなければならない。いかに試合巧者のペイトリオッツといえども、これは困難だったに違いない。

しかし、ファルコンズは手堅くは行かなかった。悪く言えば欲をかいた。フィールドゴールではなく、タッチダウンを狙ったのだ。もっとも、この積極策は理解できないではない。25点差があれよという間に8点差となり、明らかに勢いはペイトリオッツにあった。そうした焦りはあったろう。さらに、このドライブはフリーマンやジョーンズのビッグプレーでいい形で展開してきた。このままタッチダウンで突き放したいという考えがよぎるのも無理はない。確かにレギュラーシーズンやプレーオフでのファルコンズはこうした局面で積極的なプレーコールをして成功してきた。だが、ここにこそファルコンズが嵌った罠があった。

猛追するペイトリオッツのプレッシャーと好調さを取り戻してタッチダウンのチャンスが広がったオフェンス。ここで攻めの姿勢を見せるのは競技者の本能かもしれない。しかし、ここで忘れるべきではなかったのが、フィールドゴールすらも成功できなくなる状況は絶対に避けなければならないということだ。そして、その状況が現実となる。

第1ダウンでフリーマンのランが1ヤードのロスに終わった後、ファルコンズはパスに転じる。ところが、これがサックとなり12ヤードも後退してしまう。これがこの試合を左右することになる2連続プレーのひとつ目だ。

プレーの結果、ファルコンズは敵陣35ヤードまで下がったが、まだフィールドゴールは可能な範囲だ。ここでファルコンズが考えるべきことは最低でもそのフィールドポジションを維持し、フィールドゴールレンジ内にとどまることだ。保守的なプレーコーラーならここでランをコールし、キッカーにとって蹴りやすい位置にボールを持って行って50ヤード前後のフィールドゴールに持ち込むだろう。キッカー(K)マット・ブライアントの今季最長フィールドゴールは59ヤードである。

結果から言うとこのプレーでファルコンズはパスを選択し、ライアンからWRモハメド・サヌーへのパスが成功したもののレフトタックル(LT)ジェイク・マッシューズのホールディングの反則でプレーは無効、10ヤード罰退となる。これが意味を考えたい2つ目のプレーだ。

リプレーを見ると、エッジラッシャーのディフェンシブエンド(DE)クリス・レイクはマッシューズに対してリップテクニックを使ってパスラッシュをかけている。リップとは肘を90度に曲げた腕をOLの脇の下に入れてかちあげることでブロックを打ち破る技術だ。このプレーではレイクは左腕をマッシューズの左脇の下に差し込んでいる。瞬間的にマッシューズの左手がレイクの胸に、右手が背中にかかる形となる。

基本的にOLのブロックでは手がディフェンダーの背中に回るとホールディングとみなされる。ただし、リップテクニックにようにOLの手が不可抗力でディフェンダーの背中に回った場合はその限りではない。

では、なぜここでマッシューズの反則がとられたのか。このプレーではレイクはマッシューズのブロックをかわしながら転倒している。それにつられる形でマッシューズもレイクをつかんだまま倒れ込む。こうしたプレーでは審判はOLのホールディングをとるケースが多い。

今年のプレーオフをご覧になった読者ならこれと似たケースを想起されるのではないだろうか。そう、AFCディビジョナルプレイオフでのスティーラーズ対チーフス戦だ。

第4クオーター残り3分29秒でチーフスはQBアレックス・スミスからフルバック(FB)アンソニー・シャーマンへの3ヤードタッチダウンパスが成功して16対18と追い上げる。続く2ポイントコンバージョンではRBスペンサー・ウェアがランでエンドゾーンに突入し、同点に追いついたかに見えたが、LTエリック・フィッシャーのOLBジェームズ・ハリソンへのホールディングでプレーは取り消し。10ヤード罰退後のプレーはパスが失敗に終わってチーフスは敗退した。

この2プレーには共通点が多い。エッジラッシャー対LTのマッチアップ、ラッシャーがリップテクニックを使って転倒、ホールディングの反則。そして、この試合の審判を務めていたのはスーパーボウルと同じカール・シェファーズのクルーだったのだ。

リプレーを見る限り、レイクがわざと転倒したようには見えない。しかし、リップテクニックを使うエッジラッシャーは体勢が低く、しかもリップしている方に体が傾くためにバランスを崩しやすいことも事実だ。百戦錬磨のペイトリオッツが当日の審判クルーを意識してパスラッシュテクニックを使っていたと考えるのは穿ちすぎだろうか。

たった1プレーもしくは2プレーで試合が決まるはずもなく、試合を外から見ている部外者があとからあれやこれや言っても何が正解かは誰にもわからない。ただ、いわゆる“マンデーモーニングQB”となってこうしたプレーの1つひとつの意味を深読みするのもこのスポーツの楽しさではある。

ペイトリオッツ対ファルコンズ戦のハイライト動画

状況はペイトリオッツがファルコンズQBマット・ライアンのサックとファンブルで得たボールをブレイディからダニー・アメンドーラへのタッチダウンパスにつなげて20対28と1ポゼッション差に迫った直後だ。ファルコンズのドライブは残り時間5分53秒、自陣10ヤードから始まる。

ファルコンズが加点して2ポゼッションとなれば試合残り時間から考えてアトランタの初優勝はほぼ確実となる場面である。フィールドポジションは悪かったが、最初のプレーでライアンからランニングバック(RB)デボンテ・フリーマンへのショートパスがランアフターキャッチで39ヤードゲインとなり、一気にミッドフィールドまで進む。フリーマンの2ヤードランをはさんで、ライアンからワイドレシーバー(WR)フリオ・ジョーンズへの27ヤードパスが決まる。コーナーバック(CB)ローガン・ライアンのカバーをかわしたジョーンズが辛うじて両足をインバウンズに残して倒れ込みながら成立させたスーパーキャッチだ。これでファルコンズはゴール前22ヤードまで進む。

この時点で時間は4分40秒。堅実なプレーコーラーならばここでランやショートパスなど確実に時間を進めるプレーを3回行い、第4ダウンでフィールドゴールと考えるはずだ。そうすれば1かプレーにつき35秒を費やすとして残り時間3分を切って2ポゼッション差をつけることが可能だ。

ペイトリオッツが追い付くにはタッチダウンに加えて2ポイントコンバージョン、さらにフィールドゴール、逆転するにはタッチダウンとポイントアフタータッチダウン(キックでも2ポイントコンバージョンでも可)にタッチダウンが必要となる。いずれにせよ2回の攻撃機会が必要で、その間にはファルコンズのオフェンスを無得点に止めるか、もしくはオンサイドキックを成功させてファルコンズにオフェンスそのものをさせない必要がある。そのすべてを3分弱で行わなければならない。いかに試合巧者のペイトリオッツといえども、これは困難だったに違いない。

しかし、ファルコンズは手堅くは行かなかった。悪く言えば欲をかいた。フィールドゴールではなく、タッチダウンを狙ったのだ。もっとも、この積極策は理解できないではない。25点差があれよという間に8点差となり、明らかに勢いはペイトリオッツにあった。そうした焦りはあったろう。さらに、このドライブはフリーマンやジョーンズのビッグプレーでいい形で展開してきた。このままタッチダウンで突き放したいという考えがよぎるのも無理はない。確かにレギュラーシーズンやプレーオフでのファルコンズはこうした局面で積極的なプレーコールをして成功してきた。だが、ここにこそファルコンズが嵌った罠があった。

猛追するペイトリオッツのプレッシャーと好調さを取り戻してタッチダウンのチャンスが広がったオフェンス。ここで攻めの姿勢を見せるのは競技者の本能かもしれない。しかし、ここで忘れるべきではなかったのが、フィールドゴールすらも成功できなくなる状況は絶対に避けなければならないということだ。そして、その状況が現実となる。

第1ダウンでフリーマンのランが1ヤードのロスに終わった後、ファルコンズはパスに転じる。ところが、これがサックとなり12ヤードも後退してしまう。これがこの試合を左右することになる2連続プレーのひとつ目だ。

プレーの結果、ファルコンズは敵陣35ヤードまで下がったが、まだフィールドゴールは可能な範囲だ。ここでファルコンズが考えるべきことは最低でもそのフィールドポジションを維持し、フィールドゴールレンジ内にとどまることだ。保守的なプレーコーラーならここでランをコールし、キッカーにとって蹴りやすい位置にボールを持って行って50ヤード前後のフィールドゴールに持ち込むだろう。キッカー(K)マット・ブライアントの今季最長フィールドゴールは59ヤードである。

結果から言うとこのプレーでファルコンズはパスを選択し、ライアンからWRモハメド・サヌーへのパスが成功したもののレフトタックル(LT)ジェイク・マッシューズのホールディングの反則でプレーは無効、10ヤード罰退となる。これが意味を考えたい2つ目のプレーだ。

リプレーを見ると、エッジラッシャーのディフェンシブエンド(DE)クリス・レイクはマッシューズに対してリップテクニックを使ってパスラッシュをかけている。リップとは肘を90度に曲げた腕をOLの脇の下に入れてかちあげることでブロックを打ち破る技術だ。このプレーではレイクは左腕をマッシューズの左脇の下に差し込んでいる。瞬間的にマッシューズの左手がレイクの胸に、右手が背中にかかる形となる。

基本的にOLのブロックでは手がディフェンダーの背中に回るとホールディングとみなされる。ただし、リップテクニックにようにOLの手が不可抗力でディフェンダーの背中に回った場合はその限りではない。

では、なぜここでマッシューズの反則がとられたのか。このプレーではレイクはマッシューズのブロックをかわしながら転倒している。それにつられる形でマッシューズもレイクをつかんだまま倒れ込む。こうしたプレーでは審判はOLのホールディングをとるケースが多い。

今年のプレーオフをご覧になった読者ならこれと似たケースを想起されるのではないだろうか。そう、AFCディビジョナルプレイオフでのスティーラーズ対チーフス戦だ。

第4クオーター残り3分29秒でチーフスはQBアレックス・スミスからフルバック(FB)アンソニー・シャーマンへの3ヤードタッチダウンパスが成功して16対18と追い上げる。続く2ポイントコンバージョンではRBスペンサー・ウェアがランでエンドゾーンに突入し、同点に追いついたかに見えたが、LTエリック・フィッシャーのOLBジェームズ・ハリソンへのホールディングでプレーは取り消し。10ヤード罰退後のプレーはパスが失敗に終わってチーフスは敗退した。

この2プレーには共通点が多い。エッジラッシャー対LTのマッチアップ、ラッシャーがリップテクニックを使って転倒、ホールディングの反則。そして、この試合の審判を務めていたのはスーパーボウルと同じカール・シェファーズのクルーだったのだ。

リプレーを見る限り、レイクがわざと転倒したようには見えない。しかし、リップテクニックを使うエッジラッシャーは体勢が低く、しかもリップしている方に体が傾くためにバランスを崩しやすいことも事実だ。百戦錬磨のペイトリオッツが当日の審判クルーを意識してパスラッシュテクニックを使っていたと考えるのは穿ちすぎだろうか。

たった1プレーもしくは2プレーで試合が決まるはずもなく、試合を外から見ている部外者があとからあれやこれや言っても何が正解かは誰にもわからない。ただ、いわゆる“マンデーモーニングQB”となってこうしたプレーの1つひとつの意味を深読みするのもこのスポーツの楽しさではある。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。