コラム

トランプに揺れるスーパーボウル

2017年02月05日(日) 13:36


【渡辺史敏】

いよいよ決戦の日が近づき、アメリカはスーパーボウル一色に染まっている、と、いいたいところだが今回に限ってはそうはいえない状況となっている。ドナルド・トランプ大統領による入国禁止措置やその他の大統領令によって各地で抗議活動が行われるなど、騒然とした日が続いているからだ。そして、その影響はスーパーボウルにも及んでいる。

そのことがまず実感されたのが現地30日夜に行われた両チームの選手やコーチを報道陣が取材するイベント、オープニングナイトだった。トランプ大統領に対する質問が数多くされることとなったのである。

反トランプを表明したのがペイトリオッツのタイトエンド(TE)マーテラス・ベネットだった。「ペイトリオッツが勝っても、自分はたぶんホワイトハウスに行かないだろう」と、恒例行事であるスーパーボウル優勝チームのホワイトハウス訪問を拒否する考えを明らかにしたのだ。イベント後、ベネットはツイッターに「アメリカは多様性で作られている。排他性じゃない」とその理由を投稿している。

それに対し、チームメイトで長年トランプ大統領と友人関係にあるクオーターバック(QB)のトム・ブレイディは「政治の話はしない。このゲームとチームメイトに向けてポジティブに集中したい。我々がここにいるのはそのためだから」と態度を明らかにしなかった。

さらに翌日の記者会見でファルコンズのQBマット・ライアンは入国禁止措置の影響への懸念を聞かれ「イベントに影響しないことを望んでいる。スーパーボウルは選手、ファン、メディアはもちろん国中の多くの人々にとって本当に重要なんだ。だから何も影響がないことを望んでいる」と語っていた。

ただ、オープニングナイトで選手たちによる政治に関連した発言は直後にNFLが発行した発言集にはまったく掲載されなかった。この件についてロジャー・グッデルNFLコミッショナーは水曜日に行われた年次会見で「何を発言集から削除し、何を残すかには関わっていない」と言葉を濁している。その一方でメキシコとの関係については「NFLは両国をつなぐコミュニティを築き、乗り越えていけると強く信じている」と語っている。

一方、火曜日に開催された今回のセキュリティに関する記者会見ではNFLのセキュリティ担当副社長が「国土安全保障省、FBI、地元市警、NFLが一体となって安全を確保する」と宣言し、ヒューストン市警署長も「たとえ抗議活動が行われてもこれまで長年の経験があるのでコントロールできると考えている」と話している。その一方でメキシコから観戦に訪れるファンを歓迎すると流ちょうなスペイン語で語り、メキシコ国境に近い都市という背景ものぞかせた。

たしかに今週、スーパーボウルにかけては複数のグループによる抗議活動が実施、予定されているがこれまでのところ大きな騒ぎにはなっていない。ダウンタウンで開催されている屋外イベント、スーパーボウルライブにも抗議のプラカードなどを持ったグループが現れたということだが、それほど目立つことはなかった。とはいえ、ゲーム当日、会場のNRGスタジアムの周辺でも抗議活動が予定されているということだ。

ブレイディとは別の意味で大人な対応を見せたのがハーフタイムショーに出演する歌手のレディー・ガガだった。反トランプで知られ、それゆえにNFLがショーにおいて政治的な発言をしないように要請したとも報道されたガガだが、その件を意識したステージ上で何か“メッセージ”を残すことはあるかとの質問に対し、「ハーフタイムショー中に何か“メッセージ”を残すとしたら、それは私のこれまでのキャリアを通して皆さんに伝えてきたことと同じこと。互いを分かり合うための思いやりや平等の精神を信じているし、愛や思いやり、優しさの象徴としてこの国の精神を信じている。私のパフォーマンスはその哲学を貫くつもり」と答えている。

また、選手の家族には入国禁止の影響を受ける人がいることもあって、NFL選手会の会見では選手会としてどのような態度で臨むのかという質問もされた。これに対し、エリック・ウィンストン社長は「我々は全員をサポートする。選手の家族は選手会の家族でもある。家族を守る」と断言、デュモーリス・スミス・エグゼクティブディレクターも「組合は100%彼らの味方だ」と話した。ただトランプ大統領の政策に反対するかどうかは明らかにしなかった。

トランプ大統領の言動による波紋はスーパーボウルとNFLにもこれほどまでに広がっているのである。そしてこれからも続きそうだ。

わたなべ・ふみとし

渡辺 史敏
兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。