裾野にいるFAたちにチャンスをもたらす新たなキャンプ
2021年04月21日(水) 13:34マイケル・コーンウェルはサイドラインへと走り、額の汗をぬぐった。フィールド上の気温は32度を超えていたが、身長約190cm、体重約110kgのタイトエンド(TE)がそれを気にかけることはなかった。レジー・ブッシュやアレックス・スミスが最初にNFLへの夢を追いかけたのと同じヘリックス高校のフィールドでプロチームにアピールするための合同ワークアウトに参加する以上に、自身のスキルを披露できる場所はないのだから。
4年次の2019年にミッドイースタン・アスレチック・カンファレンスでTEとしてキャッチ数、ヤード、タッチダウンでトップに立ったコーンウェルは、ドラフトで指名されることを願っていた。しかし、プロデーに参加するチャンスはなかった。ハワード大学でヘッドコーチ(HC)の交代が起こっていたからだ。コンバインで印象づけることに期待していたコーンウェルだが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響によってこの機会はキャンセルされた。2020年ドラフトでコーンウェルの名が呼ばれなかったのも驚きではない。その現実によって、先週日曜日に実施された合同ワークアウトはコーンウェルにとって非常に重要なものとなっていた。
「今の俺は自動車のセールスマンとインテリアのセールスマンとして働いているから、これができるのは過去1年の自分に起こった中で一番良いことなんだ。夢が叶った。ここへきて楽しみ、夢見ることができる。個人的な考えだけど、夢見ることをやめ、自分が生涯で求めていることをやめたときに、人生は終わるんだと思う。だから、このチャンスが俺にとって何を意味するかを聞くのなら、答えは俺にとってのすべてだ」
そんなコーンウェルの思いは、招待制で行われる『HUB Football(HUBフットボール)』主催のワンデーキャンプに参加した58名の大部分が抱いていた感情と同じだろう。HUBフットボールは裾野にいるフリーエージェント(FA)たちのワークアウトプロセスを変えることを望む比較的新しい組織だ。従来型の、チームが選手を招聘し、宿泊を手配してドリルを行った上で家に帰すというモデルでは、財政的なコストがかさむことがあった。
HUBフットボールの創設者であり、タンパベイ・バッカニアーズのクオーターバック(QB)トム・ブレイディの代理人でもあるドン・イーは、月ごとなどの一定のペースで選手たちがやってきて、さまざまなプロリーグのチームのためにワークアウトを行える集積的な場所を作ることに意義があると考えている。選手は旅費を負担し、登録料を支払う。テープが作成され、代表者を派遣しなかったチームを含め、関心を持つすべてのチームがそのテープを利用できるというシステムだ。
「従来のやり方ではチームが多くの金額と労働力を負担する必要があるのに加え、選手やチームのスケジュール的な問題もあった」と語るイーはこう続けている。
「現在のやり方は非効率的で、選手を集めて――1回につき40名から50名――スカウトが出席するというやり方の方が理にかなっていると常に感じてきた。全員の関心がそろえば、選手やエージェントやチームにとってより大きな意義がある」
参加者の大部分はNFLのロースターに登場したことがないが、このキャンプは元デンバー・ブロンコスのラインバッカー(LB)ブランドン・マーシャルのようなNFLの経験がある選手によって勢いを増している。負傷やチームの経済状態によって2年にわたり契約を手にしていなかったマーシャルは、これがキャリアの引き際なのかを胸の内で神に問うていた。そんなマーシャルが目にしたのは、ランニングバック(RB)ダリウス・クラークがHUBのキャンプを経てNFLのチームと契約を交わしたというニュースだった。
「俺の中にはまだ炎がともり、パッションがあって、今は100%健康だ。――そして、前はしばらくの間100%じゃなかった。だから、やってみようと言ったんだ。リーグに戻るためにこの道をたどらなきゃならないなら、俺はそこを進む」とマーシャルは話している。
マーシャルは280人近くの応募者から選ばれた参加者の多くを明らかに上回っていた。NFLチームから唯一参加していたニューイングランド・ペイトリオッツのスカウトの目を引いたのも当然のことかもしれない。
マーシャルはペイトリオッツのスカウトとのやりとりについて「“いい感じに見える。運動能力が高そうだ。まだプレーできるように見えるよ”と彼は言った。最高のフィードバックさ。特に、運動能力を見てくれたところが。人が俺について心配するのが多分そこだからだ。彼にはまだ運動能力があるか? ってね」と明かした。
「自分にはあると分かっていた。でも、俺が知っているかどうかなんて関係ない。それは俺がテープに込められることだ」
HUBフットボールは現在の形で4回のキャンプを実施し、4分の1ほどの参加者が何らかの契約を結んだ。その中には、先日アリゾナ・カーディナルスに加わったディフェンシブエンド/アウトサイドラインバッカーのジャメル・ガルシア・ウイリアムスがいる。まだ独自のスカウトを好む人事担当者はいるものの、ジェネラルマネジャー(GM)やスカウトの中ではHUBキャンプが有用だとの認識が生まれつつある。
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