ブラウンズQBワトソンへの裁定が下り、対応を試されるNFL
2022年08月02日(火) 15:38現地1日(月)、懲戒責任者のスー・L・ロビンソンがクリーブランド・ブラウンズのクオーターバック(QB)デショーン・ワトソンに6試合の出場停止処分を下した数時間後、NFLはスタッフに覚書を送った。その中でNFLは“あらゆる形態の家庭内暴力と性的暴行に反対する立場である”ことを断言している。
これから数日間、NFLはその言葉に含まれる行動を示す機会を得る。
月曜夜まで、NFLはNFLPA(NFL選手会)と団体労働協約(CBA)で合意した通り、ロビンソンの判決を不服とするかどうかを検討していた。不服を申し立てる場合は、NFLコミッショナーのロジャー・グッデルあるいは彼が指名する人物が対応することになっている。NFLは少なくとも1年間の出場停止処分を求めていたため、上訴せずに6試合という処分を認めることは、女性の幸福に配慮するというNFLの主張が損なわれることにつながる。処分を厳格化すれば、ほぼ間違いなく選手会から訴訟を起こされるだろう。それはよく使われる方策であり、その結果として、個人行動規範の違反に対して懲戒処分を課すコミッショナーの権限を裁判所が強化した例は過去に何度もあった。しかし、訴訟を起こせば、ロビンソンが略奪的行為という言葉を用いて説明したワトソンの行為が何週間にもわたってトップニュースになり続けることになる。NFLはフットボールに焦点が当てられることを確実に望むはずだ。
一方で、ロビンソンの裁定文にある内容ほど重要なものはない。ロビンソンは裁定文に、“ワトソン氏が報告書で特定された4人のセラピストに対して(NFLの定義による)性的暴行を働いたことを、きわめて多数の証拠をもって”NFLが証明したと記している。
この部分は読み返すべきだ。ワトソンは性加害行為を繰り返していた。その事実を踏まえると、出場停止処分が6試合にとどまったのは不可解であり、この事件に関わったすべての人々が失望したに違いない。
ロビンソンがワトソンの行動を略奪的で性的暴行に相当すると述べたことを考えると、この裁定はいささか信じられるものではないが、ロビンソンはワトソンの行為に暴力性はなかったと強調し、それが6試合という結果に落ち着いた要因だとしている。これは望まれない性的接触を引き起こすことが被害者に対する暴力とは言えないということを意味しているに過ぎない。
NFLは少なくとも1年間の無期限停止を要求したが、ロビンソンはこれを拒否。そうした長期間の出場停止処分は選手から何が期待され、どのような影響が出るのかについての公平な告知が選手になされないまま、NFLの文化の“劇的な変化”を象徴することになるとの考えから、6試合の出場停止という結論を出している。つまり、ロビンソンは他の事例による判例に頼ったのだ。とはいえ、告発の量を鑑みれば、ワトソンのケースに類似するものはないと言える。ロビンソンには、もともと民事訴訟で告発された24件のうち4件が提示された。ロビンソンが依拠した判例には、複数の被害者がいたわけではない。さらに重要なのは、それらの判例のいくつかはMe Too運動によって女性への暴力やハラスメントに対する昨今の認識が生まれる以前のものだったということだ。例えば、ニューオーリンズ・セインツのクオーターバック(QB)ジェイミス・ウィンストンは過去に、女性に不適切に触ったとして3試合の出場停止処分を受けている。このときの被害女性は1人だ。今回のように性的暴行の被害者が4人もいるケースで、かなり長い出場停止処分を下すことは“劇的な変化”と言えないのではないだろうか。
ロビンソンの裁定に対するNFLの対応はリーグにとって重要なリトマス試験紙となる。リーグには2014年にレイ・ライスがホテルのエレベーター内でフィアンセを殴り倒して以来、女性が関連するこれほど注目される大きな問題はなかった。この件への悲惨な対応は、リーグ史でも最悪の部類に入るものだった。ライスは当初、わずか2試合の出場停止処分を言い渡されていたが、事件の様子を捉えたビデオが公開された後、NFLはライスに無期限の出場停止処分を科し、実質的にそのキャリアは閉ざされた。ロビンソンはNFLが公の批判に反応することがしばしばあると指摘する際、ライスのケースに触れている。もちろん、それはすべてのビジネスに言えることだ。
ライスへのアプローチによって、NFLの無知と――さらに悪いことに――冷酷さが浮き彫りになり、それが改善されたことを示す必要がある。NFLがワトソンの手をぴしゃりと叩いて叱責することで満足するのであれば、その後に取り組まれてきた家庭内暴力や職場でのハラスメントをなくすための公的および私的なプログラムや、女性史月間を記念する活動などはなかったことになるかもしれない。
ワトソンの一件で、リーグには新たな善意を示すための根拠が大量に与えられている。ロビンソンは今回の件は非暴力の性行為だと述べる一方、ワトソンの振る舞いのパターンはNFLが以前に調査したものよりひどいものだとしている。ワトソンの弁護士は軽薄に、ただ一人の男性がマッサージで“ハッピーエンディング”(最後に行われる性的な接触)を求めただけだとしていたが、そういったものではないのだ。それにもかかわらず、ロビンソン判事が同じく指摘しているように、ワトソン側からは公に反省の意思が表明されていない。
ライスの件の余波が続く中、ある長年のチームオーナーが状況をこう要約した。なぜNFLは女性を殴った男性に優しく接するのか? NFLは厳しく罰し、選手会が望むのであれば選手会に虐待者への対処をさせるべきだと。NFLはそういった戦いを恐れてはいけないと、このオーナーは語っていた。
ライスが上訴した後、ライスと選手会は復職を勝ち取ったものの、ライスがNFLでプレーすることはもうなかった。ロビンソンは事後にペナルティを変更することは不公平だと論じる際、ライスの件における調停者の決断を引用している。
だからと言って、NFLが家庭内暴力や性的暴行にあらゆる形で強く反対していることを証明するのを妨げるべきではない。ロビンソン判事は少なくとも月曜日に下した裁定の中で、一つのことを適切に把握している。すなわち、NFLはその文化に“劇的な変化”をもたらそうとしているようだ。
しかし、その歩みは大幅に遅れている。
【RA/A】