コラム

最新スタジアムを見舞うトラブル

2017年06月04日(日) 14:05


イングルウッドのハリウッド・パーク【2016年1月13日、AP Photo/Damian Dovarganes, File】

ラムズとチャージャーズの新本拠地となるべく進められているロサンゼルスの新スタジアム建設に遅れが生じ、開業が1年遅れることが明らかになって波紋が広がっている。さらにNFLの最新スタジアムには他にも問題を抱えているところもあるようだ。

まずラムズとチャージャーズに関していえば、ロサンゼルス国際空港から約5kmの距離にあるイングルウッドにロサンゼルス・スタジアム・アット・ハリウッド・パークが建設されている。建設費26億ドル(約2,860億円)超というこのスタジアムが完成すれば屋内型で収容人数7万人の大型スタジアムになる予定だ。当初の予定では2019年シーズンから両チームが使用することになっていたのである。

それが5月11日、完成が1年先延ばしになることが発表されたのだ。ラムズは声明で「残念だが、この冬、南カリフォルニアは記録的な豪雨に見舞われた。この地域の干ばつ被害が軽減されたのは良いことだが、降雨の影響で工事の一部である掘削作業が滞ってしまった。その結果、今年の1月初旬から3月初旬にかけての工程に重大な遅れが生じた」と説明している。実際、同地域では昨年11月から今年2月に例年の2倍以上にあたる約39cmの降水量を記録したということだ。

この開業延期でまず心配されるのが両チームの経営への影響である。より深刻と捉えられているのがチャージャーズ。チャージャーズはロサンゼルス移転初年度の今シーズンからロサンゼルス市近郊のカーソンにあるスタブハブ・センターを仮の本拠地として使用する予定だ。ただ同スタジアムはサッカー専用スタジアムとして建設されたもので、もともとは2万7,000人、拡張後も約3万人しか収容できない。とてもNFLで使用するには適正な規模とはいえず、これまでより収益力が大幅に低下するだろうと懸念の声が出ていた。それが新スタジアムの延期によって使用期間が1年延びることになったのである。不安の声が高まるのも当然だろう。

一方、ラムズは9万人収容のロサンゼルス・メモリアル・コロシアムと使用契約を結んでおり、やはり使用契約が1年延長される模様だ。収容人数的には問題ないものの、同スタジアムが建設されたのは1923年、古さは否めない。現代のスタジアムには不可欠なラグジュアリーボックスなどの施設がなく、やはり収益力に欠けると言わざるを得ないだろう。開設以来、同スタジアムをホームとする南カリフォルニア大学が2億7,000万ドル(約275億8,600万円)規模のリノベーションを予定しているが、ラムズにとって恩恵は薄そうだ。

また、ラムズに意外な影響をもたらす可能性があるのが、中国でのレギュラーシーズンゲーム開催である。NFLはロサンゼルス移転に伴う義務としてラムズ参加で2018年に中国でレギュラーシーズンゲームを開催する計画を発表していた。実際に開催するかどうかの判断期限は今年5月末とされていたが、スケジュールや開催のタイミングの課題から6月末に先延ばしされている。それとともに、新スタジアム開業延期によって2019年にラムズが参加することも可能と明らかにされたのである。

ラムズとチャージャーズ、さらに地元コミュニティにとっては、2021年に行われる第55回スーパーボウルの開催地がタンパに移され、1年後の第56回に変更されたことはショックだったに違いない。新スタジアムの遅れはこれほどまでに影響を与えるのである。

ロサンゼルスほどではないにしろ、やはり建設に遅れが出ているのが今年開業予定のファルコンズの新本拠地、メルセデス・ベンツ・スタジアムである。収容人数7万1,000人、幾何学的形状とカメラのレンズのように開閉する屋根が特徴的な同スタジアムは15億ドル(約1,650億円)の建設費をかけ、アトランタのダウンタウンに建設中だ。

ただ、南部には珍しい雪やハイウェイの崩壊、火災などの影響のため、やはり建設に遅れが生じているのである。とはいえロサンゼルスほど深刻ではなく、遅れは1カ月ほどになる見込みで、ファルコンズのリッチ・マッケイ社長兼CEOは8月26日に開催予定のプレシーズンゲーム、カーディナルス戦までには準備が整うと明言した。その一方でファルコンズに先立ち、やはり同スタジアムを本拠地とするプロサッカーMLSのアトランタ・ユナイテッドが8月に開催予定だった3つのゲームを順延している。アメリカでは新しいスタジアムやアリーナを開業する際、参加人数が少ないイベントや単発のイベントを開催してから本格開業に入るソフトスタート方式がとられることが多いが、同スタジアムではいきなり本スタートとなりそうだ。

昨年に開業したばかりで、来年2月の第52回スーパーボウルの開催地であるバイキングズの本拠地、U.S.バンク・スタジアムにも数々の不具合に見舞われている。11億ドル(約1,210億円)をかけて完成した同スタジアムは亜鉛製パネルで外壁が覆われていることが特徴の屋内型スタジアムだ。地元テレビ局『FOX6』によれば、その外壁パネルが12月の嵐によって何枚か壊れ、1枚は地面に落下したとのこと。さらに昨年夏には暑さで建て付けが緩んだパネルもあったという。また除湿パネルに結露が生じ、交換にすでに数百万ドル支払ってもいる。

同スタジアムを所有するミネソタスポーツ施設局は安全を最優先に修理改善に取り組むということだ。

わたなべ・ふみとし

渡辺 史敏
兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。