コラム

人気と年収、2つのランキングから見るNFL

2017年06月18日(日) 09:52

インディアナポリス・コルツのアンドリュー・ラック【AP Photo/Michael Conroy】

5月30日にスポーツ専門局『ESPN』が世界のスポーツ選手の有名度をランク付けした“ワールドフェイム100”を、さらに6月7日には経済誌フォーブスが世界のスポーツ選手の年収ランキングを発表した。この2つのランキングにおけるNFL選手を見るとなかなかに興味深い。

まずESPNのランキングだが、つまりはどれだけ世界的に人気があるか、ということだ。ESPNはこれを広告出演やスポンサー契約による宣伝収入、3つの大手ソーシャルメディア『Facebook(フェイスブック)』、『Instagram(インスタグラム)』、『Twitter(ツイッター)』のフォロワー数という4つの指標を設けてランキング化している。

NFL選手は21位のトム・ブレイディ(ペイトリオッツ)を筆頭に、47位のキャム・ニュートン(パンサーズ)、52位のドリュー・ブリーズ(セインツ)、55位のラッセル・ウィルソン(シーホークス)など8人がランクイン。8人中上位6人は全てクオーターバック(QB)だ。QB以外では64位のオデル・ベッカム(ジャイアンツ)がワイドレシーバー(WR)、74位のJ.J.ワット(テキサンズ)がディフェンシブエンド(DE)である。

NFL選手のランクが以外と低いと感じる人も多いのではないだろうか。これはやはり北米ではNFLの人気は抜きんでたものとなっているが世界的に見るとまだ人気拡大の余地があるといえるかもしれない。

NFLでトップのブレイディの場合宣伝収入が800万ドルあり、インスタグラムのフォロワーが200万人、フェイスブックが430万人いるものの、ツイッターのアカウントを持っていない。対して2年連続1位となったサッカー、クリスティアーノ・ロナウドは宣伝収入が3,200万ドルあり、インスタグラムのフォロワーが9,300万人、フェイスブックに至っては1億1,810万人もフォロワーがいる。一桁違うのである。ちなみにテニスの錦織圭はソーシャルメディアのフォロワー数は少ないものの、宣伝収入が3,000万ドルあるため、ブレイディよりも1つ上の20位に入っている。

ランクインしたNFL選手の中で最もソーシャルメディアのフォロワー数の合計が多いのはベッカムで、特にインスタグラムが780万人と突出している。ファッションなどでも注目を集めるベッカムらしいといえるだろう。

対してNFL選手の存在感がぐっと増すのがフォーブスの年収ランキングである。これは昨年の年俸、賞金による収入とやはり宣伝収入を同誌が独自に推定し、合計した額を順位付けしたもの。NFLでランクインした選手は15人で、これはNBAの32人、MLBの22人に続く。

NFLで最も年収が多かったとされたのはコルツのQBアンドリュー・ラックで5,000万ドル、これは全体でも6位という高収入である。ラックは昨年5年総額1億2,300万ドルで契約を更新しており、その契約ボーナス3,200万ドルが収入を押し上げる要因となった。ちなみに全体で最も年収が多かったのされたのはやはりロナウドで、実に9,300万ドルに上っている。

NFLで2番目に年収が多かったのはブリーズで4,530万ドル、全体で11位だった。ブリーズの場合年俸が3,130万ドルに対し、宣伝収入が1,400万ドルあったとされている。これはラックの300万ドルの4倍以上であり、今回ランクインしたNFL選手の中で最も多い。またニュートンの宣伝収入も1,300万ドルあり、ブリーズに次ぐ。宣伝収入は選手にとって相当に重要であり、人気を得ることは大切なのだ。

ポジション別で見てみると、やはりQBが4人で最も多いが、ラインバッカー(LB)が3人入っている他、ディフェンシブタックル(DT)のフレッチャー・コックス(イーグルス)が3,330万ドルでNFLとしては3番目に多い27位に入るなど、ディフェンスの選手が8人を占めている点にも注目したい。

こうした中、とても興味深いのがESPNの有名度ランキングでNFLトップになったブレイディがフォーブスの年収ランキングでは100位以内に入っていないことである。5度目のスーパーボウル優勝を果たし、4回目のスーパーボウルMVPを受賞した昨シーズンの活躍を見ると意外かもしれない。しかし、昨年、ブレイディがおかれた状況を見れば納得できる。

ブレイディは昨年2月、2018年、2019年の2年間について契約ボーナス2,800万ドルを含む総額4,410万ドルで契約を延長した。しかしながら、昨年の12カ月間にチームがブレイディに支払ったのはわずか76万4,705ドルだけだったのである。もともと年俸は100万ドルに設定されていたが、いわゆるデフレゲート事件による4試合の出場停止処分によって、23万5,295ドルが支払い停止となり減額されたのだ。こうした契約上の支払い設定と出場停止処分の影響が重なって、にわかには信じられないほどの年収と判定されたというわけだ。

このように人気と年収からNFLの現在の状況について、さまざまなことが読み解けるのである。

わたなべ・ふみとし

渡辺 史敏
兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。