コラム

前評判急上昇のタイタンズ、それを支えるGMの再建計画

2017年06月25日(日) 04:59


テネシー・タイタンズの本拠地ニッサン・スタジアム【Aaron M. Sprecher via AP】

ミニキャンプが終わり、NFLは各チームでトレーニングキャンプまでの束の間のオフに入る。この時期はフリーエージェント(FA)などの動きも比較的静かで、ヘッドコーチ(HC)をはじめ、球団幹部も休暇を楽しむことができる。

フランチャイズ指名選手との契約やFAでの補強は依然として続くが、この時期に活動が沈静化するのはチーム建設がほぼ終了したことを意味する。

今季の展望を占うにはまだ早すぎるとはいえ、それでもすでに注目されるチームもいくつかある。タイタンズもその一つだ。

昨季のタイタンズはテキサンズと並ぶ9勝7敗の成績をあげた。残念ながらディビジョン内成績が2勝4敗と振るわずにAFC南地区優勝はテキサンズに譲り、プレーオフ出場はかなわなかったが、それでもその前の2シーズンが合計5勝27敗だったことを考えれば大きな躍進だ。

この急速な改善でマイク・ムラーキーHCと共に手腕が評価されているのがジェネラルマネジャー(GM)を務めるジョン・ロビンソンだ。

ロビンソンはペイトリオッツやバッカニアーズで人事畑を歩んだ後、2016年1月に就任した。HC代行だったムラーキーが正式な指揮官に任命された直後である。ムラーキーが打ち出した“よりフィジカルなチームを作る”との方針に沿ったチーム補強を行うことになる。

まず手始めに行ったのがランニングバック(RB)デマルコ・マレーのトレードによる獲得だ。このトレードは当初、批判も浴びた。カウボーイズに在籍していた2014年シーズンに1,845ヤードを走ってリーディングラッシャーとなったものの、イーグルスでは不振に陥っていたからだ。「カウボーイズの強力なOLがいたからこその実績」と揶揄される状況だった。

ドラフト4巡指名権の交換という、比較的リスクの少ない対価ではあったものの、当時400万ドルと言われたマレーの年俸をそのまま引き継ぐ契約には疑問も投げかけられた。

しかし、結論から言うとマレー獲得は正解だった。AFCトップとなる1,287ヤードを走り、ムラーキーの目指すフィジカルフットボールを体現する形となったのだ。

もっとも、ロビンソンがマレーの活躍できる環境を整えるために腐心した事実も忘れてはならない。ロビンソンはFAでセンター(C)ベン・ジョーンズを獲得し、ドラフト1巡でライトタックル(RT)ジャック・コックリンを指名してオフェンスラインを整備した。レフトタックル(LT)テイラー・ルワンがプロボウルに選出されるほどの活躍を見せたこともあり、弱点だったオフェンスラインは一転してチームの柱となった。

昨年のドラフトでも驚くべき方策を使った。全体1位指名権をあっさりとイーグルスにトレードしたのだ。イーグルスがクオーターバック(QB)を必要としていた事情を巧みに利用し、ラムズに1巡、4巡、6巡の指名権を譲渡し、代わりに1巡(全体15番目)、2つの2巡指名権、3巡、今年の1巡および3巡指名権を手に入れている。

さらにトレード当日にはブラウンズとの1巡指名権交換で全体の8番指名に繰り上げてコックリンを指名。今年はふたつあった1巡指名権を即戦力と評されるコーリー・デイビス(ウェスタンミシガン大学)とコーナーバック(CB)アドリー・ジャクソン(USC)に行使した。3巡ではワイドレシーバー(WR)タイワン・テイラー(ウェスタンケンタッキー大学)とタイトエンド(TE)ジョヌー・スミス(フロリダインターナショナル大学)を指名して、人材不足のレシーバー陣を補強した。

今年のオフも最近になってジェッツから解雇されたWRエリック・デッカーを獲得したほか、ペイトリオッツからCBローガン・ライアンを、ジャガーズからはセーフティ(S)ジョナサン・サイプリーンを引き抜いた。ドラフトとFA、トレードをうまく組み合わせた補強ができている。

昨年の躍進に加えて今年の補強策がいい結果を生めば今年のタイタンズは昨年のレイダーズのように台風の目となるかもしれない。テキサンズが新人QBデショーン・ワトソンへの切り替えでやや停滞することが予想され、コルツはQBアンドリュー・ラックの復帰時期がまだ見えない。ジャガーズは積極的に補強を行っているものの、ダグ・マローンHC体制はまだ1年目だ。こうした状況ではタイタンズが大きく有利だ。ナッシュビルのファンが2004年から長く待ちわびるポストシーズンはもはや射程圏内だ。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。