ブロンコスQB争いの中、再評価されるマッコイの手腕
2017年06月17日(土) 10:32スーパーボウル制覇から2年連続してブロンコスではオフシーズンに先発クオーターバック(QB)争いが繰り広げられている。開幕先発の座を争うのは去年と同じくトレバー・シーミアンとパックストン・リンチだ。
昨年の今頃はOTAやミニキャンプで正確なパスを披露したシーミアンが一歩リードする展開だったが、ともにレギュラーシーズンの経験を経た今、ほぼ互角だと言っていい。裏を返せば、どちらもバンス・ジョセフ新ヘッドコーチ(HC)に早期決断を下す根拠を示せないでいる。
ジョセフは「2人とも良くなっている。まだ学ぶことが多すぎて正確な評価をすることは難しい。いいパスもあればひどいパスもある状態だ」述べるにとどめた。現在行われているミニキャンプではシーミアンもリンチも首脳陣を驚かせるようなロングパスを決めたかと思うと、別のプレーでは目を覆いたくなるようなミスを犯すといった様子で、好不調の波が大きいようだ。
この2人ではプレースタイルも異なる。シーミアンはポケットパサーでショートからミドルレンジのパスで正確さを見せる。一方のリンチは機動力があり、ロングパスを投げる肩の強さも持つが精度に欠けるのが難点だ。
2人の競争が横並びなのは、ともに新しいオフェンスシステムを学ばなければならないからでもある。その点、シーミアンがグレッグ・ナップ前QBコーチのシステムに慣れていた昨年と事情が違う。今季からオフェンスを構築するのは5年ぶりにブロンコスの攻撃コーディネーターに復帰したマイク・マッコイだ。
マッコイは2000年代初めにパンサーズでコーチデビューを果たし、QBコーチや攻撃コーディネーターを歴任した後、2009年にブロンコスにコーディネーター兼QBコーチとして招かれた。翌年には彼を見いだしたジョン・フォックスがブロンコスのHCとなり、マッコイもコーディネーターに専念するようになる。
2012年シーズン限りで退団するまでの4年間でマッコイは実に3人の異なる先発QBを起用してきた。2009年から2010年はカイル・オートン、2011年はティム・ティーボウ、そして2012年は前年の全休シーズン後にコルツから移籍してきたペイトン・マニングだ。
ベアーズでポジション争いに敗れてブロンコスに流れてきたオートンはマッコイの指導の下で開花した。パスによる獲得距離(3,802ヤード)とタッチダウンパス(21)のキャリアベストは2009年に記録したものだ。
そのオートンが2011年に不振に陥り、代わって登用したのがティーボウだった。前年にジョシュ・マクダニエルズHC(当時)が半ば強引に1巡指名した選手だったが、パスはプロのレベルではなかった。マッコイはティーボウにパスをほとんど投げさせないという破天荒なゲームプランを実行し、それが功を奏した。ティーボウは先発昇格から6連勝をはさむ7勝4敗の成績で、チームのプレーオフ進出に貢献したのだった。このシーズンのティーボウのパス成功率は46.5%に過ぎない。マッコイがいかにゲームプランニングに苦心したかは想像に難くない。
翌年はマニングが入団したとはいえ、首の故障がどこまで癒えたかは不透明な状態だった。マニングもマッコイも1試合ごとの状況を見ながらオフェンスを組み立てていく、まさに手探りの状態であったろう。
QBの人材に必ずしも恵まれていない環境で結果を残したマッコイの手腕は高く評価された。それが、2013年のチャージャーズのHC就任に結びついたのだった。
ただし、結論から言うとHCとしては今一つ成果をあげられなかった。初年度こそチームをプレーオフに導いたが、その後はポストシーズンには届かず、昨季限りで解任された。
マッコイの長所は指導するQBのタイプに合わせてオフェンススキームを柔軟に変えることができる点だ。自分のオフェンススタイルに選手を合わせるコーディネーターが多い中で、この姿勢は異例だ。それだけにいろんなタイプのQBに対応できる。
既述の通りシーミアンとパックストンはそれぞれでタイプが違う。しかし、マッコイの引き出しの多さはそれぞれの良さを引き出すに十分だ。先発QBを決める上で何が決め手になるかジョセフの決断次第だが、ひとたびスターターが決まればマッコイはそれに合わせたスキームを構築する。煩雑な業務に追われるHCから解放され、オフェンスに専念できる職務に戻った今、マッコイの手腕には大きな期待がかかる。
いけざわ・ひろし
- 生沢 浩
- 1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。