NFLプレーヤー兼クリエーターの顔を持つマーテラス・ベネット
2017年07月16日(日) 11:39グリーンベイ・パッカーズのタイトエンド(TE)マーテラス・ベネットがフィールド外の活動で注目を集めている。クリエーターと起業家としての姿だ。
今年、NFLで10年目を迎えるベテランのベネットはカウボーイズを皮切りにこれまでジャイアンツやベアーズなど5チームを渡り歩いてきた。いずれも先発として活躍し、昨シーズンに所属したペイトリオッツでは55パスレシーブ、自己最多の5タッチダウンを記録している。特に第51回スーパーボウルでは5キャッチで62ヤードを獲得しただけでなく、オーバータイムにはエンドゾーンでパスインターフェアを誘い、2プレー後にランニングバック(RB)ジェームズ・ホワイトが決勝タッチダウンを挙げるお膳立てをした。今年3月には3年総額2,100万ドルでパッカーズに入団している。
そんなベネットが『Imagination Agency(イマジネーション・エージェンシー)』というマルチメディア制作会社を起ち上げたのは3年半前のこと。当初の設立目的は意外にもインタラクティブな子供向け絵本とアプリの制作だったという。そのきっかけについてベネットは「娘が生まれて、子供向けの本をたくさん読んであげたが、彼女のような見た目のキャラクターがぜんぜんなかった。そこにあったコンテンツの中でアフリカ系アメリカ人の主人公は多くなかった。それを見て誰かが作ってくれないなら、自分がやるしかない」と広告業界誌『ADWEEK(アドウイーク)』のインタビューで語っている。
さらに「もし(映画の)ホームアローンでマコーレ・カルキンが黒人だったら? ほとんどの人が違った風に書いただろう。でも自分は同じように書きたかった」とも付け加えた。さらに「自分をフットボール選手だと思ったことはない」とする一方で「NFLに入るまで誰かのために働いたことはなかったし、誰かのために働くのはこれが最後だろう」とも話している。
娘からインスパイアされてベネットと彼の会社が創作したのがA.J.という女の子が活躍する『Hey A.J., It’s Saturday(やあA.J. 土曜日だよ)』と題した絵本とアプリなのである。このインタラクティブ絵本はその後、シリーズ化もされた。
会社は現在、プロジェクトマネジャーやCFOなど4人のフルタイムスタッフを抱え、さらに多数のフリーランスのクリエーターたちに業務を委託しているとのことだ。
「来年にはさらに多くのコンテンツとキャラクターでより多くのプロジェクトを打ち出す予定だ。今は親や子供たちからブランドの信頼を得ているところ」と語るようにベネットはビジネスの拡大を目指す。イマジネーション・エージェンシーは最近プロフットボールチームのサイドラインで働く若者を主人公にしたコミック本『Towel Boy(タオルボーイ)』を出版し、Skydiver McGuireという20センチほどの子供向けフィギュアのデザインを手がけてもいる。またボストンの子供病院とはFootball Martyという枕の制作でコラボレーションした。衣服メーカーとは共同で子供服にも進出する予定だ。歌手で起業家のスヌープ・ドッグと歌をレコーディングしたともいう。さらにフットボールをテーマにしたGIF動画のプロジェクトもある。
こうしたクリエーターとしての活動についてベネットは「クリエイティビティはスポーツなんだ。より良いものを得るためには練習し、全ての技術をつぎ込んで働き、自分たちのゲームを良くする。クリエーターは創造性の世界で競うアスリートなんだ。クリエイティビティが競争じゃないとはこれっぽちも思わないでほしい」と話す。
さらにクリエーターとしてはフルネームを使わず“マーティ”との名を使うことについて「もっと本を売りたいけど、人々は作品と自分の作ったキャラクターが好きなんだ。(プロフットボールで)多くのことをやってきてそれで知られているけど、最初から最後まで何かを作るのは特別なんだ。これが残りの自分の人生でやりたいことだ」とも語っている。
ここまでクリエーター、起業家としての活動に力を入れていると選手としてのプレーに影響が出るのでは、と心配になるが、この点についてベネットは「イマジネーション・エージェンシーで働いたことはない。バランスをとるためだ」と打ち明けている。自分に関するほとんどの仕事はオフシーズンに行い、6カ月超におよぶトレーニングからポストシーズンに関してはフィードバックやアドバイスにとどめているとのことなので、一安心といったところだろうか。
ベネットの今シーズンの活躍と、さらにはその先のオフフィールドでの活躍に注目していきたい。
わたなべ・ふみとし
- 渡辺 史敏
- 兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。