コラム

謹慎処分から5年、グレッグ・ウィリアムズの新たな挑戦

2017年07月15日(土) 10:01

クリーブランド・ブラウンズの守備コーディネーター、グレッグ・ウィリアムズ【AP Photo/Ron Schwane】

間もなくNFLはキャンプインを迎え、2017年シーズンへの準備が本格化する。ただひとつのチームだけが手にすることのできるスーパーボウル優勝を目指し、キャンプに熱い思いをかけるのは選手だけでなく、コーチ陣も同じだ。

コーチも選手と同じく移籍をする。チームの方針や選手の能力に合わせて自身の信じるスキームを構築する苦労は並大抵ではない。今季からブラウンズの守備コーディネーターに就任したグレッグ・ウィリアムズも新天地での指導に挑戦する一人だ。

昨季1勝15敗で終わったブラウンズはヘッドコーチ(HC)を務めて1年目のヒュー・ジャクソンを残す代わりに守備コーディネーターのレイ・ホートンを解雇。その後任にラムズで同職を務めていたウィリアムズを招へいしたのだ。

ウィリアムズはパスラッシュの強いアグレッシブなディフェンスを作ることで知られ、彼の指導するディフェンスはリーグ上位にランクするという実績がある。HCとしては2001年から2003年にビルズを率いた。

ただし、彼が最も広く知られているのはセインツでの“報酬制度”を主導して1年間の資格停止処分を受けたためだろう。2012年、ウィリアムズが2009年から3シーズンの間、守備コーディネーターを務めたセインツで、相手にダメージを与えるプレーをした選手に特別報酬を与える制度を導入していたことが発覚した。

“報酬制度”が発覚した時にすでにウィリアムズはセインツを退団し、彼の盟友であるジェフ・フィッシャーがHCとなったラムズの守備コーディネーターに就任することが決まっていた。しかし、NFLの倫理規約に違反する行為であり、これに深くかかわった責任を問われてウィリアムズはセインツのHCショーン・ペイトンと共に2012年シーズンの資格をはく奪された。新チームに移籍しながらその職を全うできなかったのだ。

相手チームの選手にケガを負わせることを奨励したと判断されても仕方のない制度を採用したことで、ウィリアムズの評価は地に堕ちた。彼のそれまでの実績は違法まがいの行為に支えられていたと考えられるからだ。二度とNFLではコーチ活動ができないとまで噂された。

しかし、NFLはウィリアムズに第2のチャンスを与えた。復権後、ウィリアムズはタイタンズで1年間ディフェンスのシニアアシスタントコーチを務め、2014年からフィッシャーの待つラムズに移り、昨季途中で解任されたフィッシャーの下で守備コーディネーターを務めた。

ブラウンズでのウィリアムズの課題は山積している。ディフェンスの主だったスタッツはことごとくリーグ下位で、低迷そのものだった。同じAFC北地区に所属するチームはスティーラーズ、ベンガルズ、レイブンズと強豪ぞろいでそれぞれに優秀なオフェンスを持つ。ウィリアムズの得意とするアグレッシブなディフェンスが必要とされるが、それを実現するだけの人材がそろっているとはいえない。

もっとも、今年のドラフトでは全体1位指名のディフェンシブエンド(DE)マイルズ・ギャレットを始め、セーフティ(S)ジェイブリル・ペッパーズ、ディフェンシブタックル(DT)ラリー・オグンジョビ、コーナーバック(CB)ハワード・ウィルソンらディフェンスで新しい人材を確保した。人材育成に定評のあるウィリアムズには育て甲斐のある若手が揃ったといえる。ことに、新人で最高の逸材との呼び声が高いギャレットの活用法はすでにいろいろと考えていることだろう。

キャンプはウィリアムズのディフェンスシステムを導入し、それを実現できる選手を見極める時期だ。現有戦力は必ずしも十分ではないかもしれないが、セロからのスタートもまた実績あるウィリアムズには手腕を発揮するに格好の舞台かも知れない。“報酬制度”の悪評を過去のものとし、名声を再構築するにはこのチャンスを逃してはならない。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。