コラム

ジェッツ、三つ巴のQB争い - 三者三様のジレンマ

2018年08月12日(日) 08:52

ニューヨーク・ジェッツのビラル・パウエルとテディ・ブリッジウォーター【AP Photo/Bill Kostroun】

AFC東地区で最も長くプレーオフから遠ざかっているジェッツで、3人による先発クオーターバック(QB)争いが繰り広げられている。2010年を最後にポストシーズンとは縁がないジェッツはフランチャイズQBと呼べる存在にしばらく出会っていない。そして、開幕まで約1カ月を切った現在でも誰が司令塔になるのかは見通しが立っていない。

ポジションを争うのは昨年のスターターであるジョシュ・マッカウン、バイキングスから移籍したテディ・ブリッジウォーター、そしてドラフト1巡全体3位指名のサム・ダーノルド。

ジェッツが最も期待をかけているのは言うまでもなくダーノルドだ。名門USCで2年間スターターを務め、計57個のタッチダウンパスを記録した。昨年の今頃はハイズマントロフィー受賞の最有力選手の1人だった。

今年のドラフトでも全体1位指名の候補に挙がっていたものの、彼の実力を計る材料が2シーズンしかないことや昨季のパフォーマンスが1年目に比べてやや劣ったことからトッド・ボウルズHC(ヘッドコーチ)も実戦投入のタイミングを決めかねている。

キャンプはまだ始まったばかりで、ダーノルドも真のNFLのスピードに触れていない。4試合のプレシーズンゲームでカレッジとは違うスピードやパワーを味わうことになる。

現時点で一歩リードしているのはマッカウンか。昨年はシーズン第15週で左手を骨折し、シーズン半ばで終了してしまったが、2,926ヤードパッシングと18タッチダウンパスはいずれもキャリア最高成績だった。オフェンスシステムは把握しているし、レシーバーとの呼吸もあっているので妥当な選択だ。

しかし、今季16年目で7月に39歳になったばかり。昨季終了後には引退も示唆したほどのベテランだ。今さらフランチャイズQBとはなるはずもない。

残るはブリッジウォーターだが、こちらは実質2年半におよぶブランクが懸念材料だ。ブリッジウォーターは2年前にキャンプの練習中に左足のACLを断裂し、さらに膝を脱臼する重傷を負った。選手生命すら危ぶまれるケガだった。

昨シーズン中盤にわずかに試合復帰を果たしたが、本格的な試合は2015年以来となる。ブリッジウォーターは「体調に心配はない。トレーニングスタッフと一緒に管理しているし、激しい当たりにも取り組んでいる。プレシーズンゲームが楽しみだ」と完全回復を強調する。

それでも、故障後に相手チームからの本気のタックルを受けたことはない。体のキレも完全には戻っておらず、そのために3人のQBの中では練習量が一番多い。パスの感覚を取り戻し、レシーバーとのコンビネーションを確立するためだ。

ジェッツとしてはブリッジウォーターを先発させて勝ち星をとり、マッカウンがダーノルドをマンツーマンで指導するというシナリオが最も望ましいかもしれない。しかし、開幕先発の座を確実にするだけの人材がまだ現れていないのも事実だ。

ボウルズはプレシーズン4試合すべてで3人を起用し、最終的に先発QBを決めると宣言している。通常はプレシーズン3戦目で先発陣が揃って出場し、開幕までの最終調整をするのが一般的だ。にもかかわらず、4戦終了までQBを決めないということは本当に決断する材料に乏しいのだろう。

マッカウン、ブリッジウォーター、ダーノルドの3人にはそれぞれにチームが寄せる期待がある。それと同時に三者三様の事情もあり、それがマイナス要因になっている。あとひと月の間にそのマイナス要因を払しょくしてハドルの中央に陣取るのは誰か。ここでも激しいQB争いが展開している。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。