コラム

トレーニングキャンプのビジネス活用

2018年08月12日(日) 22:03

ダラス・カウボーイズのエゼキエル・エリオットとゼイビア・ウッズ、バイロン・ジョーンズ【James D. Smith via AP】

現在、NFL各チームが行っているトレーニングキャンプは、選手にとっては開幕ロスター入りを目指すサバイバル競争の場だが、チームにとってはさまざまなビジネス機会の場でもある。

まず挙げられるのがファン獲得だ。その典型といえるのがカウボーイズである。カウボーイズはキャンプの前半をテキサス州から遠く離れたロサンゼルスの北西約100kmに位置するカリフォルニア州オクスナードで実施している。8月18日以降はテキサス州フリスコのチーム本部に移る。

カウボーイズがカリフォルニアでキャンプを実施するようになったのは1963年からだが、当初はテキサスの湿度の高さを逃れるためだったという。しかし、シャーロット・ジョーンズ・アンダーソン副社長は「今はそれ以上の意味がある」と語る。カルフォルニアでキャンプを張ることでテキサスを越えた広大な地域からファンが見学に来るからだ。昨年、オクスナードのキャンプにはアメリカ46州とメキシコやニュージーランドなど4つの国から5万5,400人以上が集まったとのこと。カウボーイズがアメリカズチームと呼ばれる一因と言えよう。ジョーンズ・アンダーソン副社長も「ファン基盤を拡大し、成長させる大きなチャンスとなっている」と認める。

広大な地域よりも、地元地域でのファン層拡大を狙ってキャンプ地を選んでいるのがラムズとチャージャーズだ。ラムズはチーム本部から約130kmの距離にあるカリフォルニア大学アーバイン校に、チャージャーズは拠点から30kmほど離れたコスタメサのスポーツ複合施設をキャンプ地にしている。共にロサンゼルスの大都市圏の中だ。両チームともロサンゼルスに移転して日が浅く、地元ファン層の構築に勤しまなければならない事情がある。そうした点においてファンが選手たちと近い距離で触れあうことができるキャンプは絶好の機会となるのだ。チャージャーズの場合、4つのフィールドを借りているものの、うち2つは練習用ではなく、プレーや練習を模した体験型アトラクションにあてているという。

一方で近年はチーム本部のアンダーアーマー・パフォーマンスセンターでキャンプを張るレイブンズのように大学やスポーツ複合施設ではなく、チーム本部でキャンプを実施するのがトレンドとなっている。2000年には10チームだけだったが、今年は過半数の21チームとなった。

チーム本部でキャンプを行うことのメリットはさまざまだ。まず莫大なコストをかけてチーム本部の機能を移す必要がなく、使い慣れた施設を使用することができる。さらに負傷者が出た場合にもチームが普段利用している医師や医療施設が利用可能だ。

ファンサービスにおいても地元ファンが見に来やすいという点があげられる。特にシーズンチケット保持者へのサービスになると語るのがシーホークスのジェフ・リチャーズ副社長だ。シーホークスではシーズンチケット保持者とチケット購入待ちとなっているファンだけがキャンプを見学できる日を特典として設けているのだ。バッカニアーズも同様のサービスを行っている。またレイダースは基本的にキャンプを一般公開していないものの、シーズンチケット保持者と慈善団体にのみ見学を許可している。

こうしたキャンプの見学はバイキングスが練習フィールドとして使用するスタジアムで20ドルの座席指定を設けているものの、それ以外は基本的に無料だ。これは昔からの慣行で2000年にレッドスキンズが入場料をとったことがあるが、1年限りで廃止された。ただし、収容人数の問題もあり、無料のオンラインチケットを手に入れなければならないチームもある。また、多くのチームが駐車場代をとっている。

ではキャンプによる大きな収入源は何か。まず挙げられるのはグッズ販売だ。どのキャンプでも大型のチームストアのテントが設けられ、ジャージーはもちろん、さまざまなキャンプ専用グッズが販売されているのである。

さらにジャイアンツのトヨタや、49ersのSAPのように25チームがキャンプに冠スポンサーがついている。さらにスポンサーなどを対象にした専用テント設置といったVIPサービスも展開されているのだ。

このように各チームはトレーニングキャンプを人気拡大、ビジネスの拡大の貴重な機会として活用しているのである。

わたなべ・ふみとし

渡辺 史敏
兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。