コラム

カーソン・ウェンツ、開幕戦に意欲もイーグルスは慎重

2018年08月17日(金) 08:38

フィラデルフィア・イーグルスのカーソン・ウェンツ【AP Photo/Eric Gay】

スーパーボウル王者のイーグルスは現地9月6日(木)に行われるサーズデーナイトゲームでファルコンズと対戦し、タイトル防衛に挑むシーズンの幕を切って落とす。最大の注目は3年目を迎えるエースクオーターバック(QB)カーソン・ウェンツが先発に復帰できるのか否かだ。

ウェンツは昨季第14週に左膝のACL(前十字靱帯)とLCL(外側側副靱帯)を損傷した。翌週から先発QBがニック・フォールズに代わり、失速が懸念されたにもかかわらず、シーズン中の勢いが衰えるばかりかフォールズの奮起によってチーム初のスーパーボウル制覇を達成し、フォールズ自身もMVPに選ばれる活躍を見せたのは記憶に新しい。

一気に評価を上げたフォールズだがイーグルスは有効なトレード要員とすることもなく再びウェンツのバックアップとしてチームに残した。これは今季の開幕戦にウェンツが間に合わない場合に備えての措置だったことは言うまでもない。

一般的に膝の靱帯、特にACLの断裂は完治までに最短で9カ月を要するとされる。ひと昔前は1年から1年半というのが常識だったから医学の進歩によってかなり短縮された。もっとも、全治9カ月というのは一般人もしくは膝にそれほど負担のかからないアスリートのケースだ。ほかのスポーツ以上に膝に負荷のかかるアメリカンフットボールの選手ではおのずとフィールド復帰までの時間はより長くなる。

さらに故障前に近い状態に筋力や関節の柔軟度が回復するにはかなり激しいリハビリが必要となる。NFLの選手では、完全とは言わないまでも故障前のフィジカルの状態に戻すにはやはり1年は必要だ。

ウェンツは9月の開幕に間に合わせるべくオフシーズンはリハビリに努めてきた。実際にトレーニングキャンプでは序盤から故障者リスト入りを回避して参加し、チームの練習メニューをこなしている。攻守に分かれて、コンタクト禁止でありながら試合に近い形式の練習を行う11on11にすら参加して、周囲を驚かせた。

ところが、ウェンツの練習メニューは増えるどころか逆に減らされ、キャンプ第2週には別メニューをこなす時間が長くなった。もちろん、プレシーズン初戦のスティーラーズ戦(8月9日)には出場していない。

ウェンツは地元メディアの取材に対して、「もちろん開幕戦には出場したい。それを目標にオフシーズンを過ごしてきた。先発復帰には近づいている」と述べて楽観的な姿勢を強調した。

しかし、あくまでイーグルスは慎重だ。チームの医療チームは依然としてウェンツにコンタクトを伴う練習への参加を許可していない。それだけ膝はまだ危うい状態だということだ。

現状ではあと3試合を残すプレシーズンゲームに出場する可能性は低いとみられている。とすれば開幕先発も回避される可能性が高い。

ウェンツが負傷したのは昨年12月だから、9月は最短の完治期間にあたる。ただし、フットボールがコンタクトスポーツであることを考慮すれば、あと1カ月ないし2カ月は実戦復帰が遅れるのではないだろうか。

イーグルスはちょうどシーズンの折り返しにあたる第9週(11月第1週)にバイウイークが予定されている。この頃までには膝の靱帯もかなりいい状態に回復しているはずだ。無理をさせて故障が悪化するもしくは別の個所に重傷を負うなどの事態は避けたい。ここは目先の利益よりも長期的視点に立ってウェンツの将来を重視すべきだろう。

イーグルスは後半にディビジョンゲームや昨年のNFCのプレーオフ出場チーム(セインツ、ラムズ)が集中している。思い切ってウェンツを第9週まで休ませ、第10週のカウボーイズ戦から投入するというのも有効だろう。その間、フォールズがしっかりとチームに勝ち星をもたらすことが大前提だが、ウェンツが長期にわたってフランチャイズQBとして活躍することを望むのであればここは決して焦るべきではない。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。