グッデルがスポーツビジネスで最も影響力のある人物に
2019年12月16日(月) 07:55スポーツビジネス・ジャーナル誌が「2019年のスポーツビジネスで最も影響力のある人物トップ50」を発表し、栄えある1位にロジャー・グッデルNFLコミッショナーが選ばれた。これはアメリカのスポーツ業界においてNFLが現在、いかに成功を収めているかを示すものだ。
2006年にグッデルがコミッショナーに就任してから14年。NFLはそのビジネスを着実に拡大してきた。グッデルの辣腕ぶりは誰もが認めるところだ。
とはいえ、全てが順調だったわけではない。家庭内暴力など選手の起こした不祥事の対応には出場停止などの処分で度々苦しめられてきた。2007年にはペイトリオッツがジェッツのベンチをビデオで撮影し、守備のシグナルを盗み見ようとしたとする「スパイゲート」事件では処分が罰金だけだったことに対して批判も受けている。2010年には同ランキングで初めて1位になったものの、翌年にはNFL選手会(NFLPA)との労使交渉がまとまらず、選手をチーム施設から閉め出すロックアウトに突入する自体ともなった。脳しんとうなど脳へのダメージをリーグが隠していたのではないかという問題は集団訴訟にまで発展したが、和解している。
近年では2016年からの2年間はNFLの人気は頂点を過ぎ、低下が始まったのではとも言われた。この年に始まった選手たちによる国歌斉唱時の人種差別に対する抗議行動がトランプ大統領をも巻き込む社会問題となったこともあり、テレビ中継の視聴率が下がり続けたのである。若者が離れているといった指摘もあった。
しかし、昨年からテレビ中継はV字回復を続けている。今シーズン、NBCが放送するサンデーナイトフットボール(SNF)が特に好調で、今シーズンも平均1900万人を超える視聴者数を記録しており、9年連続で最も視聴されたプライムタイム番組になるのは確実な情勢である。またこれまで人気が低いとされてきた、サーズデーナイトフットボール(TNF)も今シーズンは好調に推移しており、放映権を持つFoxは30秒CMの放映権料を24パーセント引き上げたと報道されているほどだ。
さらに若者対策も入念に行われている。シーズン開幕時には日本でも人気の動画系ソーシャルメディア、TikTokと提携し、コンテンツ配信を開始した。またラッパーのJay-Zが率いるエンターテイメント企業、Roc Nationとも提携、スーパーボウルなどのイベントで演出などを提供してもらうようになった。
グッデルの手腕に期待がかかる今後の課題だが、まず挙げられるのが2022年が節目となるテレビ放映契約の更新だ。ただ圧倒的な人気を誇る現状を考えると、NFLにこれまで以上の収益をもたらすものになるのはほぼ確実だろう。
一方で、現在交渉が始まっているNFLPAとの労使協定更新に関しては、まだ先が見通せない。全選手の年俸上限額を定めた現在のサラリーキャップの設定がオーナー側に有利なものになっているという不満がNFLPA側に強いこともある。さらにグッデルが熱望しているとされるレギュラーシーズンを17試合に拡大する案もケガのリスクなどもあり、NFLPAはなかなか合意しないであろう。
とはいえ、グッデルがアメリカのスポーツビジネス界にあって、抜きんでた存在感を見せていることには変わりない。
ちなみにランキングの2位はアダム・シルバーNBAコミッショナー、3位がロブ・マンフレッドMLBコミッショナー、4位がFoxのエリック・シャンクスCEOとマーク・シルバーマン社長、5位がサッカー女子アメリカ代表チームだった。
わたなべ・ふみとし
- 渡辺 史敏
- 兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。