コラム

突然に降ってわいたビデオ騒動、無実であろうとペイトリオッツは襟を正せ

2019年12月16日(月) 07:24


ニューイングランド・ペイトリオッツ【NFL】

シーズン第14週にペイトリオッツに関係するビデオクルーがブラウンズと対戦中のベンガルズのサイドラインを撮影したとしてNFLが調査に乗り出すという「事件」があった。

NFLから権限を与えられたメディアを除き、試合中(プレゲームの練習中を含む)にチームのサイドラインを撮影する行為は禁止されている。そのため、悪名高い「スパイゲート」の第2段かと騒ぐマスコミも少なくなかった。

スパイゲートとは2007年に発覚した、ペイトリオッツが相手チームのシグナルを違法に撮影していたという事件だ。ペイトリオッツは罰金を科された上に2008年のドラフト1巡指名権をはく奪された。ビル・ベリチックHC(ヘッドコーチ)も罰金を払っている。

しかし、今回はペイトリオッツ球団所属ではあってもフットボールチームとは全く関係のない、ネット番組作成チームの不手際であったようだ。ベリチックも月曜日にはフットボールチームの関与を完全否定し、球団も同様の声明を発表した。

チームの発表によれば問題となったのはペイトリオッツの公式サイトで展開する「Do Your Job」というシリーズ物の製作チームだ。公式サイトではチーム関係者の仕事を紹介するフィーチャーシリーズがあり、今回はチームのスカウトスタッフを取材していたようだ。

ペイトリオッツの取材チームは試合の主催者であるブラウンズから取材許可証を発行され、第15週のペイトリオッツの対戦相手であるベンガルズをスカウティングするチームスタッフを取材していた。その際にベンガルズのサイドラインを撮影し、それを見とがめたブラウンズの球団スタッフがNFLに通報した。

取材チームは撮影したテープを提出するなど、抵抗することなく捜査に協力したとされる。ペイトリオッツはこの取材チームがサイドライン撮影を禁じたNFLの規則を知らなかったための行為だったと説明する。

おそらく、チームの声明はその通りでフットボールチームの関与もベリチックの言う通り「100パーセントない」のだろう。つまり、ペイトリオッツは「シロ」で、NFLもそのような結論に達すると思われる。

そこで疑問に思うのは、過去にスパイゲートのほか、ボールの空気圧を違法に低くしたとされる「デフレートゲート」まで起こしているペイトリオッツが、なぜそこまで脇が甘いのかということだ。

ペイトリオッツは昨季のスーパーボウルで、歴代最多タイの6度目の優勝を果たし、今年も11季連続、ベリチックがHCに就任した2000年以降で17回目となる地区優勝を目前としている。フットボールオペレーションに関係のない番組製作チームであろうと、チームの悪評を招くような行為は厳に慎むべきだ。

しかも、ビデオクルーが撮影に関する規則を知らないということはおよそあり得ない話だ。彼らの作っているシリーズ名(「Do Your Job=自分の仕事をやれ」)がこれほど皮肉に響く話もない。

彼らの不手際はペイトリオッツの不評となって跳ね返ってくるのだ。次戦のベンガルズ戦は勝てば「やっぱりスパイ行為があったのか」と勘繰られ、負けても「発覚したからせっかくの映像が参考にできなかった」と揶揄される。過去のスパイゲート、デフレートゲートのせいで余計に色眼鏡で見られがちなことは事実だ。だからこそ、ペイトリオッツの組織が全体として襟を正さなければいけない。

李下に冠を正さず、という。今のペイトリオッツにはこうした姿勢が必要なのだろう。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。