コラム

課題を抱えながらも完成が近づく2つの新スタジアム

2020年06月01日(月) 06:51

ラスベガスに建設されたラスベガス・レイダースの新本拠地アレジアント・スタジアム【Kirby Lee via AP】

2つの新スタジアムの竣工が近づいてきた。1つはレイダースの新本拠地としてネバダ州ラスベガスのダウンタウンに建設されているアレジアント・スタジアムだ。同スタジアムは6万5,000人収容の屋内型スタジアムとなっている。レイダースの他、ネバダ州立大学ラスベガス校(UNLV)がホームとする予定となっている。すでに外装やスイートボックス、トイレなどは完成しており、大型ビデオボードやスピーカーなども設置済みだ。夜間のライトアップも始まっており、カーディナルスの本拠地ステートファーム・スタジアムや日本の札幌ドームと同様の収容式となるフィードの自然芝の育成も屋外スペースで開始されている。

現地5月21日に会見を行った建設会社ラスベガススタジアム・カンパニーのドン・ウェッブCEOは、現在、週6日、1日約2,000人体制で最後の作業が行われているとしたうえで、「7月31日に実質的に建設が完了する予定です」と語った。

新スタジアム2つ目はカリフォルニア州ロサンゼルスの郊外イングルウッドに建設されているSoFiスタジアムである。ラムズとチャージャーズの2チームがホームとする予定となっている。ラムズのオーナー、スタン・クローンキー氏が率いるクローンキー・スポーツ&エンターテイメントがこの地域の再開発の一環として建設を進めているものだ。7万人収容のやはり屋内型スタジアムで、2022年に第56回スーパーボウルが開催される他、2028年の夏季五輪の開閉会式会場となることが決定されている。

2017年の大雨で完成が1年遅れたSoFiスタジアムだが、リング状の大型ビデオボードの設置も終わり、完成が見えてきた。

そんな両スタジアムだが、課題も抱えている。その筆頭にあげられるのがやはり新型コロナウイルスの感染拡大である。これまでSoFiスタジアムでは5人、アレジアント・スタジアムでも複数人の作業員が陽性となったことが判明している。それでもどちらの建設も必要で急を要する仕事として地元自治体から認可され、感染予防策などをとりながら建設が続けられてきたのである。ウェッブCEOは「コロナウイルスのパンデミックは日常生活を混乱させ、もともと野心的だったプロジェクトスケジュールをさらに困難なものにしています」と大変さを認めた上で、予定通りの完成に向かっていることを誇った。

ただスタジアムが完成しても予定通り開場、試合を開催できるかが現在は見通せない。アレジアント・スタジアムは8月22日に歌手ガース・ブルックスのコンサートが最初のイベントとなり、27日にレイダースがカーディナルスと最初のプレーシーズンゲームを行う予定となっている。一方、SoFiスタジアムは最初のイベントとなるはずだった7月25日および26日の歌手テイラー・スイフトのコンサートがすでにキャンセルされている。現在、最初のイベントは8月1日のカントリー歌手ケニー・チェスニーのコンサートとなっている。プレシーズンに関しては未定だ。

試合を開催するにしても無観客になる可能性が高い。カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事はスポーツの開催について「無観客で整備され、非常に行動制限された条件下」でしか行えないと発言しているのだ。無観客となれば、チームはチケットの払い戻しを行うことになる可能性は高く、スタジアム建設に多額の資金を投じているチームにとって大きな痛手となるのは確実だ。

さらに2つのスタジアムで大きな明暗も生まれている。パーソナルシートライセンス(PSL)の販売状況だ。PSLはシーズンチケットを毎年買い続けることができる権利である。近年、PSLの販売はチームにとって重要な収益源となっている。

レイダースは5月22日にPSLの販売収益が5億4,900万ドルに達したと発表した。これは当初チームが目標としていた2億5,000万ドルを2倍以上も上回っている。建設費約20億ドルの4分の1以上だ。同スタジアムのPSLの価格は座席の位置により、500ドルから7万5,000ドルに設定されている。購入者の約60%が地元ネバダ州で、約7,000人は旧本拠地オークランドでシーズンチケットを購入していたファンだという。

一方で、PSL販売が不振となっているのがラムズとチャージャーズである。両チームはそれぞれ4億ドルの販売を目指している。しかしどちらも目標額に到達しておらず、チャージャーズに至っては昨年10月にまだ約1億ドルしか売れていないと報道された。計画が達成しなかった場合、スタジアムの建設主体であるラムズと間借りする立場のチャージャーズへのスタジアムからの収益配分は変動する契約になっているため、ラムズが一方的に不利益を被ることはないとされている。

それにもかかわらず、5月中旬、ラムズがNFLに対して5億ドルの追加融資を申請したという報道が出た。返済期間も当初の15年から30年とすることも希望しているという。これはPSLの販売不振だけでなく、スタジアムの建設費用が当初26億ドルと見込まれていたものの、約50億ドルにまで膨れ上がったことが要因と見られている。

明暗分かれる新スタジアムはどんな最初のシーズンを迎えることになるだろうか。

わたなべ・ふみとし

渡辺 史敏
兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。