コラム

依然混沌としたシーズン開幕

2020年06月29日(月) 06:06

フィールドに置かれたフットボール【Aaron M. Sprecher via AP】

新型コロナウイルスの大流行に見舞われたアメリカでは全50州が経済活動を部分再開した一方で、複数の州では感染者数の拡大が続いている。スポーツもカーレースのNASCARやPGAツアーがすでに再開、NBAやNHLは隔離集中形式での再開が決まり、チームオーナー側と選手会が揉めていたMLBも短縮したシーズンの開幕が決定した。だが、MLBなどでは選手やスタッフに感染者が出ている。

NFLも状況は同じで、閉鎖されていたチーム施設が再開されているものの、カウボーイズやテキサンズ、49ersで選手の感染が確認され、NFL選手会(NFLPA)がプライベートでのグループ練習を取りやめる勧告を出した。来月のトレーニングキャンプはチーム施設での開催が義務づけられ、プレシーズンを1チーム2試合に短縮する方向で話が進められている。

こうした中、混沌としているのがシーズンの開幕である。NFLとしては9月10日に開幕し、通常通り17週のレギュラーシーズンを行うことを望んでいるのは確実だ。ただ、それが可能なのか、どんな形式になるのかはまだわからないのである。

まずNFL、さらには秋のフットボールシーズンそのものの開催を危惧する発言をしたのが感染症の権威でアメリカ国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)所長のアンソニー・ファウチ博士だ。6月18日、CNNのインタビューでファウチ所長は「もし第2の波があるなら、それは確かに可能性があり、さらに予測可能なインフルエンザの流行期によって複雑になるだろう。今年、フットボールは開幕できないかもしれない」と発言。

さらにNFLに関してNBAとNHLで行われる予定である選手たちを隔離した環境に置き続けながらシーズンを行う「バブル」と呼ばれる措置を見習うべきだとした。「選手たちがバブルに居続けない限り、つまりコミュニティから隔離され、毎日に近い形で検査を受けない限り、この秋にフットボールがプレーできるか判断するのは非常に難しいだろう」と発言している。

この発言を受け、NFLのチーフメディカルオフィサー(医務部長)であるアレン・シルズ医師は同日、リーグは「公衆衛生環境に合わせて必要な調整を行い、予定通り2020年シーズンをプレーする準備を進めている」と応えたが、NFLで隔離環境を設けることは“現実的”ではないともコメントしている。プロトコルはまだ発展中だとし、柔軟に対応していく姿勢を見せているが、開幕まで2カ月近くとなる中では不安は募る。

一方、開幕できるとしてもどのような形になるかも未定な部分が多い。いち早く開催への姿勢を示したのはドルフィンズだった。5月4日、テレビのワイドショーに出演したトム・ガーフィンケル社長兼CEOは本拠地ハードロック・スタジアムの収容人数を6万5,326人から1万5,000人に制限。入場時間の分散、ゲートの外やコンコースにソーシャルディスタンスを示す色分けしたステッカーを設置、退場も席の列ごとに実施、マスク着用の義務づけ、飲食物の購入はコンコースでのピックアップ前に席でオーダーすることを義務づける、という私見を示した。さらに5月26日にはドルフィンズのオーナー、スティーブン・ロス氏が別の番組で「今年、間違いなくフットボールシーズンが来ると思う」と語っている。ただ地元フロリダ州はスポーツを含む経済活動の再開をいち早く行った州ではあるが、現在も感染者の急増が止まらない州でもある。

プロスポーツの興業と考えた場合、たしかに大きな問題となるのは観客数だ。NASCARや日本のプロ野球を含め、無観客で再開したスポーツは多い。観客を入れる場合は人数に関するルール、ガイドラインはスタジアムの観客数によってホームフィールドアドバンテージによる競技の公平性を欠く可能性もあり、当初はNFLがそれらを定めることへの期待が多くのチームにあった。しかし、現実的には難しくなっている。これは本拠地の州政府、自治体によってソーシャルディスタンシングなどの規制基準が異なるためだ。

そのため、独自に無観客試合などへの対応を始めたチームもある。6月中旬、ペイトリオッツがシーズンチケットの払い戻しの開始と来シーズンのチケット購入権の維持ができることをチケットホルダーに伝えたのである。実は5月初めにロジャー・グッデルNFLコミッショナーはシーズンチケットの全額払い戻しを可能にするよう全チームに通達していた。ただチケット代金の支払期限を延長したチームは多かったものの、払い戻しを開始したチームはこれまでなかったのである。ペイトリオッツは無観客での開催の可能性をファン
に認めた最初のチームといえるのだ。

スーパーボウル6回優勝のペイトリオッツのシーズンチケットは人気が高く、キャンセル待ちは10年以上に及ぶ。通常は一度手放せば再度入手することはできない。とはいえ、今回は特例として払い戻しを受けても来年同じ座席位置での購入が認められる措置がとられている。22日には同様の措置をジャイアンツも発表した。

一方でカウボーイズは10万人を収容できるAT&Tスタジアムに4万人の観客を入れることを望んでいるという報道も出ている。

開幕できるか、できるならどういう形式になるのか、柔軟で迅速な対応が望まれている。

わたなべ・ふみとし

渡辺 史敏
兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。