コラム

NFLPAがAIを使った神経疾患対策で医療機関と提携

2021年04月12日(月) 07:28

NFL選手会【NFL】

NFLでは近年、記憶障害や認知障害、抑うつなどの進行性の症状を引き起こす慢性外傷性脳症(CTE)の原因となる脳しんとうが大きな課題となってきた。NFL選手会(NFLPA)はさらにパーキンソン病やアルツハイマー病などの神経疾患に対する医療改善に向けて、医療機関クリーブランド・クリニックと調査研究について提携したと発表した。

人工知能(AI)を用いて神経疾患の特徴をよりよく把握することに取り組むとしている。診断、病気の進行予測を改善し、治療の指針となることが目的だという。さらに元NFL選手の脳の健康状態を改善するだけでなく、アスリート一般やより広いコミュニティの認知機能を向上させることを目指すとしている。

共同研究の主任研究者であるジェイ・アルバート博士は「パーキンソン病やアルツハイマー病などの神経疾患は、人口が高齢化するにつれて公衆衛生上の緊急事態になり、NFLPAにとっても最も重要です。この共同研究プロジェクトでは、機械学習技術を使用して、病気のプロセスと管理の理解における根本的なギャップに対処します。このイニシアチブの最終的な目標は、作成されたアルゴリズムが神経学的症候群の早期診断をサポートし、疾患経過のより良い予測を可能にし、介入の指針となることです」とコメントしている。

実際の取り組みとしては長期的な患者からのデータを用いて、認知障害に関連する機械学習アルゴリズムの開発を目指す。NFLPAとクリーブランド・クリニックの共同研究者は、機械学習ツールや、人口統計、患者が入力したデータ、画像、検査などのデータソースを用いて、XAIと呼ばれる説明可能な人工知能モデルを開発していくという。疾患の進行モデルと併用することで、短期的な臨床データから長期的な病理学的軌跡を明らかにすることができ、その結果認知的な健康の分野で画期的な進歩を遂げることが期待されるということだ。

さらに医療・分析分野の他のパートナーを巻き込み、段階的な研究プロジェクトを評価・実施する協調的な研究ネットワークを構築することも目指す。またXAIの技術と機械学習ツールを使用することで、プロフットボール選手ではない患者を対象としたモデルを構築することができ、現在および過去の選手のための潜在的な予防プログラムや治療プログラムを提供することにもつなげたいとしている。

NFLPAのデマリウス・スミス事務局長は「クリーブランド・クリニックとのパートナーシップは、選手の心身の健康を増進させるという当組合の継続的な取り組みの延長線上にあるものだ。結果として得られる臨床判断支援ツールを通じて医師コミュニティの神経疾患についての知識が深まれば深まるほど、プロフットボール選手に対する教育や安全対策を提供する上で、より良い情報を得ることができるだろう」と取り組みへの意義を強調していた。

NFLも医学面や安全面での取り組みを続けているが、選手と直結するNFLPAのこのような取り組みにも注目していきたい。

わたなべ・ふみとし

渡辺 史敏
兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。