ニュース

ブレイディが22年のキャリアに幕か、引退報道を受けてまもなく正式発表へ

2022年01月30日(日) 07:40


タンパベイ・バッカニアーズのトム・ブレイディ【AP Photo/Mark LoMoglio】

NFL史上最高のプレーヤーがキャリアに終止符を打つ。

『NFL Network(NFLネットワーク)』のイアン・ラポポートが現地29日(土)、トム・ブレイディが22年を過ごしたNFLから引退する予定だと報じた。

第一報を伝えたのは『ESPN』だ。

長年、ブレイディの代理人を務めるドン・イーがその後に発表した声明では、ブレイディの将来に関して近いうちに正式な発表がなされることが示唆されている。

ラポポートが入手したイーの声明には「トムの将来に関する事前の憶測は理解している。報道されていることの正確さ、不正確さに立ち入るつもりはないが、トムのプランについて完全に正確に表現できるのはトムが唯一の人物だ。彼はフットボールビジネスの現実も計画性を誰よりも分かっているので、もうまもなくだろう」とつづられている。

もし本当にブレイディのキャリアに幕が下りるとすれば、44歳のブレイディはフットボール史上最も多くのキャリアを築いてフィールドを去る。

ブレイディが2000年のNFLドラフトで6巡目にして全体199位でニューイングランド・ペイトリオッツから指名され、NFL入りしたことは有名だ。無類の競争心を持つブレイディというクオーターバック(QB)はこのドラフト指名をきっかけに殿堂入り確実なキャリアを築き上げてきた。

NFL入りして2年目のシーズンからペイトリオッツで先発を任されたブレイディ。歴史が物語るように、その後の活躍は実に見事だった。

“TB12”の愛称で親しまれるブレイディは数多の賞を受賞し、ケースにあふれんばかりのトロフィーが並べられている。

ブレイディは7回におよぶスーパーボウル制覇を成し遂げ、NFL年間最優秀選手(MVP)を3度受賞、スーパーボウルMVPは5回、NFL攻撃部門年間最優秀選手2回、オールプロのファーストチーム選出3回、オールプロのセカンドチーム選出3回、2009年には年間最優秀カムバックプレーヤーにも選ばれた。また、2000年代のオールディケイドチーム、2010年代オールディケイドチーム、NFL100周年オールタイムチームにもその名が連なっている。

いっそ、ブレイディが持っていないクオーターバック記録を列挙する方が簡単かもしれない。

そのキャリアが示す通り、『The G.O.A.T.(ザ・ゴート)』と称えられるブレイディはパス成功数(7,263回)、パスアテンプト数(1万1,317回)、パスヤード数(8万4,520ヤード)、パスタッチダウン数(624回)、先発出場数(316回)、QB勝利数(243回)、プロボウル選出(15回)、スーパーボウルMVP(5回)でNFL史上1位の成績を誇る。加えて、タッチダウンパス数で年間トップになったことがこれまでに5回(2002年、2007年、2010年、2015年、2021年)あり、NFL史上最多を記録している。

もしスポーツ選手のレガシーがポストシーズンの成績で評価されるとすれば、ブレイディに匹敵できるフットボーラーは1人もいないだろう。プレーオフでの活躍はどのクオーターバックも遠く及ばない。ブレイディは22年間のキャリアの中で19回のポストシーズン進出を果たし、先発47回、35勝、スーパーボウル出場10回、スーパーボウル優勝7回、ポストシーズンのパス成功数1,165回、ポストシーズンのパスヤード数1万3,049ヤード、ポストシーズンのタッチダウンパス数86回、ゲームウイニングドライブ14回、第4クオーターでの逆転4回を達成。いずれもNFLの歴史において最多記録だ。

NFLの歴史において、トーマス・エドワード・パトリック・ブレイディJr.ほど勝利を定義した選手はいない。

ミシガン大学時代、鈍足で有名だったブレイディは粘り強さと勝利への意欲で、NFLで最も偉大な選手へと成長を遂げた。ただ、ブレイディほどスナップの前に努力を重ね、精神的に試合をコントロールできるプレーヤーはいないと言えよう。その結果、ブレイディはボールがスナップされる前に、すでにプレーを制することもしばしば見られた。

ブレイディに非凡な才能がなかったわけではない。キャリアを通じてパスラッシュをものともせず、微妙なポケットの動きでパスを完成させるに十分なスペースを見いだし、20年間にも渡って対戦相手のディフェンス陣にフラストレーションを与えてきた。さらに言えば、ブレイディのキャリアを決定づけたピンポイントの正確性を失うことは一度もなかった。ランディ・モスへのディープボールで得点したあの名シーンと同様、ブレイディにとってキャリア最後のタッチダウンパスとなったマイク・エバンスへの55ヤードの華麗なパスも実に素晴らしかった。

ブレイディは最初から最後まで勝ち越し続けた。先発としてキャリア最低の戦績だったのは9勝7敗に終わったNFL入りしてまだ3年目のシーズンだ。ペイトリオッツとタンパベイ・バッカニアーズで過ごしたキャリアを通して通算243勝73敗0分をマークしている。

ニューイングランドで過ごした20年のキャリアで6回のスーパーボウル制覇を成し遂げ、TB12とヘッドコーチのビル・ベリチックはスーパーボウル時代において最も成功を収めたクオーターバックとヘッドコーチのコンビとして歴史に名を刻んでいる。

そのコンビネーションが解消されたのは2019年シーズンが終わったとき。ブレイディはペイトリオッツ以外でも勝てることを証明すべく動き出した。

そして、それは証明された。

キャリアで初めてフリーエージェント(FA)となったブレイディは2020年にバッカニアーズと契約。それまで12シーズンに渡ってプレーオフに進めていなかったチームを即座に勝者へと変ぼうさせた。ブレイディは移籍初年度にバッカニアーズをポストシーズンに導いただけでなく、スーパーボウル出場に加えて優勝まで果たした。この勝利はブレイディが単にベリチックのシステムの副産物だったのではないかとの疑念を一掃し、ブレイディのG.O.A.T.としての地位を確固たるものにした。

ブレイディはよく、45歳までプレーすることを希望していた。その目標に1年足りず、引退することになりそうだ。

とはいえ、44歳になったブレイディが衰えを見せていたわけではない。

2021年シーズンにはパスヤード(5,316ヤード)、タッチダウンパス(43回)、パス成功数(485回)でNFLトップに立っている。加えて、ロースター全体で負傷者が相次いだにもかかわらず、バッカニアーズを2007年以来となるNFC(ナショナル・フットボール・カンファレンス)南地区優勝に導いた。ポストシーズンではディビジョナルラウンドで敗退したものの、ロサンゼルス・ラムズと対戦した試合では奇跡の大逆転にあと一歩まで近づくも、最後はラムズのフィールドゴールが決まって万事休す。

多くのクオーターバックはキャリア後半になると崖っぷちに立たされる。しかし、ブレイディは違う。

キャリアを通して数々の記録と名勝負を生み出してきたブレイディは最後に笑いを手にし、自らの意思で頂点から立ち去ることができるのだ。

【C】