ニュース

ライアン・フィッツパトリック、忘れがたき9つの足跡

2022年06月03日(金) 17:32


ニューヨーク・ジェッツのライアン・フィッツパトリック【AP Photo/Seth Wenig】

NFLで最もカリスマ的な存在の1人であるクオーターバック(QB)ライアン・フィッツパトリックが現役生活17年を経て現地2日(木)に引退し、その長く曲がりくねった旅路の終着点にたどり着いた。

プロボウルに選ばれることも、ポストシーズンの試合に出場することもなかったが、フィッツマジックと呼ばれた男は近年のNFLで最も記憶に残る選手の1人としてリーグを去る。ふさふさした、時に手入れされていないように見えるヒゲと同じく、フィッツパトリックはフィールド内外で無秩序なスタイルを貫いていた。

そんなライアン・フィッツパトリックが経験してきたことはマジック(魔法)なのかトラジック(悲劇)なのか。

フィッツパトリックは2005年ドラフト7巡目でセントルイス・ラムズ(現ロサンゼルス・ラムズ)に指名されてから、17シーズンの間に9つのチームでプレーしてきた。遊牧民でもこれほどの移動はしないだろう。そして、ご存知ないかもしれないが、フィッツパトリックはハーバード大学出身だ。

ラムズからシンシナティ・ベンガルズ、バッファロー・ビルズ、テネシー・タイタンズ、ヒューストン・テキサンズ、ニューヨーク・ジェッツ、タンパベイ・バッカニアーズ、マイアミ・ドルフィンズ、そしてワシントン・フットボール・チーム(現ワシントン・コマンダース)。フィッツパトリックはこれらの所属チームで常にフィールドに立つ道を見つけてきた――そして、たいていの場合、ファンの心をつかんできた。独自のサイクルを持つフィッツパトリックは所属してきたどのチームでも魅力的な存在だったのだ。

少なくとも1950年以降に、NFLの9つのチームで1試合以上に先発出場した選手は他におらず、7つのチームで1試合以上に勝利したクオーターバックも他にはいない。

大胆不敵なスタイルと危険を顧みないメンタリティによって、フィッツパトリックは常にフィールド上で危険と隣り合わせだった。想像できる限りの最もばかげたスローイングを見せたこともあったが、時にはそのメンタリティが彼の背中を押すこともあった。17年間、このQBがフィールドで全力を尽くさず、才能を余すところなく発揮しなかったと批判する者はいなかった。

39歳という年齢で、最も面白いフットボールのパフォーマーの1人が終着点に到達している。その9つの旅路を思い出しながら、印象的だったチームをランキング形式で紹介しよう。

【第9位 ワシントン・フットボール・チーム】
2021年

フィッツマジックにとって最も印象が薄いのは最後のチームだろう。2021年に先発選手として契約したものの、フィッツパトリックはわずか6回しか投げずに股関節を脱臼してシーズン終了となり、最終的にはそのままキャリアを終えることになった。

【第8位 テネシー・タイタンズ】
2013年

ジェイク・ロッカーがケガでダウンした後、フィッツパトリックは再び先発となった。アリゾナ・カーディナルスに負けた試合で402ヤード、タッチダウン4回という素晴らしい記録を残したことを除けば、タイタンズはフィッツパトリックにとって忘れがたいチームというわけではないだろう。

【第7位 ヒューストン・テキサンズ】
2014年

フィッツパトリックはテキサンズでの初年度に先発を務めていたが、途中からライアン・マレットの控えになっている。しかし、フィッツマジックサイクルは終わっていなかった。マレットが胸筋を断裂した後、フィッツパトリックが先発の座を再び取り戻し、かつて所属していたタイタンズとの試合でタッチダウン6回を決めてフランチャイズ記録を塗り替え、インターセプト0回で358ヤードを記録した。ところが、その2週間後に足を骨折してテキサンズでの時間は終了した。

【第6位 セントルイス・ラムズ】
2005年から2006年

2005年にドラフト指名された14人のQBのうち最後に指名されたフィッツパトリックは、当時のセントルイス・ラムズで新人ながら3番手の座を勝ち取った。マーク・バルジャーとジェイミー・マーティンが負傷したため、2005年シーズン第12週に初めてリリーフとして出場したフィッツパトリックは、310ヤード、タッチダウン3回を記録。ラムズはハーフタイムの時点で24対3と劣勢を強いられていたところから逆転し、延長戦の末にテキサンズを破った。この活躍でフィッツパトリックはNFC(ナショナル・フットボール・カンファレンス)週間最優秀選手賞を受賞。その後、3試合に先発したものの、ルーキーがよく陥るように、このセンセーショナルな活躍の後は苦戦している。2006年はわずか1試合しか出場できず、2007年にベンガルズにトレードされた。

【第5位 シンシナティ・ベンガルズ】
2007年から2008年

複数の選手の負傷によって、フィッツパトリックは2008年にシンシナティ・ベンガルズの先発QBの役割を手にした。前年の2007年はカーソン・パーマーの控えとして過ごしている。後半11試合に先発したフィッツパトリックはランの能力を発揮し、キャリアハイの304ラッシングヤードを記録。必要なことは何でもやる果敢なプレーの兆候が見え始めたのは、このシンシナティだった。

【第4位 マイアミ・ドルフィンズ】
2019年から2020年

タンパでフィッツマジックを復活させた後、フィッツパトリックは2019年にジョシュ・ローゼンに代わる先発選手に指名された。明らかにフィッツパトリックの方が優っていたにもかかわらず、交代するまでフィッツパトリックはローゼンとプレータイムをシェアしていたのだ。5勝をもたらしたフィッツマジックがドルフィンズの立て直しを後押しし、この間にフィッツパトリックは3,529パスヤードとタッチダウン20回を記録。しかしながら、2020年は3勝3敗でスタートし、ルーキーのトゥア・タゴヴァイロアに先発の座を明け渡している。シーズン第16週、重要な試合となったラスベガス・レイダース戦の第4クオーターでタゴヴァイロアがベンチに下がり、フィッツパトリックに出番がやってきた。フィッツパトリックはこれまででも最大規模のフィッツマジックを披露し、試合終了間際にドルフィンズを優勢に導いてポストシーズンの希望をつないでいる。

しかし、運命は残酷だった。フィッツパトリックはシーズン第17週の試合でリザーブ/COVID-19(新型コロナウイルス感染症)リストに置かれ、マイアミの希望はバッファローに打ち砕かれた。

【第3位 タンパベイ・バッカニアーズ】
2017年から2018年

ほとんどのZ世代はフィッツパトリックをバッカニアーズの選手として記憶しているだろう。たとえ、タンパでの2シーズンに10試合にしか先発していなくても。ワイドレシーバー(WR)デショーン・ジャクソンのいかついチェーンで胸元を飾ってビッグゲームの後の記者会見に現れたQBの写真はカントンに飾られるべきだ。

フィッツパトリックはジェイミス・ウィンストンのバックアップとしてタンパにやってきたが、いつもと同じように、負傷を受けて交代要員としてフィールドに立った後にQB論争を巻き起こした。タンパで勝利したのは不屈の精神と見どころを作る力を持ったフィッツパトリックだった。

【第2位 バッファロー・ビルズ】
2009年から2012年

バッファローはフィッツパトリックの最初の一歩だったわけではない。フィッツパトリックの名が知られるようになったのが、バッファローだった。トレント・エドワーズのバックアップから先発に昇格したフィッツパトリックの早撃ちとボールを投じる能力は、2010年にヘッドコーチの仕事を引き継いだチャン・ゲイリーにとって理想的だった。先発職を引き受けた後のフィッツパトリックがフィールド中にボールを放り投げる姿を、誰が忘れられるだろうか? バッファロー時代のWRスティービー・ジョンソンとのコネクションは、控えめながらもホットな組み合わせだった。ビルズは大量の勝利を上げたわけではないかもしれない。だが、フィッツマジックやジョンソン、RBのフレッド・ジャクソンとC.J.スピラーを擁する攻撃陣は見る者を魅了した。バッファローはまた、フィッツパトリックに最初の大型契約を与えたチームでもある。フィッツパトリックはビルズと、2011年半ばに6年5,900万ドル(約76億6,360万円)の契約を結んだ。しかし、状況は悪化し、フィッツパトリックは1シーズン後に、ゲイリーHCの解雇に続いてリリースされている。

【第1位 ニューヨーク・ジェッツ】
2015年から2016年

フィッツマジックを存分に浴びたのがギャンググリーンだ。2015年シーズン開幕前にバックアップとして契約を結んだフィッツパトリックは、QBジーノ・スミスがチームメイトのディフェンシブエンド(DE)IK・イネンパリに殴られたため、先発としてフィールドに立っている。もちろん、そこからのフィッツパトリックはキャリアベストのシーズンを送り、3,905パスヤード、タッチダウンパス31回をマークして、ビニー・テスタバーディのフランチャイズレコードを塗り替えた。チャン・ゲイリーOCとWRブランドン・マーシャルという馴染みの顔がいる中で、フィッツパトリックはトッド・ボウルズHC指揮下の初年度だったジェッツをワクワクさせるチームへと変貌させた。しかし、フィッツパトリックのキャリアがしばしばそう進んだように、このシーズンはビルズに第4クオーターで3回インターセプトされるという形で幕を閉じ、10勝6敗にとどまったジェッツはプレーオフを逃している。2016年もフィッツパトリックと共にスタートしたジェッツだが、前年のような魔法はもう戻らなかった。

【RA/A】