不満を抱えるWR陣ではなく、QBラマー・ジャクソンのために設計されたレイブンズオフェンス
2022年06月16日(木) 21:34数週間前にはラマー・ジャクソンの契約交渉が大げさに騒がれすぎていることを指摘した。彼がボルティモア・レイブンズから大型の契約延長を提示されるのは確かなことなのだから、それまでの進行ペースについてあれこれ騒いでも無意味だということだ。今回は、急激に鮮度を失いつつある別のトピックについて考えてみたいと思う。彼の元ワイドレシーバー(WR)たちから噴出してる不満についてだ。このところその声はどんどん大きくなっている。
アリゾナ・カーディナルスの一員となったマーキス・ブラウンもその1人で、彼はこれ以上ボルティモアのオフェンスでプレーを続けることはできないとチームを出ていってしまった。ブラウンがレイブンズに自身の不満を打ち明けたことを受け、マネジメントは3年前に彼を3巡目指名したドラフトデーに彼をトレードした。もっと最近では、フリーエージェントのウイリー・スニードがタイラー・ダンにボルティモアのシステムに対するフラストレーションを打ち明けており、4月にブラウンがポッドキャスト“I Am Athlete(アイ・アム・アスリート)”で話したことと似た問題を口にしている。ブラウンは「俺はベストな状況に置いてもらえなかった」とその中で話していた。
「レイブンズにパッシングゲームで創造力があって、シーズン中にもっとそれに重点を置いていたら、多くのレシーバーが来たがっただろうにね」と2018年から2020年までボルティモアでプレーしたスニードは言っている。「一緒にプレーするのにラマーは最高の選手だ。彼がチームの要だ。彼は楽しい。毎日エネルギーを与えてくれる。誰だってああいうクオーターバックとプレーしたいものさ。なのに、システムが人々を追い出してしまう。だからレイブンズは毎年ドラフトでレシーバーを2人入れているのさ」
スニードもブラウンも、ジャクソンのことは高く評価している点に注目してほしい。彼らが気に入らないのは、ジャクソンをリーグ屈指のスターに変えたオフェンスの方なのだ。ワイドレシーバーはできるだけ多くパスをキャッチしたいのだから、それは理解できる。問題は、多くの人々が再びレイブンズがチャンピオンシップで勝つためにはもっと生産的なパッシングゲームをする必要があるという考えに乗ってしまうことだ。
ジャクソンとアリゾナ・カーディナルスのカイラー・マレーは、その成果によって強力なマーケットで利益を得ようとする次の注目のクオーターバックとなっている。3月に、グリーンベイ・パッカーズはアーロン・ロジャースに年平均5,030万ドル(約66億7,840万円)を払う契約を与えた。数日後、今度はクリーブランド・ブラウンズが多数の女性から性的不品行について訴訟を起こされているデショーン・ワトソンに5年総額2億3,000万ドル(約305億5,055万円)を完全保証した。ジャクソンはすでにリーグMVP賞を1回獲得しており、先発した49回のレギュラーシーズンゲームで37勝を挙げていることを考えれば、こうした立派な成果に見合う契約を彼が間もなく手にすると考えるのも当然のことだ。
元レシーバーたちの不満が大した問題にならない理由の1つがこれだ。ジャクソンは、今までも――これからもずっと――レイブンズがオフェンスで達成したいと願うあらゆるものの鍵となる。プロになってからの4シーズンで一度も3,200ヤードに届いていないパスで一貫性を身につけるために彼は努力できるだろうか? もちろんだ。成功のためにワイドレシーバーたちに依存しなければならないクオーターバックに生まれ変わる必要はあるだろうか? 全くない。
ジャクソン率いるレイブンズで最も印象的なところは、特定のスタイルのオフェンスに向けてのあからさまなアプローチだった。ヘッドコーチ(HC)ジョン・ハーボーはボルティモア独特のラン重視のシステムを絶えず称賛しており、そのようなアプローチで今日のパスを好むNFLでロンバルティ・トロフィーを勝ち取れるのかと質問されると、すぐに機嫌を損ねてしまう。レイブンズは自分たちが自分たちでいるための呪文にこだわり続けている。それが気に入らないという人々は、違うブランドのフットボールを見るためにチャンネルを変えればいい。
ブラウンとスニードの不満は、実際のところレイブンズの攻撃コーディネーター(OC)グレッグ・ローマンに向けた直接攻撃だ。ジャクソンのスキルセットに合わせた今のオフェンスを作り上げたのは彼だ。ブラウンは昨シーズンにレシーブ(91回)とヤード(1,008ヤード)でキャリアハイを記録し、146回のターゲットとなってリーグ10位にランクインしたにもかかわらず、自分の能力が十分に生かされていなかったと感じている。スニードは、ローマンがランゲームのコーディネーターとしては強いが、特定のパスカバレッジに対してはそうした創造力を発揮しなかったと主張している。ボルティモアでの1年目にスニードは62回のレシーブを取っているが、続く2シーズンでは合わせて64回しかキャッチできなかった。
これもまた、理解できることだ。NFLの選手は皆そうだが、レシーバーというのはより良い報酬につながる数字を気にするものだ。そのポジションでは多数の大型契約が飛び出しており、ワイドアウトのトップは今や年間2,500万から3,000万ドル(約33億2,473万円から46億5,250万円)を稼ぐようになっている。しかし、ローマンのオフェンスに対するこうした攻撃も、ジャクソンがこのシステムで達成したものを考えるとささいなものに思えてくる。これは今も過去3シーズンで毎年得点やヤードでトップ10入りしたものと同じユニットであり、2019年に得点でリーグ首位に立ち、トータルオフェンスで2位になったユニットなのだ。
昨年のレイブンズが驚くほど多くのけが人に見舞われたことを忘れないでおこう。ジャクソンも5試合を欠場しており、タッチダウンパスは16回、インターセプトはキャリアワーストの13回だった。ターンオーバーが問題だったのは間違いないが、シーズンの大部分でクオーターバックが多くの人を欠いたチームを率いなければならなず、無理を強いられたことも大きかった。
そのクオーターバックはこの秋に同じオフェンスで満足することだろう。2021年シーズンが開幕する前にどちらも膝のけがで終了となったJ.K.ドビンズ、ガス・エドワーズというバックフィールドが戻ってくる。2年目のWRラショッド・ベイトマンとタイラン・ワラスからは成熟が感じられるはずだ。そして、オールプロのファーストチームに選ばれたマーク・アンドリュースを忘れてはならない。ジャクソンのオフェンスでトップターゲットになるのは彼だ。
だからといって、ジャクソンとレイブンズの交渉で問題が起こらないというわけではない。彼のプレースタイルは典型的なクオーターバックが受けるよりも多くヒットされることになり、それを考慮した契約を構築することは手間がかかるかもしれない。チームたちがQBに次々と提示している金額も興味深い動きを生む。結局のところ、ボルティモアはジャクソンがルーキー契約から外れたところでロースターの構成に苦労することになる。最近のトップベテランWRの契約金を見ると、そのポジションでより費用効果の高いオプションを持つのは悪いことではない。
ボルティモアのパッシングゲームについて不満が噴出したからといって、そうした変数を見過ごしてはならない。ジャクソンがルーキーイヤーの半ばで先発となってから、常にあった議論であり、それがすぐになくなることはないだろう。レイブンズがジョー・フラッコからの切り替えを決めた時にそれが何を意味するのか、彼らが理解していたことは知っておいてほしい。また、パスをキャッチする人々がそれを投げている人物ほどには、チームの成功に重要ではないことも彼らは理解していたのだ。
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