注目を集める攻撃陣の影で今もなおチームの方向性を決定づけるブロンコス守備陣
2022年07月30日(土) 18:09スタークオーターバック(QB)とオフェンス重視のヘッドコーチ(HC)が到着したことばかりが注目を集めているが、デンバー・ブロンコスには変わらずに存在しているものがある。
それは、依然として破壊力とダイナミックさを併せ持つ守備陣だ。ブロンコスはすべての結果が守備陣の動きに左右されるかのようにプレーするだろう。オフェンスは最近、良くなってきたかもしれないが、このフランチャイズにふさわしい方向性を決定づけるのはやはりディフェンスなのだ。
QBラッセル・ウィルソンの加入で最近のブロンコスは前向きな雰囲気と活力で満ちている。プロボウルに9回選出された経歴を持つ選手をシアトル・シーホークスから獲得したことと、グリーンベイ・パッカーズの元攻撃コーディネーター(OC)であるナサニエル・ハケットをヘッドコーチとして迎え入れたことは、再びチャンピオンシップの舞台に立つという確固たる信念をチームにもたらした。そのロッカールームで最も興奮しているのは、過去数年間の不安定なシーズンにおいてチームの強みを担ってきた才能ある守備選手たちだ。彼らこそが2016年2月に第50回スーパーボウルで優勝してからポストシーズンに一度も進出していないブロンコスに、しばしば勝利のチャンスを与えてきた。有利なポジションにチームを導いてくれるクオーターバックを得たことで、彼らの仕事ははるかに容易になるだろう。
ブロンコスの守備陣は昨季、NFLの中でもトップクラスの実力を誇り、被得点ではリーグで3位につけている。この秋には、もっと圧倒的な存在感を示すはずだ。
セーフティ(S)ジャスティン・シモンズは「あのマインドセットは100%残っている」と話している。「コーチ陣は毎日、それを教え込んでくるけど、選手の立場からしても、俺たちはそれを望んでいるんだ。このルームにいるメンバーの大半は、去年もここにいた。俺たちがストップできていたら勝てた試合が3、4試合あったこともみんな分かっている。そういう試合に勝つ方法を見つけられたら、プレーオフへの道も見えてくるはず。一度プレーオフに進出できたら、どんな人でもどんな相手にでも勝てる」
誤解を生まないように断っておくと、ここではかつて守備重視だったチームがオフェンスをより重視する考え方に順応したという話をしているのではない。才能豊かなロースターがついにバランスを取り戻し、ディフェンスが一段と輝く機会を得たということを言いたいのだ。
ブロンコスは昨年、前HCのビック・ファンジオの指揮下で、相手を押しとどめることには長けている一方でエンドゾーンにボールを運ぶのに苦労したシーズンを過ごした。試合あたりの得点は19.7点と、リーグで23位という結果に終わっている。今年のブロンコスは組織が着実に築き上げてきたポテンシャルをすべて解き放つことができるはずだ。そのディフェンスがダイナミックなクオーターバックと爆発的な攻撃力を誇るAFC(アメリカン・フットボール・カンファレンス)西地区のチームを相手にすることを考えると、今年の戦いは非常に重要なものになる。昨シーズンを7勝10敗で終え、5年連続で負け越しているブロンコスは、ウィルソン率いる攻撃陣に得点を挙げることを求めるのと同じくらいに、守備陣にはさまざまな場面で相手の攻撃を止めることを求めるだろう。実際、ハケットHCがエジロ・エベロを守備コーディネーター(DC)に採用したのは、エベロDCの哲学がファンジオの影響を受けていることが理由の1つだった。過去5年間にロサンゼルス・ラムズでセカンダリーのコーチを務め、カリフォルニア大学デービス校時代にハケットHCと同じチームに所属していたエベロDCには、ディフェンスを熟知しているモンテ・キフィンやウェイド・フィリップス、現在ブロンコスのシニアディフェンシブアシスタントを務めているドム・ケイパースなどとのつながりもある。
ハケットHCは「彼はそういう人たちと一緒にやってきたし、私にとって1番攻撃しにくいディフェンスだから、このディフェンスを望んだ。これまでもずっとそうだった」と語った。「同時に、これまでに露呈してきた弱点もあるため、それを調整できる人材を確保したかった。彼は私が愛し尊敬する人物であるだけではなくて、ウェイド・フィリップスのマンツーマン(スキーム)、ドム・ケイパースのプレッシャー、モンテ・キフィンのカバー2を熟知している。彼はそれらすべてについて、信じられないほどの知識を持っているのだ」
また、エベロDCは「(ラムズのDCである)ラヒーム・モリスは私にとって重要なメンターで、彼はいつも一流のコーチは一流の泥棒だと言っていた」と明かし、こう続けた。「オリジナルのアイデアはあんまりないと思う。経験を生かして将来、より良い状態になる。私はそうしようと心がけている。知識や経験をすべて身につけようと試みる一方で、機会があれば、やはり選手たちのことを考える。やはり、彼らが1番得意とすることをできる状態にすることが大切だ」
エベロDCは今のディフェンスに素直に期待を寄せている。彼は身体的な強さと多大な努力、そしてフットボールに熱心に取り組むユニットを求めているのだ。また、最高のパスラッシャーであるアウトサイドラインバッカー(OLB)ブラッドリー・チャッブとディフェンシブエンド(DE)ランディ・グレゴリーを出場可能な状態にすることも必要だと考えている。両選手ともフィールドに出ると破壊的な存在になるが、問題はどちらも多くの試合を欠場していることだ。ダラス・カウボーイズで7シーズン過ごした後、ブロンコスと5年7,000万ドル(約93億2,715万円)の契約を結んだグレゴリーは、現在もオフシーズンに手術を受けた肩の回復を目指している。一方、過去3シーズンの49試合中24試合で欠場を強いられたチャッブは、その状況に不満をあらわにしてきた。
ルーキーシーズンにあたる2018年にサック12回、プロボウルに選出された2020年シーズンにサック7.5回をマークしたチャッブは「もちろん、ケガはつきものだけど、ケガをしていると、なんとなくチームから遠ざかっているような気になるんだ」とコメントしている。「自分がここに連れてこられた人間だと実感できない。自分自身との戦いが多くあった。俺の家族も知っているし、周りの親しい人たちもみんな知っている。今はもうそれを乗り越えて、フィジカル面もメンタル面も、すべてにおいて順調だ」
チャッブとグレゴリーがフィールドに残ることができ、さらにはドラフト2巡目指名を受けた新人DEニック・ボニートが素早く馴染むことができれば、この守備陣は再びリーグ最高峰に挑戦するだろう。セカンダリーには、中心となって動けるシモンズと2年目のコーナーバック(CB)パトリック・サーテイン二世がいる。このようにバックエンドが多才であることによって、エベロDCは多くのカバレッジオプションを使える。エベロDCがチームにとってきたアプローチ方法はそれと同じくらい重要であり、エベロDCは就任後、シモンズやSカリーム・ジャクソンに対し、自分が話すのと同じ分だけ彼らの意見に耳を傾けてきた。
「彼はこの仕事を最高のレベルで実現させるために一緒にできることは何なのか、と聞いてきた」と強調したシモンズは次のように続けている。「彼はそんなことをする必要はなかった。彼のディフェンスだからね。入ってきて、俺たちに何をすべきか指示を出してくれてもよかった。でも、彼は俺たちが前のディフェンスで使っていた専門用語を学んでいる。俺たちは彼が慣れ親しんでいる用語を学んで、自分たちのものにしている。(エベロDCにとって)単にそれを教え込んでインストールするのはとても簡単なことだけど、彼はみんなで一緒にできることに集中している」
つまり、最近のブロンコスを取り巻くエネルギーはオフェンスの改善だけでもたらされているのではない。自分たちの可能性に興奮する理由が増え、期待していることが現実となってより多くの勝利を手に入れられるかもしれないと心から思えるようになったからこそ、エネルギーに満ちているのだ。そこにはここまで積み上げてきたものへの感謝がある。また、このチームがポストシーズンに返り咲けないことへの言い訳はもうできないという期待感もある。
ウィルソンは当然、その中で大きな役割を果たすはずだ。だが、ディフェンスも同様にそうするだろう。ハケットHCは「オフェンス重視のヘッドコーチとしては、私はただボールを返してほしいだけだ。どんな形でもいいから、そうしたい」と話している。これは今日のNFLにおいて、すべてのヘッドコーチがディフェンスに与えるミッションだ。そして、ここ数年の成績から判断すると、このユニットはその責任を果たす準備が十分にできていると言えよう。
【RA】