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似て非なるもの、ニューヨークで再建中のジャイアンツとジェッツ

2022年08月11日(木) 23:50

ニューヨーク・ジェッツのザック・ウィルソン【AP Photo/Steven Senne】

現地7日(日)、焼けるような暑さの中の練習でニューヨーク・ジャイアンツはレッドゾーンのワークに取り組んでいた。ボールは何度も何度もランニングバック(RB)セイクワン・バークリーに渡り、彼はゴールラインへと突き進んだ。トレーニングキャンプ開始から2週間、この練習に技巧はほとんど関係ない。ベテランセンター(C)のジョン・フェリシアーノは後に“伝統的しごきってやつさ”と言っている。とにかくボールも人も走るのだ。ヘッドコーチ(HC)ブライアン・ダボールはコンディショニングとアグレッシブさの引き上げを要求しており、ジャイアンツの方向性が変わりつつある。

これまで深淵(しんえん)へ夢中歩行しているかのようだったジャイアンツをそこから救出するため、最新のHCに選ばれたダボールは指揮権を握ってからまだ数カ月だ。そこから数マイル離れた場所に、彼より1年先輩にあたるニューヨーク・ジェッツのロバート・サラーHCがいる。サラーは自分好みのチーム作りを始めてから1年たっているが、基本的には彼も同じ使命を負っている――長年の失敗で積もった灰の中から勝者を作り出すことだ。

これからのシーズンがどこへ向かうのか、結論を引き出すにはあまりにも早いが、両者の比較は避けられない。2週間後にジェッツとジャイアンツは合同練習を予定しており、互いの弱点を利用して自らの弱点を修正したいと考えている。

しかし、今週からプレシーズンゲームの第1週が始まる中、サラーとダボールは再建中のそれぞれのチームについて初期分析を提供し、クオーターバック(QB)について大きく異なるそれぞれの状況を思案している。サラーはフローラムパークで、2年目のQBザック・ウィルソンが見せるであろう躍進に期待を高めている。昨シーズン終盤にウィルソンが成長を見せていたことに加え、それ以来彼は目に見えてバルクアップしており、自らパッシングキャンプを開き、オフェンスの指示についても積極的に声を上げるようになった。

「彼とは毎日一緒に過ごしている」とサラーはウィルソンについて語った。「日々のプロセスを見ている。彼の質問に耳を傾けている。ボディランゲージも分かる。絶えず彼を見守っており、適切なタイミングを計れるだけの長い付き合いになってきたと思う」

意外性はないだろうが、ダボールはまず、自身が引き継いだQBダニエル・ジョーンズをキープするかどうかを考えるところから始めなくてはならない。実態調査に近い形でチームのほぼ全面の評価を改める必要があり、忍耐が必要だ。「われわれは前進したと思う。先行きはまだ長い」と彼は言う。

初期の練習は大きな前進と、多くの改善スペースを両チームに示した。ピンポイントのパスもあれば、意図した標的から大きく外れたパスもあった。成功したブロックも失敗したブロックもある。最も有望といえるのは、両チームが昨年春にドラフトで入れた5人の1巡目指名たちが2022年にすぐさまインパクトを与えられると期待できる輝きを見せたことだろう。両チームがそれぞれの勝利数を倍の8にしたければ必要なことだ。要するに、ジェッツとジャイアンツは再建中のチームが1年のこの時期に示す典型的な様相を見せているわけだ。ややほころびはあるが、エネルギーに満ちていて、完全に予測不能。

ジェッツの解体はすでに過去のものであり、フローラムパーク周辺の雰囲気が自由な楽観性に包まれているのはもっともだといえよう(3年目のタックル、マカイ・ベクトンが膝頭を骨折してシーズン終了の可能性が高いとの知らせが入ってきてはいるが)。一方、まだこれから最も重要な人事的判断が待ち受けるジャイアンツはもう少し慎重だ。

それでも、この時期は期待が高まるものだ。シンシナティ・ベンガルズからやってきたジェッツの新タイトエンド(TE)C.J.ウゾマーは、うっかりジョー・バロウとウィルソンを比べているかのような発言をして、ウィルソンのハードルを引き上げてしまった。もし、2年目にベンガルズをスーパーボウルに導いたバロウのようにウィルソンが2年目の躍進を見せたとしたら、ジェッツはどうなるかと聞かれ、ウゾマーはウィルソンの躍進は仮定ではないと答えた。「もし、じゃなくて、彼は必ずそうする」とウゾマーは言った。

数日後、頭を振りながら彼はウィルソンとバロウを比較したのではないと釈明することに。それでも彼はウィルソンの剛腕を褒めちぎるのをやめなかった。

ウゾマーは確かに、どん底まで落ちてから跳ね返ったチームの曲線について独自の見解を持っている。事実として彼は2019年に2勝しかできなかった組織のメンバーであり、チームはそこからドラフトでバロウを加え、数人の優秀なフリーエージェントを手に入れて、2月のスーパーボウルであと少しで勝利というところまでいった。ジェッツとジャイアンツ――に限らず、どんなチームでも――これほど劇的な転換ができたなら歓喜するだろう。ウゾマーいわく、ジェッツのオフェンスはまだ問題を解決中ではあるものの、彼は苦痛に満ちた過去ばかり見て、ずっと明るいすぐ先の可能性を忘れるようなタイプではないのだという。

「俺は1年1年を新しい年だと思って始めている」とウゾマー。「過去のことでくよくよするのは嫌いなんだ。このチームは以前ああだったとかこうだったとかさ。そのチームはもうない。新しいピースが入ってきた。みんな成長した。楽観主義は正当な理由があってのことだと思う。そう信じられないんなら、フィールドに立たない方がいいんじゃないかな」

ジャイアンツにとって信念を保つべき最も明らかな理由は、バークリーの健康状態が良いことと、彼がキャンプでボールをキャリーしたときの勢いと自信だ。3年近くケガと戦ってきたバークリーにこれまで足りなかったものだ。

ジョーンズと同様、バークリーはルーキー契約の最終年に入っており、彼らの運命は絡み合っている。ジョーンズはこの4年で3つ目のオフェンスを学んでいるところであり、特にトレーニングキャンプの序盤は、攻撃の同期が取れていないのは明らかだった。ダボールのオフェンスはスナップ前のモーションが多いことを特徴とするため、これは予想されたことだ。それはレシーバー陣によると、ジョーンズのターゲットにとってより自由度が高まるという。それにはコミュニケーションと慣れが極めて重要だが、どちらについてもまだ改善が必要だということはチームも率直に認めている。

ジョーンズは4年目に入った今、目にしているものや意思決定について安心感を抱いているという。今のオフェンスがクオーターバックに与えるオプションについて彼は口にしている。それでも、トレーニングキャンプ序盤のうちは彼とオフェンスの間にはむらが見られた。先週、ユニットは練習でより一貫してボールを動かすようになり、スクリメージでターゲットを外す場面も見られたものの、ジョーンズはWRケニー・ゴラデイとの連携を強化して堅実な2日間を過ごした。

「この1週間から10日ほどの間に、コミュニケーションは大きく改善したと思う」とジャイアンツの攻撃コーディネーター(OC)マイク・カフカは述べた。「彼らはミーティングルームで以前より声を上げるようになっている。それはクオーターバックだけではなくレシーバー陣もそうだ。”なあダニエル、それはそうかもしれないが、俺はこう見た”といった感じで、逆もしかりだ。ダニエルも、”こういうふうにヒットすべきだと思う。それか、こうボディランゲージを見せてくれ”と応じる。先週、先々週の半ば頃から彼らがコミュニケーションを活発に取るようになり、状況はとても大きく改善したように思う。それはわれわれが彼らに強く言って聞かせていることだ。話をしなさい、と。レシーバーやクオーターバックだけではなく、オフェンシブライン全体でだ。みんなが同じ考えを持たなければならない」

ダボールはライブのレップスを重視しており、特にこれだけの変化を経たチームならなおさらだ。プレシーズン初戦となる木曜日のニューイングランド・ペイトリオッツ戦では、健康な状態の選手全員をプレーさせるつもりでいる。

これらのゲームはジェッツとジャイアンツがこれからどこまで進む必要があるのかを測る最初の機会となる。これまでいた場所を考えると、何をもってして今季の成功と言えるのかも分からない。プレーオフ進出はもちろんだろう。しかし、それらもまだ少なくとも1年以上先だとしたら、この10年間で芳しい成果を挙げていない2つのフランチャイズにとって祝う価値があるものとは何だろうか?

「われわれは皆――32チーム全てがスーパーボウルを夢見て、プレーオフ進出を願い、地区王者になりたいと思っている」とサラーは言う。「全選手がMVPになりたいと思っている。誰もが長期的な夢を持っている。だが、それを内に秘める自制心をわれわれは持っているし、そうした長期のゴールを達成するためにはどれほどのものが必要かを知っている。全ての瞬間を支配しなければならない。勝利しなければならない。起きた時より強くなって眠りに就かなければならない」

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