引退表明のカーディナルスDEワット、「今が引き時だと少し前から分かっていた」
2022年12月29日(木) 17:58現地27日(火)、J.J.ワットはシーズン残りの2週をもって引退することを発表した。
この結末は計画していたことだと28日(水)に彼は言っている。
「少し前から分かっていたんだ。今がいいタイミングだってね」と引退表明後初めて記者団の前に立ったワットは話した。「そういう感覚がある。ずっとゲームと勝敗に全てを懸けてきたけど、それに伴う精神的ストレスや情熱は重いものなんだ。重い、ものすごく重いよ」
「敗北を認めるのはすごくつらい。俺はずっと気持ちの高揚と落胆の中で生きてきて、その中間なんていらないから、それでいいって言い続けていた。今、俺には息子がいる。今年は心臓のトラブルを経験したから、それもいくらか関係している。でも俺はとても満足しているし、すごく穏やかな気分なんだ」
ワットにはフットボールを離れる理由がたくさんある。だが、それはいずれもパフォーマンスとは無関係だ。33歳で彼は今シーズン、サック9.5回、タックル・フォー・ロス14回、パスディフェンス6回、ファンブルフォース1回とファンブルリカバリー1回を決めている。それも2021年を終了させることになった肩の手術から復帰してのことだ。35歳に近づき、パワーに頼る選手にとっては容易なことではない。
2023年にワットが戻ってきて再び同様のレベルでプレーするというのは至って現実的な予想だった。2017年から奇数年になると起きているケガを除けば、失速する兆候はほとんど見られない。
だがワットはどんな姿で人々に自分を覚えていてもらいたいかを知っている。それは疲れ切った元スターとしてではない。
「まだやれると分かっていて、いいプレーができている時に辞める方がずっといい。そうすれば、いいフットボールをしている俺のことをみんな覚えていてくれるだろう。足を引きずりながら強制的に辞めさせられて、もっと早く引退すべきだったと思うよりずっといい」と彼は言う。
ヒューストン・テキサンズ時代にワットが元チームメイト、クオーターバック(QB)デショーン・ワトソンに対し、「ごめん。俺たちがお前の1年をダメにしちまった」と謝罪する姿を『NFL Films(NFLフィルムズ)』のカメラに撮られたことがある。ワット自身もまだ理解していないかもしれないが、それは彼にとってもキャリア終盤のシーズンの1つを無為に過ごしたということでもあった。
キャリアを通して椎間板ヘルニア、脛骨プラトー骨折、胸筋断裂そして多数の大きなケガをしてきたワットにプレーを続けさせた原動力が何だったかを当てるのは簡単だ。NFLの新たなホームを選ぶにあたって、チャンピオンシップで勝ちたいという欲求に従い彼が選んだのは、チームが完成し、勝利を期待されたアリゾナ・カーディナルスだった。
だが、手に入れることができたのは昨シーズンのスーパーワイルドカードの出場権だけだった。
「それを思うととてもつらい。俺がキャリアを通して手に入れようと格闘してきたものだからね」とワットは言う。「確実に俺の中には一度もチャンピオンシップで勝てなかったっていう大きな悲しみ、失望、いら立ちが残るのは間違いない。それは長いこと悩んだ。でも同時に違う視点に立ち、子供の頃に戻ってこれだけのことをやり遂げたと考えたら、誇らしいし、感謝の気持ちを抱くだろうと思ったんだ」
「だから俺は愛と感謝だけを持って去ることができる。チャンピオンシップで勝ったか? と聞かれればノーだ。でも俺は文字通り大勢の人が何と引き換えにしてもいいと思うような夢をかなえた。誰もが憧れる職業に就いた。文字通り、途方もない夢をかなえたんだ。トロフィーは持っていないかもしれないけど、俺はよくやったし、心から感謝している」
確かに彼はよくやっている。10月に彼は父親になった。妻のケアリア・オハイさんと共に、この世に息子コアを迎えている。先週末、一家はコアくんを初めてNFLの試合に連れてきていた。それはまた、ワットのプロとして最後のホームゲームでもあった。
シーズン中には健康上の不安が生じたこともあり、それも彼の価値観にいくらか影響したかもしれない。子供が生まれる数週間前に彼は心房細動を起こして医師の診断を受け、心拍を正常に戻すために電気ショックを受けていた。その週に彼は試合に出場し、3回のタックルを記録。チームは26対16でカロライナ・パンサーズに勝利した。
新しい家族が家で待つワットは、フットボールではなく彼らのために自分をささげるときが来たのだと理解した。
「妻と息子が俺の人生に加わり、それに考えやエネルギーを多く取られるようになった」と彼は言う。「だけど、毎週の勝ち負けや、そのために投じるエネルギーや努力、準備は全く変わらなかった。正直、引退を決めた理由の1つはそれだと思う。もうそこに全てのエネルギーを投じるのはやめたいんだ」
「他にも目を向ける時が来た。俺は息子の成長を見たい。妻ともっとたくさん時間を過ごしたい。どんなものであれ、新しいチャレンジに向かう準備はできている。どんなものが自分を待ち受けるのか、楽しみにしているよ」
2週間後、ワットは大いに誇れるキャリアを手にNFLを去る。いずれプロフットボール栄誉の殿堂入りするのは疑いのないことで、その時にはケアリアとコアが誇らしい笑みを浮かべることだろう。ワットの輝かしいフットボールの旅路はカントンで終着点を迎える。
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