ポッドキャストで互いを称賛し合ったトム・ブレイディとビル・ベリチック
2023年02月08日(水) 18:48トム・ブレイディとビル・ベリチックがブレイディのポッドキャストで再びタッグを組んだ。
現地6日(月)夜、ニューイングランド・ペイトリオッツのヘッドコーチ(HC)であるベリチックは、ブレイディがジム・グレイと共にホストを務めるポッドキャスト『Let’s Go!(レッツ・ゴー)』にサプライズで出演。今回のエピソードはブレイディが23年間のキャリアに幕を閉じることを発表してから初めて臨んだものだった。ブレイディが2020年に気まずい形でペイトリオッツを去ったことをまったく知らない人が聞けば、ブレイディとベリチックは親しい間柄であり、ひょっとすると仲の良い友人であるかと思ったかもしれない。
たとえ離別の経緯を知っていたとしても、長年パートナーだった彼らの間に再び純粋な、互いへの称賛があると思わずにはいられないような内容だった。特に、ベリチックはかつてのクオーターバック(QB)を盛んに褒めている。ペイトン・マニングやロブ・グロンコウスキー、さらにはオプラ・ウィンフリーまで登場した豪華な回で、ベリチックとブレイディのブーケトスが目玉となっていた。
ベリチックは「特にフィルムルームでは、フットボールの話などをして、私たちは本当にいい関係を築いていた」と述べている。「これからもずっと大切にするつもりだし、そこから多くのことを学んだ。なぜならトム・ブレイディほど試合をよく見ている人、あるいは見ていた人はいないからだ。彼と彼のビジョンから学べたのはとても幸運だった」
「他のどのコーチもそのような経験はできない。つまり、信じられないほど素晴らしいことだった」
これほど素直なベリチックを見ることは滅多にできないだろう。ブレイディはそうした称賛に応えながら、多くの人が疑っているほど自分たちが対立しているわけではないとの考えを重ねて強調した。
明らかに感情的になりながら「ベリチックコーチとはドラフト指名されたその瞬間から素晴らしい関係を築いてきたと思う」と語ったブレイディはこう続けている。「他の多くの人が見出さないようなものを僕の中から見出してくれる人に出会えた」
「彼はこのスポーツのことも、教えることも、指導することも、競争することも愛しているし、彼以上にそれをうまくやり遂げた人はいない。自分にとってはなんて幸運なんだろう。彼がいなかったら個人としてこういう成功を収められなかったと思うし、それにはとても感謝している」
今回のポッドキャストはそれぞれの素晴らしさを知っている人なら誰でも楽しめる、ノスタルジックな内容となっている。2人とも自分たちの関係性やこれからの人生の方向性に心から安らぎを感じている様子だった。オーナーのロバート・クラフトがブレイディにペイトリオッツの一員として引退してほしいと申し出たのは、それほど突飛なアイデアではなかったのかもしれない。
ベリチックはブレイディが長期にわたって活躍し続けた理由の1つをこう要約している。“彼はフィールド上のすべてを見ていたのだ”と。
「トムはミーティングで私がどれだけのことを彼に教えたかという話をしたが、私はトムから多くを学んでいる」と説明したベリチックHCはさらにこう続けた。
「なぜなら、私はクオーターバックをプレーしたことがないし、クオーターバックの目を通じて試合を見たこともない。私はコーチの目でそれを見ており、トムは私に、彼が何を見たかや、どう見ているかを教えてくれる。試合の中で彼が戻ってきて、私が“あのプレーで何があった?”と聞くと、彼は起こったこと8つを教えてくれる。信じられないほど素晴らしかった。“タックルが僕の前に飛び込んできた。この選手が滑り込んできた。ラインバッカーがワイドな位置についたのが見えた。セーフティは僕が思ったよりも少しディープなところにいた。そのときにこの選手が前に来て、他の選手が近づいてくるのが見えたから、僕は彼の後ろに少し入るような感じになった”という具合だ。後からフィルムを見れば、すべてが彼がフィールドで説明した通りに起こっている。“この男にはすべてが見えている“と思ったものだよ」
ベリチックはまた、自分が向上し、偉大さを追求しつつ、ベリチックから特別な扱いを受けているわけではないことをペイトリオッツのチームメイトたちに示すために、ブレイディが厳しいコーチングやミーティングでのきつい意見を求めたとも話している。スタークオーターバックをどう扱うかについては、カレッジバスケットボールの手法にインスピレーションを得たとベリチックは振り返った。
「選手たちはいつも、戻ってきては“なあ、最初のミーティングでベリチックがブレイディを叱っていたぞ。彼がブレイディにあんな感じなら、俺は率直になった方がいい。どうなるかは分かってるから”という具合だ」
「そして実際に、私はそれをナイトコーチ(カレッジバスケットボールコーチのボビー・ナイト)のやり方にならった。なぜなら、ナイトコーチが私に、(1984年の)オリンピックチームでマイケル・ジョーダンにやったことがそれだと教えてくれたからだ。彼は“なあマイケル、お前をぶっ飛ばすつもりだ。お前をぶっ飛ばすことなしに、他のやつらにやれないからな”と言ったそうだ。ジョーダンは“やってくれよ。俺にはそれが必要だし、チームメイトたちとの間の助けになる”と答えた。トムとも同じようなことをやった。彼はそれを感謝していると言ってくれたよ」
それがうまくいった。2人は最も成功したコーチと選手のコンボとなった。それはNFLの歴史上に限ったことではなく、スポーツ全体の歴史を振り返っても言えることだ。2人はレギュラーシーズンとプレーオフで249勝を挙げており、これはQBとコーチのデュオによるものとして最も多い。19年のスパンの中で、AFC東地区タイトルを17回獲得している。ポストシーズンに41勝し、共に9回のスーパーボウルに出場して6回の優勝を遂げた。
2020年にブレイディはフリーエージェントになった。そのプロセスは、ブレイディが新たな長期契約を獲得できなかった2年前から始まっていた。しかし、ブレイディは2人の男たちとチームを分裂させようとする者たちを批判している。それは、世界に向けたメッセージのようだった。“自分たちは今、穏やかだ”というメッセージだ。
「ブレイディ対ベリチックっていうのは、いつでも愚かな議論だと思う」とブレイディは話した。
「僕の考えでは、パートナーシップっていうのはそういうものじゃない。コーチはクオーターバックをプレーできないし、僕はコーチできない。コーチは何度も“自分の仕事をしろ”と言っていた。彼は僕に、クオーターバックをプレーすることを求めた。コーチの仕事なんて、求めていなかった」
ブレイディがキャリアを振り返る上で――それも2度目のことだが、今回のポッドキャストでは“これっきり”と主張している――、最初のコーチが自分のキャリアにとってどれだけ重要だったかを認めないわけにはいかないようだ。
「僕のベストを引き出すために、彼が何をしなかったかがより重要だ。僕らは多くの時間を一緒に過ごした。僕がプレーを始めたとき、彼はフットボールとは何か、どうディフェンスを学ぶかを教えはじめた」とブレイディはコメントしている。
「“これがNFLでどうクオーターバックをプレーするかだ”と言う以上に優れた指導者なんか、想像できない」
【RA/A】