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QBスニークでチーフスより優位に立つイーグルス

2023年02月11日(土) 00:40

カンザスシティ・チーフスのパトリック・マホームズとフィラデルフィア・イーグルスのジェイレン・ハーツ【NFL】


ビンス・ロンバルディがかつて語ったように「フットボールはインチのゲーム」であり、残り数インチとなったときにチェーンを進める最も簡単な方法は直線を使うことだ。

フィラデルフィア・イーグルスはこのシンプルなジオメトリーを使って第57回スーパーボウルへの道を切り開いてきた。彼らはこのスポーツの中で一番確実なコールの一つを使って、ドライブを延ばしている。すなわち、クオーターバックスニークだ。『Pro Football Focus(プロフットボール・フォーカス/PFF))』によれば、イーグルスはプレーオフを含む2022年シーズンに、クオーターバックスニークでファーストダウンを31回獲得してきたという。その視点からすると、過去15年において、1シーズンにクオーターバックスニークで20回以上のファーストダウンを獲得したオフェンスは他にない。

今季のクオーターバックスニークの回数でイーグルスが異例なのは確かだが、全体的な傾向を反映してもいる。過去2シーズンにおいて、リーグ全体でショートヤードのデザインプレーが急増しているのだ。

<リーグ全体の各シーズンのクオーターバックスニーク数>

回数が大幅に増加しても、このプレーコールの信頼度は変わらない。今季のクオーターバックスニークによるNFLチームのファーストダウン成功率は83%で、2006年以降で最高の数字となっている。PFFのデータによれば、この成功率はNBAのフリースロー成功率(78%)に匹敵する。そのことを踏まえれば、一つの疑問が生じるだろう。リーグがクオーターバックに傾くのに、なぜ長い時間がかかったのか?

クオーターバックスニークの起源を追うのは驚くほど難しいが、プレーコールの図は1922年のものが見つかっている。当時でさえ、“ポット”ことアーネスト・グレーブスコーチらが、QBスニークはショートヤードのコンバージョンにおけるチートコードだと理解していた。それはグレーブスの著書である『40 Winning Plays in Football(フットボールの勝てるプレー40)』に見て取れる。スニークの図につけた解説の中で(ティモシー・P・ブラウンのスニークの歴史をひもとく記事の中で強調されているように)、グレーブスは“優れたセンターとガードがいれば、守備チームが1ヤードや2ヤードの短いプレーで止めることは不可能”だと指摘している。

現代のフットボールを100年前のものと比べることは難しいかもしれないが、ともあれ、2点間の最短距離は直線だ。以前よりも第4ダウンで挑戦するようになっているリーグにおいて、クオーターバックスニークの機会は今まで以上に増えている。とは言え、クオーターバックスニークの急増は、第4ダウンの哲学の変化を超えたところにある。イーグルス(そしてリーグ全体のチーム)は今季に、第4ダウンよりも第3ダウンでクオーターバックスニークを使っているのだ。

クオーターバックスニークはイーグルスのアイデンティティの一部になった。イーグルスの優秀なオフェンシブラインはこのプレーコールを、クオーターバックをスティックの向こう側まで通すための隙間を作るために、基本的にはディフェンスで最も大柄な選手たちと1対1のマッチアップになる状況を通じて、前線の価値を証明する機会だととらえている。イーグルスのクオーターバックは高校時代にパワーリフティングの経験があり、600ポンド(約272kg)を上げていた。また、イーグルスのコーチングスタッフはクリエイティブであり、チームメイトがボールキャリアを前方に押すことを可能にした2006年のルール変更の曖昧(あいまい)な点を攻めている。イーグルスはリーグでも最も評判の高い部類の分析部門を擁しており、その分析の結果、第4ダウンで積極的に攻撃するようになっているようだ。

ロースター構築とオーガナイゼーションの哲学の完ぺきなマッチが、イーグルスを最近のリーグが見せているクオーターバックスニークの傾向の最前線へと駆り立てた。この戦略の即時的な影響は明らかだ。ドライブを維持し、得点の機会を延長し、ポゼッションを長くして相手ディフェンスを疲弊(ひへい)させる。第3ダウンをスティック手前で止めながらも、残り距離が少ない第4ダウンでフィールドを去れないこと以上に、ディフェンスの士気をくじくものはあまりない。

効果的なクオーターバックスニークパッケージのはっきりと分かる影響以外にも、二次的な効果がある。ドライブを維持するために第3ダウンでファーストダウンを獲得しなければならないというプレッシャーがなく、プレーブックがスティックまでの距離が短いエリアでの攻撃に対して開かれ、フォース・アンド・ショートで簡単なコンバージョンのお膳立てがされる。イーグルスがサード・アンド・ミディアム(3ヤードから6ヤード)の状況でデザインされたランを行った割合はリーグトップの32%であり、それらのランの半分以上でファーストダウンを獲得した(23回中12回)。そういったプレーのうちの11回ではファーストダウンを獲得できなかったものの、その中の8回で攻撃を続行し、6回はファーストダウンにつなげている。サード・アンド・ミディアムでランをコールしたときのシリーズコンバージョン率は驚異の78%だ。過去15年にわたってリーグ全体でクオーターバックスニークが記録してきたのと、同じコンバージョン率となっている。

イーグルスのクオーターバックスニークによる成功は、相手の守備コーチングスタッフの貴重な準備期間を、止めることが不可能なもの止めるための準備に浪費させることになる。ダラス・カウボーイズの守備コーディネーター(DC)であるダン・クインはスクラムのテクニックをスニークに対する守備に応用できないか、プロラグビーのコーチに教えを乞うことさえした。結果として、それはうまくいかなかった。

ディフェンスがクオーターバックスニークを止めるためにリソースを割けばそれだけ、空いたスペースへのカウンター攻撃に無防備になる。その模様は、現ジャクソンビル・ジャガーズヘッドコーチ(HC)で、元イーグルスHCのダグ・ペダーソンによって、プレーオフですでに展開されていた。

ジャガーズがスーパーワイルドカード週末にロサンゼルス・チャージャーズと戦った際、重要な第4クオーターでのフォース・アンド・インチの状況で、ペダーソンは攻撃陣をクオーターバックスニークのような形に配置した。スナップのとき、QBトレバー・ローレンスは後ろに身を翻し、ランニングバック(RB)トラビス・イーティーエンにボールを手渡す。イーティーエンはチャージャーズ守備陣をかわし、爆発的な25ヤードのランで決勝点となるフィールドゴールのための手はずを整えた。

スーパーボウルは常識破りを起こすための最高の舞台だ。したがって、カンザスシティ・チーフスは日曜日にQBジェイレン・ハーツがショートヤードの状況でセンター後ろについたとき、警戒態勢を強めなければならない。試合は接戦になると見られており、いずれのチームも、使えるものはすべて活用したいと考えるだろう。

クオーターバックスニークに関しては、イーグルスに明らかなアドバンテージがある。イーグルスは攻撃において、彼らの成功を維持することができるはずだ。PFFによれば、チーフス守備陣は今季に15回中14回のクオーターバックスニークで相手にファーストダウン獲得を許したという。一方で、チーフスQBパトリック・マホームズは2019年シーズン第7週にクオーターバックスニークで負傷し、2試合を欠場して以来、このプレーを試みていない。チーフスがそれ以降でクオーターバックスニークをコールしたのはわずか6回(対するイーグルスは70回)で、そのすべてでこのプレーを実行するためにタイトエンド(TE)ブレイク・ベルもしくはノア・グレイがマホームズの代わりにボールを運んでいた。

イーグルスが何度かドライブをつなげ、マホームズがボールを持つ時間を最短にとどめることができれば、日曜日に2回目のロンバルディトロフィー獲得を実現できる可能性は高まるだろう。

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