ニュース

2023年NFLフリーエージェンシー情報

2023年03月02日(木) 09:36


NFLロゴ【Aaron M. Sprecher via AP】

NFLのフリーエージェンシー期間は選手たちにとって大型契約を手にしたり、よりフィットするチームを見つけたりするチャンスであると同時に、チームにとってはロースターをアップグレードし、改善するための機会でもある。しかし、きわめて基本的な前提――選手がプレーしたいと思うチームと契約すること――として、そこには毎年この時期に話題になるいくつかの用語がからんでくる。

NFLの団体労働協約(CBA)は456ページにおよぶ、分厚い法的文書だ。CBAそのものを読みたいという奇特な方にはそうしていただくとして、ここではNFLのフリーエージェンシーや契約に関する重要な項目をまとめる。

まずはフリーエージェンシー期間自体について概説する。この期間はNFLのリーグイヤー開始(2023年はアメリカ東部時間3月15日16時/日本時間16日6時)時にスタート。同じタイミングで、チームの出費はその年のサラリーキャップ(2023年は1チームあたり2億2,480万ドル/約306億4,474万円)によって制限される。

チームは“2デー・ネゴシエイティング・ピリオド”と呼ばれる、2023年のフリーエージェンシーが始まる前の期間(2023年は東部時間3月13日12時から3月15日16時)に、非制限フリーエージェントになる予定の選手のエージェントと交渉することができる。以前には禁じられていたものの、自身で交渉を行う選手(代理不在選手)も、この期間にチームのフロントオフィスのメンバー(コーチングスタッフは不可)との話し合いが可能になった。

新リーグイヤーが始まって前シーズンの契約が終了すると、交渉期間がスタート。制限付きフリーエージェントへのテンダーはここまでにオファーされなければならない。このタイミングでフリーエージェントの選手は正式に新契約にサインできるようになり、トレードが公式なものとなる。

フリーエージェンシーの日程や契約に関する用語については下記の通り。

【主要日程】
2月13日:ウェイバーシステム開始(アクルードシーズンが4年以上の選手はトレード終了日までウェイバーの対象外、“アクルードシーズン”については下記参照)。
2月21日から3月7日:フランチャイズタグもしくはトランジションタグ指定期間。
3月13日から15日:フリーエージェンシー開始前の合法的交渉期間。
3月15日(東部時間16時):2023年NFLリーグイヤー開始。チームはサラリーキャップ下に置かれる。トレードおよびフリーエージェンシー期間開始。制限付きフリーエージェント(RFA)および独占権フリーエージェント(ERFA)へのクオリファイングオファー提示期限。チームは2023年の契約オプションを行使しなければならない。
4月3日:新ヘッドコーチ(HC)を迎えたチームはオフシーズンのワークアウトプログラムを開始可能。
4月17日:HC継続のチームがオフシーズンのワークアウトプログラム開始可能。
4月21日:制限付きフリーエージェントの契約締結期間最終日。
4月27日から29日:NFLドラフト(於カンザスシティ)。
5月1日:2020年NFLドラフト1巡目指名選手の5年目オプション(2024年)行使期限。
6月17日:チームとフランチャイズタグを指定された選手による複数年契約の締結期限。

【フリーエージェンシーの種類】

非制限フリーエージェント(UFA)
アクルードシーズンが4年以上で、契約が終了している選手。どのチームとも交渉および契約可能。

制限付きフリーエージェント(RFA)
アクルードシーズンが3年で、契約が終了している選手。RFAはどのチームとも交渉および契約可能だが、前所属チームが異なるクオリファイングオファー(テンダー)の中から一つをオファーできる。クオリファイングオファーには優先交渉権や補償ドラフトの双方、もしくはいずれかが含まれる。テンダーがチームによって撤回された場合、その選手は非制限フリーエージェントになる。2023年の場合、チームはこれらのテンダーを3月15日東部時間16時までに提出しなければならない。金額は年によって異なり、以下に示されるのは2023年シーズンのもの。

<RFAテンダー>

1巡目テンダー:(a)600万5,000ドル、もしくは(b)選手の前年の基本給の110%以上の、金額の大きい方による1年契約。選手の前年度のチームが、他のチームがサインしたオファーシートに対抗しないと決断した場合、選手の新しいチームからドラフト1巡目指名権が獲得できる。NFLドラフトより2日前から当日までに受け取ったものでない限り、各テンダーに対する補償としてのドラフトはオファーシートにサインされたのと同一のリーグイヤーに対するものとなる。

前所属チームはサインされた新チームとのオファーシートに含まれる主要条件に対抗しなければならない。しかしながら、フランチャイズプレーヤーにRFAを指定することを放棄、もしくは制限することが新チームの条件に含まれている際、旧所属チームは当該プレーヤーに1巡目テンダーを50万ドル以上超えるオファーを提示した場合、この条件に対抗する必要はない(2023年の場合、1巡目テンダーは600万5,000ドルであるため、この場合のオファーは650万5,000ドルに相当する)。

2巡目テンダー:(a)430万4,000ドル(約5億8,672万円)、もしくは(b)選手の前年の基本給の110%以上による1年契約。ドラフト補償は2巡目指名権。

オリジナルラウンドテンダー:(a)274万3,000ドル(約3億7,393万円)、もしくは(b)選手の前年の基本給の110%以上による1年契約。ドラフト補償は当該選手をドラフトした際のラウンドの選択権。

優先交渉権テンダー:262万7,000ドル(約3億5,815万円)による1年契約。チームには他のチームとのサインされたオファーシートに対抗する権利があるものの、ドラフト上の補償はない。

アップグレードテンダー:あるチームが1巡目以外で選択した選手に1巡目テンダーを指定した場合、1巡目指名を受けた他のRFAに関しては、どの選手も2巡目指名権しか受け取れない。これは2巡目テンダーについても同じことが言える。あるチームが3巡目以降で指名された選手に2巡目テンダーを指定した場合、他の2巡目指名のRFAとの引き換えとしては3巡目指名権しか受け取れない。例えば、ニューオーリンズ・セインツは2020年のオフシーズンにQB/RB/WR/TEのテイサム・ヒルに1巡目RFAテンダーを適用した。セインツに元1巡目指名のRFAがいた場合、チームはオファーシートを辞退した場合に2巡目指名権しか受け取れなかったことになる。

2023年の注目制限付きフリーエージェント
QBタイラー・ハントリー(レイブンズ)、QB P.J.ウォーカー(パンサーズ)、RBジェームズ・ロビンソン(ジェッツ)、WRニック・ウエストブルック(タイタンズ)、WRマーキス・キャラウェイ(セインツ)、TEユウォン・ジョンソン(セインツ)、OTテレンス・スティール(カウボーイズ)、IDLティエア・タート(タイタンズ)、CBマイルズ・ハーツフィールド(パンサーズ)、CBデーン・ジャクソン(ビルズ)、Sライアン・ニール(シーホークス)

独占権フリーエージェント(ERFA):アクルードシーズンが3年以下で契約が終了している選手。元所属チームがリーグの定める最少額(クレジティッドシーズンに基づく)で1年契約を提示した場合、選手は他のチームと交渉することができない。

2023年の注目独占権フリーエージェント
RBクレイグ・レイノルズ(ライオンズ)、WRグレッグ・ドーチ(カーディナルス)、WRジャワン・ジェニングス(49ers)、CBマイク・ジャクソンSr.(シーホークス)

<アクルードシーズン>
選手のフリーエージェンシーにおけるステータス(非制限、制限付き、独占権)を定めるために使用される基準。あるシーズンを成立(accrue/アクルー)したものとしてみなすためには、選手は一つのシーズンに少なくとも6試合のレギュラーシーズンゲームをフルプレーのステータスで過ごさなければならない。基本的に、シーズンが成立したものとして見なされるには、選手はそのシーズンの少なくとも6つのレギュラーシーズンゲームでアクティブ/インアクティブリスト、故障者リザーブ、もしくはリザーブPUPリストに置かれている必要がある。契約下にある選手は集合が義務付けられた日にチームのトレーニングキャンプに出向かなければならない。“重大な期間”にわたってホールドアウトした選手は、アクルードシーズンの計算もリスクにさらすことになる。

<クレジティッドシーズン>
金銭面で多くの事項の算定に利用される基準。最も知られているところでは、選手の最少サラリーを決定するために使われている。クレジティッド(credited/認められた)シーズンを追加するには、選手はレギュラーシーズンの3試合以上で完全に支払いを受けている状態である必要がある。

クレジティッドシーズンに基づく2023年の最少サラリー
0年:75万ドル
1年:87万ドル
2年:94万ドル
3年:101万ドル
4年から6年:108万ドル
7年以上:116万5,000ドル

【タグ】
フランチャイズ(もしくはトランジション)タグは、フリーエージェントになる選手(制限付き、もしくは非制限)の一人の流出を抑えるためにチームによって用いられるもの。各チームは1回のオフシーズンにつき一つのタグの使用を認められている。

チームは新リーグイヤーの22日前から8日前の東部時間16時までタグを指定できる。2023年の場合は2月21日から3月7日までになる。

選手がサインする前の段階ならば、チームはいつでも各種のタグ(非独占的、独占的、トランジション)を撤回できる。しかしながら、いったんサインされれば、テンダーはスキル、キャップ、負傷に対して保証される。別のチームにトレードされる場合、選手はテンダーにサインしなければならない。

チームとフランチャイズプレーヤーは7月17日まで複数年契約を締結可能(通例としては7月15日だが、2023年は7月15日が土曜日のため、その次の月曜日になる)。その期日までに延長がなければ、チームと選手は当該シーズンについては1年契約にしか合意できない。

指定された選手が当該シーズンにおけるプレー資格を継続するには、シーズン第10週明けの火曜日までにテンダーにサインしなければならない。

前年度のサラリー(Prior Year Salary/PYS)
選手のPYSは前年度のリーグイヤーにおけるベースサラリー、ロースターおよび集合ボーナス、配分されたサインボーナス、その他のプレーに対する支払いから構成され、ロースターおよび(オフシーズンアクティビティへの)集合ボーナス以外のすべてのパフォーマンスボーナスは除外される。PYSはタグの計算に使われるため、重要な数字になる。

非独占的フランチャイズタグ
非独占的フランチャイズタグを指定された選手は自由に他のチームと交渉できる。この選手は次のいずれかの金額が大きい方のサラリーによる1年契約を受け取る。すなわち、(a)同一ポジションの選手たちの平均キャップ割合に基づいた額(過去5シーズンにおける同一ポジションの選手のフランチャイズタグ価格の合計を過去5シーズンのサラリーキャップ合計で割ったものに、今年のサラリーキャップを乗じたものに等しい)もしくは(b)PYSの120%(当該選手の前年度のキャップナンバーからパフォーマンスインセンティブを引いたもの)だ。

非独占的フランチャイズタグを使用したチームには優先交渉権がある。タグ付けされた選手が他のチームのオファーシートにサインする場合、その選手の前所属チームにはそのオファーシートに対抗するために5日間が与えられる。対抗しないことを選択した場合、前所属チームは2つの1巡目ドラフト指名権に相当するドラフト選択での補償を受ける資格が生じる。

2023年の非独占的フランチャイズタグ指定選手:DTダロン・ペイン(コマンダース)

2023年の非独占的フランチャイズタグサラリー
QB:3,241万6,000ドル
RB:1,009万1,000ドル
WR:1,974万3,000ドル
TE:1,134万5,000ドル
OL:1,824万4,000ドル
DE:1,972万7,000ドル
DT:1,883万7,000ドル
LB:2,092万6,000ドル
CB:1,814万ドル
S:1,446万ドル
K/P:539万3,000ドル

独占的フランチャイズタグ
独占的フランチャイズタグを指定された選手は他のチームと交渉できない。選手は(a)現リーグイヤーの制限付きフリーエージェント契約期間終了時(2023年4月21日)時点の、自分と同じポジションのPYSトップ5の平均値、もしくは(b)非独占的フランチャイズタグのうち、より高額な1年契約を受け取る。2022年に独占的フランチャイズタグを指定された選手はいなかった。

最後に独占的フランチャイズタグを指定されたのはダック・プレスコット(ダラス・カウボーイズ、2021年)。一方、レイブンズQBラマー・ジャクソンはこのオフシーズンに非独占的タグの有力候補だと見られている。

トランジションタグ
トランジションタグを指定された選手は他のチームと自由に交渉できる。選手は(a)同じポジションのPYSトップ10の平均キャップ割合(計算法は上記)、もしくは(b)自身のPYSの120%の高額な方による1年契約を受け取る。こういった選手が新チームとのオファーシートにサインする場合、元所属チームにはオファーシートに対抗するために5日間が与えられる。トランジションタグはフランチャイズタグのより安価な代替策(一例として、2023年のQBのフランチャイズタグは3,241万6,000ドルであるのに対し、トランジションタグは2,950万4,000ドル)となっている。とは言え、元所属チームが対抗しないと決めた場合にもドラフトでの補償はない。トランジションプレーヤーが7月22日までに新チームのオファーシートにサインしていない場合、そのシーズンに関しては元所属チームとしか交渉および契約できない。2022年にトランジションタグを指定された選手はいなかった。

最後にトランジションタグを指定された選手:ケンヤン・ドレイク(カーディナルス、2020年)

複数回のフランチャイズタグ指定
2回目のフランチャイズタグを指定された選手は、前年度のフランチャイズタグによるサラリーの120%(もしくは、該当シーズンのタグナンバーが高ければそちら)を受け取ることになる。3回目のフランチャイズタグ指定の場合、選手は(a)クオーターバックのタグ、もしくは(b)ポジション内のPYSトップ5の平均値、もしくは(c)2回目のフランチャイズタグのサラリーの144%の中で、最も高額なものを受け取る。

例として、このオフシーズンに2回目のフランチャイズタグ指定を受ける可能性が最も高いと見られているチーフスのレフトタックル(LT)オーランド・ブラウンのケースを見てみよう。2023のオフェンシブラインマン(OL)のフランチャイズタグの額は1,824万4,000ドル。しかしながら、カンザスシティが2022年にもタグを指定されていたブラウンに2回目のフランチャイズタグ指定をする場合、その価格は1,999万4,000ドル(175万ドル上昇)になる。これは、昨シーズンのブラウンのフランチャイズタグ(1,666万2,000ドル)の120%が、今年のオフェンシブラインマンのタグより高額なのが理由だ。

【A】