またしてもスーパーボウルで敗れた苦しみに耐える49ersのシャナハンHC
2024年02月13日(火) 16:33サンフランシスコ・49ersのヘッドコーチ(HC)カイル・シャナハンは、自分と同じ状況に置かれたヘッドコーチなら誰でもとる言動をとった。シャナハンHCはチームが今シーズンに与えてくれたものをすべて称賛。そして、ロッカールームで予想される苦悩や、紙吹雪が相手チームに降り注ぐときに感じるつらさを認めながら、49ersがどのようにして来年にあと1勝を挙げる方法を模索していくかについて語っている。シャナハンHCはこうしたコメントを暗記しているのだろう。それを口にする練習を何度もしてきたはずだからだ。
49ersがカンザスシティ・チーフスに25対22で敗れた第58回スーパーボウルは、チーフスがNFLの最新の王朝になった試合として長く記憶されるだろう。また、それはシャナハンHCがなぜスーパーボウルで敗れ続けるのかを考える新たな機会にもなった。今回の結果を受けて、シャナハンHCはヘッドコーチとしてこの5年で2度、スーパーボウルでの敗北を喫したことになる――前回は、第54回スーパーボウルでチーフスに敗れた。また、アトランタ・ファルコンズで攻撃コーディネーター(OC)を務めていた際にも、ファルコンズは第51回スーパーボウルでニューイングランド・ペイトリオッツに打ち負かされている。オフェンスの天才と評判のコーチが、これほどチャンスに恵まれながらロンバルディトロフィーを手にしていないのは信じがたいことだ。
シャナハンHCが厳しい試合に直面してきたのは事実だ。特に、チーフスのアンディ・リードHCがこの5年で3度の優勝を経験していることを踏まえるとそう言えるだろう。今回の試合でも、チーフスは勝利につながるプレーを十分に披露し、49ersに悔しい思いを味わわせている。
試合後の記者会見で「選手を思うと一番つらい」と述べたシャナハンHCは「ここに来るのにどれだけの時間がかかり、NFLのシーズンを乗り切るのにどれだけの時間がかかるかは言葉にできない。選手たち――彼らのことを思うと一番つらい」と続けた。
シャナハンHCにとってつらいのは、自分のチームが勝利まであと少しのところまで迫ったにもかかわらず、それをつかみ取れなかったという部分だろう。ファルコンズは第51回スーパーボウルで28対3とリードしていたが、延長戦でペイトリオッツに逆転されてしまった。また、49ersは第54回スーパーボウルの第4クオーターで10点リードしていたにもかかわらず、その試合でもチーフスに逆転勝ちを許している。今回のスーパーボウルでも、49ersは10対0でリードしていたが、またしてもそれは十分ではなかったことが明らかになった。
49ersは今回のスーパーボウルに、より優勢なチームとして臨んでいた。一方、ポストシーズンで数カ月前よりもいいパフォーマンスを見せていたチーフスは、49ersに有利な状況を作らせなかった。ランニングバック(RB)クリスチャン・マカフリーはトータルで160ヤードを稼いだものの、マカフリーがオープニングドライブで喫したファンブルは大きな痛手となっている。また、チーフスがパントした際にブロックを担当していた49ersのコーナーバック(CB)ダレル・ルーターJr.の足にボールが当たり、それが49ers陣の深い位置でチーフスのCBジェイレン・ワトソンの手に渡ったプレーも、同様に痛手となった。
ワトソンのリカバリーを生かし、チーフスのクオーターバック(QB)パトリック・マホームズは次のドライブでワイドレシーバー(WR)マルケス・バルデス・スカントリングに16ヤードのタッチダウンパスを通し、それで一気に流れが変わっている。QBブロック・パーディーが効率的なプレーを披露したり、試合の前半にマホームズを苦しめたディフェンスが奮闘したりと、49ersには良い点が多くあった。それはまた、シャナハンHC率いるチームがうんざりしているに違いない部分でもある。シャナハンHCのチームは単に、スーパーボウルをどうすればうまく締めくくれるのかが分からないのだ。
パーディーが肘を負傷したことで昨季のNFC(ナショナル・フットボール・カンファレンス)チャンピオンシップゲームで敗れた49ersにとって、今季は雪辱を果たすシーズンになるはずだった。しかしそれは、49ersがこのような瞬間にいかに痛い目に遭うかを思い知らせるものとなっている。
試合後のロッカールームの雰囲気について聞かれたパーディーは「大体の選手は静かだし、今も静かだ」と返答。
「あまり多くは語られていない。ただただ苦しい。1年中、これを成し遂げたかったのに、あと一歩届かなかった。そりゃあきついさ。ここ数年の経験から、誰もがそれを切望していた。今はまだ考えをまとめようとしているところだ」
パーディーの存在は、現在のチームで優勝する最高のチャンスをシャナハンHCにもたらしている。キャリア2年目のパーディーはシーズンを通してMVP級のプレーを見せ、シャナハンHCがその有能なオフェンスでまさに必要としている存在となっていた。チーフスのディフェンスはシーズンを通して好調だったため、49ersはチーフスが手強い相手になることを理解していた。チーフスの守備コーディネーター(DC)スティーブ・スパグニョーロが仕掛けてくるディフェンスを、シャナハンHCがどう攻略するかが、この試合の大きなポイントになるはずだった。
パーディーはほとんどの部分でコールに対応。タッチダウンパスを通せた可能性がある場面でいくつかミスをしたものの、それは早く投げなければならないほどチーフスからプレッシャーを受けていたことに関係している。延長戦で、パーディーがエンドゾーンでWRジャワン・ジェニングスにパスを投げ損ねたとき、それは明らかに問題になっていた。チーフスのディフェンシブエンド(DE)クリス・ジョーンズはパーディーを苦しめ、ボールはワイドオープンになっていたレシーバーの頭上を通過。結果として49ersはタッチダウンを決めることなく、キッカー(K)ジェイク・ムーディにフィールドゴールを蹴らせている。
そのあとはマホームズの時間だった。マホームズはプレー13回、75ヤードのドライブを演出し、最後はWRメコール・ハードマンに3ヤードのタッチダウンパスを通している。今回の勝利で自身3度目となるスーパーボウルMVPに選ばれたマホームズには、またひとつ素晴らしい瞬間が訪れた。マホームズは49ersに勝利した第54回スーパーボウルの第4クオーターに、チームが21ポイントを獲得するよう導いた張本人だ。
タイミングが合わない時もある――それが、シャナハンHCにとってのもう1つの現実だ。ファルコンズ時代は元QBトム・ブレイディが率いるチームに敗れ、マホームズには2度、痛い目に遭わされている。試合後に本人が認めたように、シャナハンHCはマホームズがプレッシャーのかかる場面でいかに素晴らしいプレーを見せるかをオフェンスに意識させなければならないことを知っていた。第4クオーター序盤、チーフス陣15ヤードラインからの第4ダウン残り3ヤードの場面で、タイトエンド(TE)ジョージ・キトルにパスプレーを指示したのも、それが重要な決定要因となっていた。
その時点で49ersは13対10でチーフスを追いかけていた。このコンバージョンが、パーディーからジェニングスへの10ヤードのタッチダウンパスにつながったことで、49ersは3点差をつけている(ムーディーのエクストラポイントはブロックされた)。
シャナハンHCはフィールドゴールの試みを避けたことについて「普段ならやらないことだが、あの状況では正しいことだった」と振り返っている。
延長戦の開始時も同様にアグレッシブだったシャナハンHCは、コイントスを制した後、攻撃を先延ばしにしてチーフスがどのような動きに出るかを確認するのではなく、先に点を入れることを決めた。延長戦でそれぞれのチームがポゼッションを持つことができるというプレーオフの新ルールが採用されてから、そのような状況に置かれたことが一度もなかったため、シャナハンHCは自身の分析結果に従った。49ersがそのシリーズでタッチダウンを決めていれば、シャナハンHCにはもっといい結果がもたらされていただろう。
今回の結果を受けて、49ersはまたしてもオフシーズンに痛恨の敗北を見つめ直さなければならなくなっている。試合に敗れた感想を要約することを求められたジェニングスは“釘を目の前に置かれて、それを踏まなければならない”ようなものだと話している。
また、シャナハンHCは「私たちは今、傷ついているが、それでも私がみんなを誇りに思う気持ちは変わらない。自分たちのチームを愛している。立ち直って、来年はさらに強くなって戻ってくるつもりだ」とつけ加えた。
それを疑う理由はない。49ersはこの5シーズンでNFCチャンピオンシップゲームに4度、スーパーボウルに2度出場しており、すでに来季に優勝候補になると目されている。シャナハンHCがタイトル獲得に必要なものをすべて持っているのは明らかだ。とはいえシャナハンHCには、それがいつ実現するのかという疑問がつきまとい続けるだろう。
【RA】