3度目の優勝でチーフスが王朝を確立し、QBマホームズがブレイディの歩みに追いつく
2024年02月13日(火) 14:35カンザスシティ・チーフスは、延長戦のドライブが始まったその瞬間から、タッチダウンすることを考えていた。ディフェンスは疲労し切っていたが、延長戦の始まりにサンフランシスコ・49ersをフィールドゴールに抑えた。チーフスがフィールドゴールを決めれば試合は続行されたはずだが、チャンピオンはそうは考えていない。
「俺たちのマインドは、“今すぐ勝ちに行くこと”だった」とクオーターバック(QB)パトリック・マホームズはコメント。
チーフスの攻撃コーディネーター(OC)マット・ナギーは、ワイドレシーバー(WR)メコール・ハードマンが3ヤードのタッチダウンパスをキャッチした直後、フィールドにいた。
「15番(マホームズ)の手に渡れば、優勝のチャンスがあることは分かっていた」と述べるナギーOCは、こうつけ加えている。
「私たちは1年を通して、この瞬間のために努力し続けてきたと口癖のように言ってきた。今年は浮き沈みが激しかったけれど、最後にオフェンスがボールを持って、まさに勝利のチャンスをつかんで、やり遂げたのは素晴らしい」
延長戦の末、25対22で49ersに勝利したチーフスは、ニューイングランド・ペイトリオッツが約20年前に達成して以来の連覇を果たしている。ここ5シーズンの間に3つ目のタイトルを獲得したチーフスは、名実ともにペイトリオッツ以後初の王朝となった。ただし、この勝利、このシーズンは、過去2回のロンバルディトロフィー獲得の道のりとは違う印象を与えている。マホームズ率いるチーフスは――第58回スーパーボウルの大部分でもそうだったように――今シーズンほど脆弱(ぜいじゃく)に見えたことはなかった。また、テイラー・スウィフトが観戦する試合があったり、プレーオフが始まるずっと前からシーズンを台無しにしかねない数々のミスがあったりと、チーフスはここまで注目を集めたことはない。
マホームズはこう説明している。 「本当に大きな意味がある。逆境の中で戦えたことは、プレーオフへの準備になった」
“逆境”という言葉は、現地11日(日)の夜にアレジアント・スタジアムで勝利を収めた後、多くのチーフスのメンバーが使った言葉だ。オフェンスが落球や反則に苦しみ、シーズンの大半はディフェンスに頼らざるを得ない状況に直面。シーズン中盤に8試合中5試合を落としたチーフスはホームフィールドアドバンテージを失い、マホームズは初めてAFC(アメリカン・フットボール・カンファレンス)プレーオフにおいて、アウェーでの戦いに挑むこととなった。チーフスは依然として課題を抱えていたが、ポストシーズン中ではそれを克服している。スーパーボウルを迎えた時点でも、チーフスはまだ“アンダードッグ(勝ち目が薄いチーム)”とみなされていたが、これは対戦相手の49ersと比べてまだ十分に評価されていなかったという点で、やや不当な見方と言える。しかし、チーフスのオフェンスは前半にまたしても失速し、スウィフトでさえスイートルームで思わず爪を噛んでいたほどだった。前半のチーフスのドライブはパント、パント、ファンブル、パント、フィールドゴールで終了。チーフスは49ersに圧倒され、タイトエンド(TE)トラビス・ケルシーはヘッドコーチ(HC)のアンディ・リードに向かって叫んで驚かせ、このコーチにぶつかるほど苛立っていた。
ハーフタイムでは特にメッセージはなく、ただ調整が行われただけだ。それもまた、今シーズンのようだった。
シーズン中盤の不振について、リードHCは次のように振り返っている。
「窮地に陥った時は、ただ集中して問題を解決しようとするものだ。落球とペナルティが課題だが、それさえ対処すれば問題ない」
チーフスは新人のワイドレシーバー(WR)ラシー・ライスが成長するための時間を必要としており、それはシーズン後半に実現した、とリードHCは語った。スーパーボウルでは、ライスはレシーブ6回で39ヤードをマークし、その中でも延長戦において、自陣46ヤードラインからの第3ダウン残り6ヤードで、13ヤードのキャッチを決めて大きな貢献を果たしている。ライスは昨年の今頃、スーパーボウルを見ていたことを思い出していたが、その頃は優勝するためには何が必要なのか、知らなかった。ライスが最後に大会で優勝したのは、少年フットボールをやっていた時の11歳だ。そして、NFLのトレーニングキャンプ初日、ライスはあまりに激しい運動で嘔吐。今季、ケルシーに50ヤード差をつけられたライスは、チーフスの2番手レシーバーとしてシーズンを終えたが、7回のタッチダウンレシーブでチームのトップに立っている。
「完璧でない試合もあったかもしれないが、チームとして勝利した」とライスが言うと、どこからかチームメイトが「俺らはスパグズを信頼しているのさ」と叫び、守備コーディネーター(DC)のスティーブ・スパグニョーロを称えた。スパグニョーロDCは今や、NFL史上初めて通算4回スーパーボウルを制覇した守備コーディネーターとなっている。
日曜日の夜、マホームズはライスに話しかけるたびに、得点するぞと言っていた。
「彼は点数を上げることを実現させるべく、口に出し続けていたんだと思う。パット(マホームズ)が負け方を知っているとは思えない」とライスは話している。
マホームズはもちろん、チーフス王朝の命運を握る大きな存在だ。延長戦の決勝ドライブでは、マホームズはパス8回中8回成功で42ヤードをマークし、第4ダウン残り1ヤードでは8ヤード、第3ダウン残り1ヤードでは19ヤードを走った。マホームズもまた“逆境”について語ったが、アレックス・スミスがまだチーフスのクオーターバックだった頃に加わったチームのカルチャーについても触れている。そのカルチャーとは、チーフスをさらに上へと押し上げるものであると同時に、自分たちの努力そのものを楽しもうとする考え方だった。
28歳で3度目の優勝を果たしたマホームズは、すでに類まれな存在となっている。第58回スーパーボウルMVPを獲得したマホームズは、トム・ブレイディと比較された時、謙遜(けんそん)していた。なぜなら、ブレイディは――タンパベイ・バッカニアーズのクオーターバックだった頃――第55回スーパーボウルでマホームズとチーフスを破っているからだ。当時は、ブレイディの偉業に近づくチャンスなど、誰にもないと思われていた。しかし、それからわずか3年、ブレイディに匹敵するクオーターバックはマホームズしかいないことは明らかだろう。2人のプレースタイルはまったく異なるが、ゲームを熟知し、チームを勝利に導くという点ではまったく同じだ。
マホームズは、リードHCが自分をありのままにさせてくれたこと、無理に変えようとしなかったことを評価していた。その一方で、マホームズは日曜日の夜、ブレイディに酷似した印象を残している。ショルダーパッドをつけたままの状態で、スターQBのマホームズはすでに次のことを考えていた。日曜日の夜には祝賀会があり、来週にはパレードがある。その後、またスーパーボウルに出場するために仕事に戻るのだ。ライスは、マホームズと同じテキサスに住んでいるから、頻繁に連絡するだろう、と指摘している。
「スーパーボウル3連覇を目指すよ」とマホームズは強調。
これまでスーパーボウルで3連覇を達成したチームはなく、チーフスにとってはまだ重要なオフシーズンが残っている。リードHCは来季もコーチを務めるつもりだと主張し、引退説を一蹴した。しかし、ケルシーは今シーズンの大部分で調子を落としており、戻ってくるかは疑わしい。チーフスはさらなる選手補強も試みるに違いない。
とはいえ、チーフスは最も優勢とは言えないシーズンを終えたばかりだ・・・それでいて、ロンバルディトロフィーを掲げた。再びチーフスを疑うのは賢明ではないかもしれない。
「完璧なシーズンを送れなかったから、外野の誰もが俺たちを“アンダードッグ”だと思ったんだろう」というライスは、こうつけ加えた。
「でも今はスーパーボウルチャンピオンなんだ」
それは、おそらく今回が最後ではないだろう。
【KO】