コラム

ファンの夢がかなう瞬間、遠く長い頂点への道のり

2016年11月17日(木) 18:26


デンバー・ブロンコスが勝ち取った第50回スーパーボウルのヴィンス・ロンバルディ・トロフィー【Ben Liebenberg via AP】

スポーツファンにとって、応援するチームのリーグ制覇やチャンピオンシップ優勝は何にも変えがたい喜びである。ペイトリオッツやシーホークス、ブロンコスのようにプレーオフ常連のチームがいる一方で、ブラウンズやジャガーズなどレギュラーシーズンで勝ち星をなかなか手に入れられないチームもいる。彼らにとっては戴冠の栄光はもとより、そのチャンスをつかむための切符を手に入れること自体が難題となっているわけだが、何年にもわたって頂点には程遠い成績しか残せていなくとも、それでもファンは奇跡を信じて声援を送り続けるのだ。

そうすれば夢が現実になることがあるかもしれない。

SNFを上回った今年のワールドシリーズ

例えば、第7戦までもつれ込んだ今年のMLB(メジャーリーグベースボール)ワールドシリーズ。その人気は近年見られなかったほど高く、優勝を決した第7戦の全米テレビ視聴者数は4,000万人に達した。これはここ25年間で最高となっている。一方、注目したいのが現地10月30日に行われた第5戦の数字だ。この日はアメリカ東部時間20時17分開始と、20時30分開始のサンデーナイトフットボール(SNF)と真っ向からぶつかったのである。しかもSNFは共に今シーズン好調でNFC東地区のライバル対決、イーグルス対カウボーイズという好カードだった。

その結果はというと、NBCが放送したSNFが視聴者数1,720万人だったのに対し、FOXのワールドシリーズ第5戦は2,360万人とSNFを大きく上回ったのである。SNFがワールドシリーズ中継に敗れたことは話題となった。

なぜこれほどまでに今回のワールドシリーズは大きな関心を生んだのか。それは、有名な“ヤギの呪い”もあってか、カブスが優勝したのが実に108年ぶりであり、対戦したインディアンスも68年ぶりの快挙がかかっていたことが大きな要因となっている。長きにわたり栄光の座から遠のいていたチームという事実が多くの人の心をつかんだのだ。

最もファンを待たせ続けているチーム

カブスが108年ぶりに優勝した事実を踏まえ、NFLに目を向けると、ファンを待たせ続けているチームはどこになるか。そこに注目することでNFLの歴史が見えてくる。

まず、いわゆる4大プロリーグ(MLB、NFL、NHL、NBA)を単純にチーム別に見てみると、1947年のNFLチャンピオンシップ以来、優勝していないカーディナルスが68年でMLBインディアンスと並ぶことになる。しかし、考慮すべきはカーディナルスが1988年にセントルイスからアリゾナに本拠地を移転している点だ。地元ファンを待たせているという意味で、移転以降を計算すると、27年と大幅に短くなってしまうのである。

MLBインディアンスに次ぐ総合2位がライオンズだ。ライオンズは1957年のNFLチャンピオンシップを制して以降、栄光の座についたことがない。1934年にデトロイト・ライオンズとなってから1957年までの間に、4回のNFLチャンピオンシップ制覇を成し遂げたことは、はるか昔のこととなっている。

4大プロリーグの総合ランキングを全体的に見ると、上位にNFLチームが多いことに驚かされる。50年以上も優勝から遠ざかっている7チームのうち、実に5チームがNFLチームなのだ。ライオンズに続くのが55年のイーグルスと54年のバイキングスだ。

イーグルスは1933年設立の老舗チームだが、1960年に3度目のNFLチャンピオンシップを制してからは王座から遠ざかっている。MLBアストロズも55年に渡って頂点にたどり着いておらず、イーグルスとタイだ。

一方、バイキングスは1961年のチーム設立以来、一度も優勝していない。確かに、1969年のNFLチャンピオンシップは制しているものの、1970年のNFLとAFLの合併に向け、1966年シーズンからスーパーボウルが開始されており、バイキングスは第4回スーパーボウルでチーフスに敗れたため、優勝記録としては入れられないのである。

その次が52年のチャージャーズだ。チャージャーズはNFLと合併する前のAFL所属時、1963年にAFLチャンピオンシップを手にして以来である。

総合7位につけるビルズは50年。1960年設立のビルズは1964年と1965年にAFLで連覇を果たしたものの、その後は優勝の美酒を味わっていない。特に第25回から4年連続でスーパーボウルに進出しながら4連敗したことはファンにとって忘れられない記憶だろう。

ブラウンズの事実

では、長く低迷が続き、今シーズンも第10週まで1勝も挙げられていないブラウンズはどうか。ブラウンズは1946年に設立され、1950年にNFLに参入、最後に優勝したのは1964年のNFLチャンピオンシップであり、単純計算では51年になる。だが、もともとのブラウンズが1995年いっぱいでボルティモアに移転したため、1996年から1998年の3年間はチームが存在せず、48年となるのだ。現在のブラウンズはチーム名称などの資産を受け継ぎ、エキスパンションチームとして“復活”したのである。ちなみに旧ブラウンズが現レイブンズと改称し、2度スーパーボウルで優勝しているのは周知の通り。その事実もブラウンズファンを悔しがらせていることだろう。

スーパーボウル限定、未勝利チーム

スーパーボウルに限ってみるとどうか。これまで過去50回のスーパーボウルで優勝経験のないチームは13ある。6回優勝しているスティーラーズ、5回優勝しているカウボーイズ、49ersがあることを考えると、戦力均衡、パリティがよくいわれるNFLにあって意外な差と感じられるかもしれない。やはりチーム運営の差はこれほどまでに出るのだ。

さらに今までスーパーボウル自体に出場していないチームはブラウンズ、ライオンズ、テキサンズ、ジャガーズの4チームとなる。前述のようにブラウンズとライオンズはスーパーボウル以前の時代に優勝しており、まだマシという解釈もできよう。一方、ジャガーズは1995年設立、テキサンズは2002年設立でまだエキスパンションで歴史の浅いチームであるがゆえ、と理由をつけることも可能だ。

第51回スーパーボウルでファンの気持ちを一挙に晴らすチームは出てくるだろうか。

わたなべ・ふみとし

渡辺 史敏
兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。