ドラ1ジャレッド・ゴフが満を持して登場
2016年11月17日(木) 18:18今年のドラフト全体1位指名が満を持しての登場だ。
ラムズはホームにドルフィンズを迎える第11週の試合でQBジャレッド・ゴフを先発させると発表した。22年ぶりのロサンゼルス復帰を喜ぶファンたちが期待をかけるルーキーがいよいよNFLのフィールドに足を踏み入れる。
ゴフは「いよいよこの時が来た。新たな一歩を踏み出し、試合に出場する準備はできている。あとは全力でプレーして勝ちたいと思う」とのコメントを発表した。
ゴフはカリフォルニア大学で3年間先発を務めた後、4月のドラフトでラムズから1巡指名を受けた。ラムズは1位指名権を持っていたタイタンズとのトレードアップでナンバー1ピックを獲得した。それだけ欲しい人材だったのだ。
過去11シーズンでプレーオフを逃しているラムズがロサンゼルス再移転を機に浮上するためにはQBの安定が不可欠だ。タイタンズが昨年マーカス・マリオタをドラフトで獲得し、QBを必要としていなかったことも幸いした。
過去10年でQBが全体1位指名を受けた例はゴフを含めて7人いる。2007年のジャマーカス・ラッセルを除いてすべてが開幕先発を務めている。それだけにゴフもチームの新たなスタートにふさわしく、初戦から司令塔となることが期待された。
しかし、大学時代にスプレッドオフェンスでプレーし、ポケットパサーではないゴフが予想以上にNFLスタイルへの順応に時間がかかり、ジェフ・フィッシャーHCはゴーサインを出さなかった。
開幕先発を務めたケース・キーナムは肩が強く、柔らかいタッチのパスを得意とする。大学時代のゴフとは対照的なポケットパサーである。初戦こそ49ersに完封負けを喫したものの、その後は3連勝でチームは大方の予想に反してNFC西地区の首位に立った。
チームがこのままの好調を維持すればゴフの出場は先送りされていただろう。ところが、RBトッド・ガーリーの不振もあってオフェンスはドライブが進まず、キーナムはタッチダウンパスよりも被インターセプトが先行する状態だ。最近ではキーナムがインターセプトされるたびにコロシアムのファンからはゴフコールが起きるのが常だった。
当然のごとくチームは失速し、気がつけば4連敗で負けが先行し、タッチダウンを取れない試合が3試合もあるありさまだ。ここまでかたくなにゴフ投入を否定し続けてきたフィッシャーもさすがに考えを変えざるを得なかった。
フィッシャーはゴフによって「オフェンスにスパークが生まれる」ことを期待していると述べる。つまり、ゴフが起爆剤となることでリーグワースト2位のオフェンスの改善を目指したいのだ。
しかし、この時期での新人QB投入は好材料よりも懸念すべき事項が多い。スポット出場でしかなかったプレシーズンゲームを除けば実戦は約1年ぶりだ。試合勘はもちろん、肉体もキレが鈍っていることは十分に考えられる。この状態で試合に臨めば、思わぬケガをする恐れがある。
開幕から出場しているNFL選手はすでに9試合を消化し、いわゆる“フットボールシェイプ”になっている。スピードもパワーもプレシーズンの比ではない。ゴフの想像以上にNFL選手は速く、強いに違いない。
ゴフと同様にシーズン後半から実戦デビューを果たした新人QBの例としては最近では2014年のジョニー・マンジール(ブラウンズ)がいる。彼は開幕から先発を務めたブライアン・ホイヤーが不振となったために第15週に初めてスターターに指名された。そのマンジールがどうなったか。先発2試合目のパンサーズ戦でハムストリングを負傷し、そのままシーズンを終えたのだ。
以前にも触れたように現在の労使協約(CBA)ではシーズン中のコンタクト練習は週に1回以下と定められており、NFL選手の体は以前に比べて衝突にさらされない。故障や消耗が防げる一方で、コンタクトによる鍛錬が不足しているのも事実だ。
ましてやゴフの初戦の相手はダムコング・スー、キャメロン・ウェイク、キコ・アロンソらのいるドルフィンズだ。彼らの渾身のヒットをまともに浴びれば、実戦から離れているゴフの体は一発で悲鳴を上げてしまうだろう。
ゴフの先発起用を否定しているのではない。シーズン半ばからの投入はリスクを伴う。だからこそ、チームはこの時期の新人投入には細心の注意を払わなければならず、ゴフに負担をかけすぎないゲームプランも必要だろう。
ゴフの登場はラムズファンでなくとも楽しみにしている瞬間だ。彼の存在が今季をより面白くしてくれることを望む。そして、ダック・プレスコット(カウボーイズ)やカーソン・ウェンツ(イーグルス)ら同期とともにQBの世代交代を進める人材に育ってほしい。だからこそ、故障によって貴重な時間が無駄になる事態は避けたい。
いけざわ・ひろし
- 生沢 浩
- 1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。