コラム

ルールを制する者がフィールドを制す

2016年11月10日(木) 23:15


サンフランシスコ・49ersのクイントン・パットン【AP Photo/Tony Avelar】

NFLのルールをどこまで熟知しているか。そして、それをいかに活用するか。

今季はルールを巧みに使ったプレーが話題になっている。第9週には49ersがセインツ戦で、ルールの穴ともいうべき点をついてタッチダウンを防ぐ場面があった。

前半の残り8秒でセインツはゴール前13ヤードでファーストダウンを迎えた。ここで49ersは驚くべき作戦に出る。プレー開始とともにディフェンダーがセインツのレシーバーをつかみ、パスコースに出ることを阻んだのだ。意図的なホールディングだ。

もちろん、49ersは5ヤードの罰退を受け、セインツはファーストダウンを獲得した。しかし、この時点で時間は残りわずか4秒。セインツはフィールドゴールを余儀なくされたのだった。

このプレーをNFL.comで紹介しているダン・ハンザス記者はこのプレーが来年のルール改正の話題になるだろうと述べている。

問題は49ersが反則のもらい損をした点だ。ディフェンスのホールディングによるファーストダウン獲得は通常なら有利に働く。ところが、この場面はダウン更新や5ヤード前進よりも重要な時間をロスしてしまった。現行ルールではこの失われた時間の補てんはされない。いかにもアンフェアだが、現在のルールではこうした結果になる。この試合に負けなかったのがセインツにとってせめてもの救いだ。

第3週にはパッカーズのワイドレシーバー(WR)兼キックリターナー(KR)を務めるタイ・モンゴメリーが頭脳プレーを見せた。ライオンズのキックオフでボールがサイドライン側を転がった時のことだ。リターナーのモンゴメリーは自らアウトオブバウンズに出て、腹這いになることで体を伸ばし、フィールドの外からボールをリカバーした。

これは、アウトオブバウンズの選手が触れたライブボール(プレー中のボール)はアウトオブバウンズとみなすというルールを巧みに利用したものだ。結果、ライオンズのキックオフはアウトオブバウンズとなり、ペナルティが適用される。インバウンズでキャッチしていればパッカーズは2ヤードラインからの攻撃開始となっていたはずだが、ペナルティが適用された結果、ボールは40ヤードラインに置かれ、このドライブでパッカーズはタッチダウンをあげる。

実はパッカーズではランドール・コブも同様のプレーをしたことがある。これはパッカーズ内ではこうした指導がなされている証拠だ。

ルールブックを細部まで読み込み、それぞれの条項をいかに有効にプレーに生かすかを熟慮しないとこうした作戦は生まれない。コーチの研究の賜物というべきだが、49ersの件はやはり検証が必要だろう。

故意の反則によって被害を受けたチームがかえって損をするというのではルールの意味がない。前後半のツーミニッツワーニングのあとは、リードしている側のディフェンスの反則は時間も戻されるなどのルール改正は考慮されるかもしれない。

NFLのルールは細かい上に、毎年改正される。しかし、それをよく理解したうえで試合の臨むという姿勢も勝利へのあくなき執念といえるだろう。こうした頭脳戦もまた面白い。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。