コラム

スーパーボウル出場チーム決定を喜んだ意外な企業

2017年01月31日(火) 03:03

インテルのCMイメージキャラクターを務めるニューイングランド・ペイトリオッツのトム・ブレイディ【Intel Corporation】

ペイトリオッツとファルコンズの対戦となった第51回スーパーボウル。現地2月5日(日)のゲームに向け、すでにスポンサーなど関係企業がキャンペーンなどを開始している。

例えば、ソフトドリンク分野の公式スポンサーであり、今回レディー・ガガが出演するハーフタイムショーの冠スポンサーになっているペプシは専用サイトを開設している。そこでは現在、ショー出演者やNFL選手が出演するカウントダウンビデオが毎日公開されている他、ガガ関連の貴重な賞品が当たる企画の実施、さらにはショーの舞台裏ビデオの公開などが行われている。さらに、すでに募集期間は終了しているが、いかにガガが好きかを語ったビデオをソーシャルメディアに投稿し、優秀者に選ばれるとハーフタイムショーをフィールドで見られるというファン垂涎の紹介企画も。こんな風に、さまざまな企業がスーパーボウルと自社製品やブランドを盛り上げていくのである。

ブレイディにかけた2社

そんな中で今回の出場チーム決定に胸をなで下ろし、ガッツポーズをしているであろう企業が少なくとも3つある。うち2社はペイトリオッツ、というよりも、クオーターバック(QB)トム・ブレイディがその理由だ。ブレイディが出場すると予想したのか、決定前からブレイディを起用した展開を開始していたのである。

その1社が半導体大手の『Intel(インテル)』だ。チップメーカーというイメージが強いインテルだが、今回『FOX(フォックス)』が放送するテレビ中継において“Be The Player(ビー・ザ・プレーヤー)”と呼ばれる新たな映像技術を提供することになっている。これは同社が昨年に買収したイスラエルの映像技術企業が持っていた360度バーチャル映像技術を進化させたもの。フィールドの周囲にぐるりと取り付けられた38台のカメラで撮影した画像をコンピュータで加工し、フィールドにいる選手が見ている視界のバーチャルな映像を作り出すのである。クオーターバック(QB)の視線を再現したりすることが可能だ。

そして、この技術をPRするために起用されたのが他ならぬブレイディである。同社はゲームの3週間以上前である今年1月12日にこの技術を使って作成された“Brady Everyday(ブレイディの日常)”と名付けられたCMを公開した。内容は歯磨きや食事などブレイディの朝のルーティンを、ユーモアを交えて表現したもの。ブレイディが“5秒ルール”を信じているような場面も。同社はゲーム中継でもCMを放送する見込みだ。ペイトリオッツの出場によってCMの効果が上がりそうだ。とはいえ、ペイトリオッツが負けていれば、なぜブレイディ? となっていたかもしれない。

2社目はスポーツ用品メーカーの『UNDER ARMOUR(アンダーアーマー)だ。同社は1月5日、ワイルドカードプレーオフの週末にラスベガスで開催された家電ショーCESにおいて、ブレイディのイニシャルと背番号を使った新ブランド、TB12の製品発表を行ったのである。その製品とは着用して寝ると疲労回復促進機能があるという運動選手向けの高機能スリープウエアだ。

当然広告にはブレイディが出演しており、ウエアの効果について語るCMも同日に公開されている。同社はスーパーボウルのテレビ中継でCMを放送しないと見られ、もともと同社はブレイディを含む複数の選手と契約しているが、今回はブレイディをフィーチャーした新ブランドである。もし早々にペイトリオッツが敗退したら、訴求力は大きく下がるのは必至で担当者は気が気でなかったに違いない。

チーム缶の事情

そんな2社とは少し事情が違うのがビールの公式スポンサーであるアンハイザーブッシュ・インベブの『Bud Light(バドライト)』である。バドライトは28チームとも個別に契約している。このためバドライトは昨シーズン、ファンとの結びつきを高める策として、契約28チームのロゴを缶の側面にプリントした製品を作成、販売して人気を博した。ちなみにカウボーイズ、パッカーズ、ベアーズ、バイキングスの4チームは他のビール会社と契約している。

バドライトは好評だったことを受け、今シーズンはこの“チーム缶”を全32チームにまで拡大したのだ。なぜこんなことができたのか。それはリーグの公式スポンサーであるため、全チームのロゴやリーグのロゴを使用する権利を所有していたからだ。この権利をある意味、最大限に活用したのである。

ただし、他社と契約するビール缶を一般販売することは問題があると判断したようで、これら4チームのチーム缶は一般販売されなかった。4つのリーグにまつわる特製缶と全チーム缶を入れた36缶パックという形で限定販売したのである。この限定パックは10万ケースも販売されず、現在ネットオークションで100ドルから200ドルの価格がついている状況だ。

そして今回のスーパーボウルである。ディビジョナルプレーオフの段階でカウボーイズとパッカーズ、NFCチャンピオンシップでパッカーズという契約外のチームが残っていたのである。つまりスーパーボウルをテーマにしたプロモーションでチーム缶が激突するような演出ができなくなる可能性があったというわけだ。

スーパーボウルをめぐるプロモーション展開の裏にはこんな波乱が潜んでいたりするのである。

わたなべ・ふみとし

渡辺 史敏
兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。