コラム

【第51回スーパーボウル見どころ】いざ決戦! このマッチアップに注目せよ

2017年02月01日(水) 03:09

アトランタ・ファルコンズのマット・ライアンとニューイングランド・ペイトリオッツのトム・ブレイディ【AP Photo/David J. Phillip】

アメリカ南部の都市アトランタが初のNFLタイトルを手にするか。それともアメリカ開拓史を象徴するニューイングランドが5個目のビンス・ロンバルディ・トロフィーをコレクションに加えるか。

今季のアメリカンフットボールのワールドチャンピオンを決める戦いがいよいよ始まる。ホーム扱いのファルコンズは18年ぶり2度目のスーパーボウル。ペイトリオッツはリーグ史上最多9回目の登場だ。そして、この2チームが王座を争うのは初めて。新たなライバルの歴史が誕生する。

ファルコンズ(11勝5敗、NFC南地区優勝、NFC第2シード)はレギュラーシーズンの1試合平均の得点が33.8点でリーグ1位。プレーオフでもシーホークス戦で36点、パッカーズ戦で44点とその勢いは止まらない。

対するペイトリオッツの失点は平均15.6点とこちらもNFLトップの成績だ。ポストシーズンはシーズンアベレージこそ上回ったものの2試合で計3つしかタッチダウンを許していない鉄壁のディフェンスは健在だ。

まさにナンバーワンオフェンス対ナンバーワンディフェンスがぶつかるマッチアップだ。もっとも、このマッチアップはディフェンスに有利だとのデータがある。このような対戦は過去のスーパーボウルで6回実現したが、リーグ1位のディフェンスを持つチームが5勝1敗と大きく勝ち越している。

しかし、これはあくまでもデータ上のものだ。データ通りにはいかないのが生のゲームである。そこで、注目すべきマッチアップをいくつか挙げてみた。以下、ファルコンズ対ペイトリオッツという図式で紹介したい。

1)WRフリオ・ジョーンズ対CBマルコム・バトラー+Sデビン・マコーティ

ファルコンズ最大のプレーメーカーはジョーンズだ。ペイトリオッツが最も警戒しなければいけない選手である。AFC決勝でスティーラーズのワイドレシーバー(WR)アントニオ・ブラウンを封じ込めたように、ジョーンズに対してもほぼすべてのパスプレイでダブルチームカバーをすることになるだろう。

そのダブルチームを組むコンビはチーム屈指のカバーマンであるバトラーとコーナーバック(CB)並みのパスカバー力を持つセーフティ(S)マコーティが予想される。このマッチアップの勝敗は試合の趨勢に大きく影響するだろう。

スーパーボウルではチームの主力選手ほど相手にマークされて活躍できない場合が多い。こと昨今のようにカンファレンス決勝からスーパーボウルまで2週間という間隔が空く場合にその傾向が顕著だ。

それだけ対策を立てる時間があり、スカウティングで丸裸にされてしまうのである。実はジョーンズも研究し尽くされて封じられるのではないかとも予想している。ペイトリオッツのヘッドコーチ(HC)ビル・ベリチックはビッグゲームで思い切った方策を打ち出すHCで、一発勝負のスーパーボウルではレギュラーシーズンでは考えられないような作戦を使ってくることもある。もしかすると、ジョーンズに対してはダブルカバーではなく、トリプルカバーで対応するのではないかとさえ思ってしまう。

そう考えると、この組み合わせには“裏”のマッチアップも存在する。そう、ジョーンズ以外のレシーバーとペイトリオッツのパス守備だ。

ファルコンズはWRモハメッド・サヌー、テイラー・ガブリエル、タイトエンド(TE)レビン・トイロロといったレシーバーがおり、クオーターバック(QB)マット・ライアンは多くのレシーバーに投げ分ける。今季は13人ものレシーバーにタッチダウンパスを投げるというNFL初の快挙を成し遂げた。ペイトリオッツにとってはスティーラーズ戦のようにブラウンを封じればそれでいいといった簡単なことにはならない。エリック・ロウ、ローガン・ライアン、デュロン・ハーモンといったCB陣はわずかなミスも致命傷になる可能性がある。

2)RBデボンテ・フリーマン+テビン・コールマン対DTマルコム・ブラウン+LBドンテ・ハイタワー+Sパット・チャン

ファルコンズオフェンスのもう一つの武器はフリーマン、コールマンのタンデムバックが繰り出すランプレーだ。フリーマンはスピード、コールマンはパワーが持ち味だが、両ランニングバック(RB)が同じプレーから同様の効果を生み出すことができるのが強み。ディフェンスはランプレーの予測を絞れない分だけ後手に回ってしまうことになる。

ブラウンは2年目のディフェンシブタックル(DT)トレイ・フラワーズとともにオフェンスラインのブロッキングを外してペネトレートするテクニックがある。これによってオフェンスの領域でRBをタックルできればネガティブヤードでファルコンズにプレッシャーをかけることができる。

ペネトレートが不可能な時はブロッカーを受け止めてラインバッカー(LB)やSのランストップに任せることが重要だ。そのキーマンが守備のセンターラインを守るハイタワーとチャンである。

ライアンは今季のNFLで最も多くプレーアクションパスを使うQBだ。フリーマンとコールマンのランが効果的に出れば、プレーアクションパスでのビッグプレイが可能になる。これもゲームチェンジャーとなり得る大きなプレーだ。

3)OLBビック・ビーズリー対RTマーカス・キャノン+QBトム・ブレイディ

ファルコンズディフェンスが試合を有利に運ぶにはブレイディにプレッシャーをかけ続けることが不可欠。リーグトップの15.5サックを記録したビーズリーがその役を担うことになる。

ビーズリーは基本的にディフェンスの左エッジからラッシュをかける。すなわち、彼のラッシュを止めるのはライトタックル(RT)キャノンの役割であり、さらに右利きのブレイディには常に視界に入る。ビーズリーのラッシュが効果的なのはDTラシェド・ヘイグマンとのスタンツが決まった時だ。しかし、ブレイディにとっては自分の正面にあたるのでクイックリリースによって回避することは可能だろう。ただし、脚力ではブレイディを上回るアーロン・ロジャーズですら苦しめられたパスラッシュを、常にブレイディが切り抜けられるとは考えにくい。パスラッシュでペイトリオッツのパスプレーをどの程度潰すことができるかは大きなカギだ。

4)Kマット・ブライアント対Kスティーブン・ゴスタウスキー

スーパーボウルのようなビッグゲームのマッチアップではキッカー(K)同士はあまり取り上げられない。しかし、オフェンスの得点力の高いチームの対戦だからこそ、Kの役割は重要だ。

この2チームのようにオフェンスのドライブがタッチダウンで完結することが当たり前といっても過言ではない場合、いかに相手のオフェンスをフィールドゴールに抑えるかが重要となる。裏を返せばオフェンスにとってはそのフィールドゴールさえも失敗に終わるとダメージはより大きくなる。また、タッチダウン後のキックによる失敗も1点とはいえ致命傷となりかねない。

会場となるNRGスタジアムは室内なので天候の影響は受けないが、長い距離の残るフィールドゴールはもちろん、33ヤードフィールドゴールと同じ距離のPATも失敗が許されないという極限の緊張下で行われる。Kの好不調は大きな要素だ。ちなみにブライアントはレギュラーシーズン中のフィールドゴールとポイントアフタータッチダウン(PAT)の成功率はそれぞれ37回中34回、57回中56回、プレーオフでは3回中3回、10回中9回、ゴスタウスキーは32回中27回、49回中46回、5回中5回、8回中7回だ。例年よりゴスタウスキーのフィールドゴール成功率が低いのが懸念材料だ。

注目すべきマッチアップを挙げてみたが、文中でも述べたとおり2週間の分析期間は試合内容を大きく変える。ファルコンズのダン・クィン、ペイトリオッツのベリチックともにディフェンスの知識の豊富なコーチで、スーパーボウルまでに相手オフェンスの攻略法をいくつも考案してくるだろう。とすれば、オフェンス力に長けた両チームの対戦にもかかわらずロースコアで展開する試合になる可能性もある。

どんな展開になるにせよ、今シーズンの頂上決戦にふさわしくファルコンズとペイトリオッツの特色を生かしたプレーが存分に楽しめる好ゲームを期待したい。そのような試合で決着してこそ、ワールドチャンピオンシップにふさわしいスーパーボウルとなるのだ。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。