コラム

特別な都市ラスベガスへの移転と課題

2017年04月10日(月) 06:31

ラスベガスへの移転が決まったレイダース【AP Photo/John Locher】

アリゾナ州フェニックスで開催されたリーグ年次会議で、オーナー投票により、レイダースのラスベガスへの移転が可決された。今回の移転決定はラムズとチャージャーズのロサンゼルス移転決定時よりも大きな注目を集めている。それはラスベガスがある意味他とは違った都市であるためだ。

ラスベガスと聞いて、まず思い浮かべるのはカジノという人が多いのではないだろうか。確かにラスベガスのあるネバダ州ではギャンブルを行うカジノの開設、運営が認められており、ラスベガスはカジノの街として古くから世界にその名を轟かせてきた。ただ、アメリカでは自治体ごとにカジノ開設の可否を決めることができ、近年は各地にカジノが設けられている。であるにもかかわらず、ラスベガスが特別視されているのは、スポーツを賭けの対象とするスポーツベッティングが認められているためだ。

スポーツベッティングは人気があり、例えばNFLを対象にゲームの勝敗や総得点を予想する賭けなどが行われている。スーパーボウルでは、どちらのチームが先に得点するか、各クオーターでリードしているチームなど、さまざまな要素が賭けの対象となり、賭けをしながら巨大モニターで観戦する華やかなパーティーが盛大に開催されたりもするのだ。とはいえ、スポーツベッティングは八百長など不正行為が行われる原因になるのではという懸念も強い。

さらにラスベガスはその初期の時期からカジノの運営にマフィアが絡んでいたことが多かったこともあって、その華やかさと同時に犯罪都市のイメージがつきまとう。そのものずばり”シン・シティ”というニックネームがあるぐらいだ。

こうしたこともあってNFLを含め、MLB(野球)、NBA(バスケットボール)、NHL(ホッケー)のいわゆる4大プロリーグはいずれも長くラスベガスにチームを置いてこなかったのである。

それが大きく変わったのだ。その理由としてまず先に挙げたように、財政難などから収益源としてカジノを認める自治体が増えたため、ギャンブルへのイメージが改善したことが挙げられる。ラスベガスに関しても生沢氏のコラムや日本のIR(統合型リゾート)認可論議で挙げられているようにビジネス構造がギャンブルからファミリー層を対象とした観光業主体に移行しているのだ。

さらに観光業の拡大だけでなくIT企業などの参入で雇用が増え、人口が急増、全米有数の成長都市でもある。この点もプロスポーツにとっては大きな魅力だ。

これらの点について移転決定後の会見でロジャー・グッデルNFLコミッショナーは「我々のゲームの健全性はナンバー1だ。我々はそれについて妥協しない。同時にラスベガスは10年、20年前と同じ都市ではないと信じている。より多様な都市になった。エンターテインメントのメッカになった。この国で最も急速に成長している都市だ。10年、20年前とはまったく違う都市だ」と強調している。カウボーイズオーナーのジェリー・ジョーンズも「ラスベガスは家族の目的地へと発展したと断言していい」と述べたということだ。

また今回、ドルフィンズオーナーのスティーブン・ロス以外全員が承認に投票し、31対1の圧倒的な結果となったが、NHLが昨年ラスベガスに新加入のゴールデンナイツを創設させると決定したことも影響したと見られる。4大リーグで初、となると風あたりが強いが、2番目であればそれほどでもないだろうという判断があったのでは、と推察されるのだ。

ただ、今回の移転承認でラスベガスに関する全ての課題がクリアされたわけではない。ギャンブルやカジノに関したリーグの規則がどうなるかはまだ判然としない部分があるのだ。

現在、選手の行動規定では選手がスポーツベッティングを行っているカジノに立ち入ることが禁じられている。実際、昨年6月には当時カウボーイズのクオーターバックだったトニー・ロモがファンタジーフットボールのイベントに参加しようとしたが会場がカジノ関連施設だったため規則に触れるとしてキャンセルになったこともあった。また、選手がカジノの広告に出演したり、チームがカジノの広告を掲出したりすることも禁止されている。

この点についてコミッショナーは「レイダースの移転に関連して我々のギャンブルに関する規定はまったく変更されなかった。その必要はなかったし、レイダースもそれを希望してこなかった。我々は現在の規定を変えようとしていない」と断言した。

しかしながら、これに対してはジャイアンツのスティーブ・ティッシュ共同オーナーが異を唱えている。「この承認がされた以上、リーグは既存の内規を見直し、変更しなければならないと考えている」とし、カジノの広告に関して「議論されるだろう。これはまったく新しい課題だ。(レイダースのスタジアムに)カジノは(開催する)ショーの広告を出せるのか? コンサートのものは? 格闘技の試合は? まったく新しい議論だ」と問題提議した。

また、ネバダ州では売春が合法である点も挙げられる。“フットボールは家族”というキャッチフレーズのキャンペーンを展開するNFLのイメージを毀損させる可能性があるとの指摘も出ているのだ。実際、移転決定後、レイダースをテーマにした売春宿を造ると発表した業者も現れている。

特別な都市、ラスベガスへの移転承認はまさに英断であり、多くの課題をリーグにつきつけることになったのである。

わたなべ・ふみとし

渡辺 史敏
兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。