身体に細心のケアを施すブレイディとハリソン
2017年08月13日(日) 11:52肉体的負荷が大きいNFLにあって、40歳に届こうという年齢まで現役を続けられるような選手はやはり通常より厳しいケアをする必要があるようだ。今回は2人の選手の生活を見てみたい。
まず、そのストイックな生活ぶりで有名なのがペイトリオッツのクオーターバック(QB)トム・ブレイディだ。ブレイディは今月3日に40歳になったばかりである。
ブレイディが気にかけていることとしてまず挙げられるのが睡眠だ。先日、ブレイディが来日した主旨の一つがスポーツ用品メーカー『UNDER ARMOUR(アンダーアーマー)』とブレイディがコラボして開発したスリープウエアの宣伝だったことを知る人も多いだろう。疲労のリカバリーを促進するウエアができないかと、ブレイディからアンダーアーマーに話を持ちかけ、実現したのだという。
さらにその睡眠方法も独特だ。毎晩20時半、遅くとも21時までに就寝し、起床は5時半と決めているのである。しかも起きる時にアラームは使用しない。これについてブレイディは総合スポーツ誌『Sports Illustrated(スポーツ・イラストレイテッド)』のインタビューで脳のエクササイズなのだと説明している。「脳を含めて、身体は全体的なシステムだ。ラッキーなことにあまり脳しんとうを経験してこなかった。多分覚えていられる。もしそれが起こったときのためにトレーニングしている。回復力を作り、シャープに保っている。それが自分のキレになっていると感じている」とのことだ。
睡眠だけではなく、ブレイディは食生活を節制していることでも知られる。スーパーモデルである妻のジゼル・ブンチェンとともに一家のためにシェフを雇っているのだが、そのシェフが夫婦の徹底ぶりを地元ニュースサイトに明かしているのだ。それによれば「彼らの食べるものの80%は野菜だ。最も新鮮な野菜を買っている。オーガニックでなければ使わない。それに全粒穀物。玄米やキヌア、アワ、豆。残りの20%は赤身肉だ。牧草を餌に育ったオーガニックなステーキ、同じような鴨や鶏。魚なら天然の鮭を料理することがほとんどだ」ということである。砂糖や生成した小麦粉も摂取しないのだとか。
そのこだわりは試合中も変わらず、一般的なスポーツドリンクを飲むことはなく、チームスタッフがブレイディ用に作る、砂糖未使用の電解質を含んだ特製ドリンクを市販のスポーツドリンクのボトルに入れて飲んでいることも以前話題となった。
こうした生活についてブレイディは地元ラジオ局の番組で「とても早く寝るし、とても早く起きる。そうしたことはいつもパフォーマンスを上げることを中心に決断しているからだと思う。何を食べ、何をするかを決め、飲むか飲まないか、そうしたことはいつもフットボールが中心にある。毎日可能な限り最高の状態でいたい」と説明している。
一方、ブレイディとは違った形で、しかし同じように細心のケアを施しているのが、現在39歳であるスティーラーズのラインバッカー(LB)ジェームス・ハリソンだ。
スポーツ専門局『ESPN』の記事によれば、ハリソンは身体をベストな状態に保つために年間30万ドル(約3,300万円)を投じているとのこと。鍼灸師や鍼を使って圧痛点を刺激し筋肉をほぐすドライニードルの専門家、2人のカイロプラクター、さらにはカッピングの施術士を雇っているためだ。彼らはカリフォルニアやニューヨークなどバラバラの場所を拠点としており、ハリソンは彼らの航空運賃や滞在費まで負担しているという。週に1回はそれぞれの施術を受けているのだとか。
こうした高額の負担について「現在起用している人々はグーグルじゃ見つけられない」とその技術の高さ故だと説明している。
こうした高額の資金を投じたケアの効果について尋ねられたハリソンは「チェックをする必要はない。バランスは取れている。自分が費やしたものの評価は自分がどう感じているかが基準になる。自分はまだここにいる」と答えたということだ。
NFL14年目となるハリソンの契約は今シーズンいっぱいとなっていたが、今年3月に2年350万ドル(約3億8,500万円)で契約を延長している。契約満了まで現役を続ければ41歳になっている計算だ。
ブレイディにしてもハリソンにしてもそこまでやらないといけないほどNFLは厳しい世界だともいえるし、それほどの意識があるからこそその歳まで現役を続けられるのだともいえるだろう。
わたなべ・ふみとし
- 渡辺 史敏
- 兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。