32通りの目標と課題、HCが抱えるそれぞれの問題
2017年08月20日(日) 07:23プレシーズンが本格的に始まり、2017年レギュラーシーズンに向けた実戦準備が加速化している。今季は新たに6人の新ヘッドコーチ(HC)が誕生した。ショーン・マクダーモット(ビルズ)、カイル・シャナハン(49ers)、バンス・ジョセフ(ブロンコス)、ダグ・マローン(ジャガーズ)、ショーン・マクベイ(ラムズ)、アンソニー・リン(チャージャーズ)だ。内部昇格のマローンも含めて新たなスキーム導入の仕上げにかかる時期だ。
HCの数だけ目標も課題も、そして悩みもある。スーパーボウル王者のペイトリオッツHCビル・ベリチックですら新たな戦力の実力把握や他のチームからの包囲網への対策と忙しく頭脳を巡らせているに違いない。
昨年の最優秀HCに選出されたジェイソン・ギャレット(カウボーイズ)はランニングバック(RB)エゼキエル・エリオットの6試合出場停止の間の穴埋めに頭を悩ませ、ファルコンズのダン・クィンは、シャナハンの退団に伴い、彼が構築したリーグ最高得点を誇るオフェンスの維持が課題である。昨季8年ぶりにプレーオフに復帰したドルフィンズのアダム・ゲイズはクオーターバック(QB)ライアン・タネヒルが今季絶望となったことでその後任探しが急務だ。
好調だったチームですら課題が多いのだから、成績の振るわなかったにもかかわらず留任したHCは必死だ。コルツのチャック・パガーノ、ジェッツのトッド・ボウルズ、ベアーズのジョン・フォックスらはチームの成績いかんではシーズン途中での解任もあり得る。
HCは一般的に契約を2年以上残して新シーズンに入る。しかし、今季は契約最終年を迎えたままシーズンに突入するHCが2人いる。ライオンズのジム・コールドウェルとベンガルズのマービン・ルイスだ。
コールドウェルは最近3年でチームを2回、プレーオフに導いている。歴代のライオンズのHCの中では優秀な成績だと言っていい。しかし、昨年は第14週終了時まで9勝4敗でNFC北地区首位を走っていながら、終盤に3連敗を喫し、実現すれば1993年以来となるはずだったディビジョン優勝をパッカーズに奪われてしまった。2度のプレーオフはいずれも初戦敗退で、これらの要素が契約延長を手にできなかった理由だ。
プレーオフで勝てないといえばルイスも同じだ。いや、成績はさらに悪く過去0勝7敗である。QBアンディ・ドルトンとワイドレシーバー(WR)A.J.グリーンが入団した2011年から5季連続でプレーオフに進出したがすべて初戦敗退。昨年はついに連続出場も途切れた。マイク・ブラウンオーナー兼ジェネラルマネジャー(GM)から厚い信頼を得ているルイスだが、さすがに今年は契約更改をしてもらえなかった。
もっとも、過去にもルイスは同様に契約の最終年でシーズンを迎えたことが数回あり、その都度好成績を残して首をつなげてきた。だが、今回ばかりはただプレーオフに出場するだけでは不十分で、最低でもプレーオフ1勝が来季以降も指揮を執り続ける条件となるだろう。
「勝利は選手の手柄、負けは監督の責任」と言うように、HCは常に責任を問われる立場だ。戦力が整わないチームで不条理に解任される例もないではないが、それも指揮者の宿命だ。NFLのHCという、世界でわずか32個しかないポストに就く人物の背負う十字架だ。
いけざわ・ひろし
- 生沢 浩
- 1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。