コラム

やはりミスマッチか、活躍の場を見いだせないエイドリアン・ピーターソン

2017年09月15日(金) 05:57

ニューオーリンズ・セインツのエイドリアン・ピーターソン【AP Photo/Bruce Kluckhohn】

NFLの2017年シーズンが開幕した。ハリケーン“イルマ”の影響でドルフィンズ対バッカニアーズの試合が延期となったが、それ以外の15試合は予定通りに開催された。いきなりペイトリオッツがチーフスに敗れる波乱の幕開けとなったほか、ブラウンズとテキサンズでは早くも新人クオーターバック(QB)が登場。今年も楽しみなシーズンとなりそうだ。

開幕戦からしばらくは新戦力・新戦略になじむ期間が必要で、プロとはいえ、その順応に時間がかかる。それだけに3試合から4試合を消化しないと本当のチームの力は見えてこない。それでも、わずか1試合ながら早くもオフの選手補強に疑問符が付くケースがある。今季はセインツとランニングバック(RB)エイドリアン・ピーターソンがそうだ。

バイキングスからリリースされてフリーエージェント(FA)入団したピーターソンは開幕週のマンデーナイトゲーム第1試合で古巣と対戦したが、セインツでのデビューはほろ苦いものとなった。6回のボールキャリーでわずか18ヤードのゲイン。およそピーターソンらしくない成績に終わった。

スタッツもさることながらファンを落胆させたのはその出場機会の少なさだ。最初のオフェンスシリーズで先発出場したものの、第2クオーターから第3クオーターはほとんど出番がなかった。もともとセインツでは複数のRBを併用するため、これは織り込み済みだ。ピーターソン自身もマーク・イングラムを中心に彼自身や新人アルビン・カマラをローテーション起用することに理解を示していた。それを加味してもピーターソンに与えられたチャンスがあまりに少なかった。

バイキングス戦は途中からセインツが追いかける展開となったため、よりパスの比重が大きくなり、パスプロテクションやキャッチングで信頼のおけるイングラムやカマラが主に起用された。テレビ中継ではピーターソンがショーン・ペイトンHCに後ろから声をかけ、ペイトンが振り向いて答える場面が映し出された。出場を直訴したと受け取られ、試合後もメディアからそのシーンについて質問されたピーターソンだったが、詳細を語ることはなかった。

試合を通じてセインツがピーターソン起用に適した状況を探しあぐねていた印象を受けた。まさか「ビッグネームだから」とか「古巣のバイキングス相手だから」といった理由で「起用しなければ」というプレッシャーがあったとは思わないが、オフェンスの持つスキームの中でピーターソンの持ち味を発揮できるプレーを待っていたようだった。

その状況が第4クオーターに訪れる。バイキングスが26対9と3ポゼッションのリードをして迎えた残り8分の場面だ。セインツはゴール前2ヤードでサードダウンを迎える。そこで満を持してピーターソンが投入された。さらにジョシュ・レリビアスを3人目のオフェンシブタックル(OT)として加え、その横にタイトエンド(TE)マイケル・フーマナーワヌイとジョシュ・ヒルをHバックに入れるランプレーのパッケージを敷く。

ところが実際のプレーはピーターソンのランをフェイクに使ったパスプレーだった。ピーターソンを含む3人のレシーバーがエンドゾーンに入ったが、厚いカバレッジに阻まれてドリュー・ブリーズはパスを投げ捨てるしかなかった。

セインツにしてみればランを警戒するバイキングスの裏をかいたつもりなのだろうが、こうした場面でピーターソンをレシーバーとして起用することに何の意味があるのか。確実にショートヤードを獲得したいときにボールキャリーをさせてもらえないピーターソンに存在意義はあるのか。

ピーターソンはバイキングス時代に常に8ないし9マンボックスと対峙し、それでも着実にゲインを重ねてきたという自負がある。それをエキストラOTと2人のTEを増やしてまで臨んだフォーメーションでパスプレーをコールされたことにプライドが傷ついただろう。

入団当初からピーターソンとセインツのオフェンススキームは合わないと予想されてきた。開幕戦はそれが悪い意味で証明された形となった。

セインツの次戦はペイトリオッツだ。ペイトリオッツはチーフスの新人RBカリーム・ハントのパワフルなランにディフェンスが苦戦した。これを参考にするならばピーターソンの活躍する場はあるかもしれない。それでもピーターソンの出番が少ないようなら、やはり今のセインツに彼の居場所はない。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。