コラム

新戦法の確立か? ブロンコスがRBエリオットを完全攻略

2017年09月21日(木) 00:52

ダラス・カウボーイズのエゼキエル・エリオット【AP Photo/Jack Dempsey】

第2週のサンデーナイトゲームはブロンコスが地元デンバーにカウボーイズを迎えて行われ、クオーターバック(QB)トレバー・シーミアンの4タッチダウンパスやコーナーバック(CB)アキブ・タリブによる103ヤードのインターセプトリターンタッチダウンなどでブロンコスが快勝した。ブロンコスは開幕2連勝で、対カウボーイズ戦は6連勝となった。

特筆すべきはブロンコスディフェンスがカウボーイズのランニングバック(RB)エゼキエル・エリオットを9回のボールキャリーでわずか8ヤードに抑え込んだことだ。2年目のエリオットはもちろんこれがキャリアワースト。屈辱的な敗戦となった。

1試合平均108ヤードのゲイン、1キャリー平均で5ヤードを稼ぐエリオットをブロンコスディフェンスはいかにして攻略したのか。そして、このやり方は他のチームが真似できる新たな戦法なのだろうか。

ブロンコスのディフェンスがリーグトップクラスの強さを維持しているのは周知の事実だ。しかし、その強さはウェイド・フィリップス前守備コーディネイター(現ラムズ)の戦略とボン・ミラーに代表されるパスラッシュにある。ランに対して鉄壁という印象はあまりない。そして、ヘッドコーチ(HC)がバンス・ジョセフに代わった今季、ディフェンスのゲームプランを構築するのは新任のジョー・ウッズである。フィリップスとはフィロソフィーが異なる。

有能なランナーを止める戦略としてよく用いられるのは8マンボックスだ。スクリメージライン上に、ディフェンスライン(DL)とラインバッカー(LB)のフロント7にセーフティ(S)を加えた8人を集めてランに的を絞ったディフェンスを敷く。

これはランには有効だが、逆にパスを守るセカンダリーが3人となるため、オーディブルでパスに変更されると意外にもろい。

第2週のサンデーナイトゲームではブロンコスは8マンボックスをほとんど使っていない。ランが予想されるファースト、セカンドダウンでは基本的な3-4ルックを使用している。エリオットのランに対しても多くのプレイでこの7人のみで対応している。では、なぜここまでエリオットのランを不発にすることが可能だったのか。

その秘訣についてジョセフは次のように語っている。

「我々のゲームプランはすべてのギャップを埋めることだった。(ランを封じて)パスを投げさせるようなプランをウッズが見事に作り上げてくれた。今までカウボーイズに対してこのような守備をしいたチームはなかったと思う」

改めて試合映像を見てみると、エリオットが止められているプレーでは最前列の5人(DL3人とアウトサイドラインバッカー2人)がOLのギャップに体を入れ、さらにインサイドラインバッカー(ILB)2人が少し遅れてOLのブロッキングによって新たに開けられたギャップに突進していくのがわかる。

これはカウボーイズのゾーンブロッキングの場合も同じだ。ゾーンブロッキングではOLがDLを斜めに押し込むので、ギャップが広がりやすい。そこをRBがカットバックしてスクリメージラインを突破するのが基本だ。しかし、最前列の5人はギャップが広げられないようにこらえ、さらにILBがエリオットのカットバックレーンをふさぐように走路をとる。いずれの場合もエリオットはインサイドに走るレーンを見つけられないのだ。

カウボーイズは最後までエリオットのランを確立することができなかった。もっとも、シーミアンが好調だったこともあって、点差が開いた後半はランよりもパスに比重をおいたオフェンスを使わざるを得なかったことも原因の一つだ。

では、今後カウボーイズと対戦するチームがこのやり方を真似して同じような効果を得ることができるのか。

ブロンコスがフロント7のみでエリオットのランに対抗し得たのはノーズタックル(NT)ドマタ・ペコの存在が大きい。ベンガルズから新加入した選手だが、大きな体格を生かしてOLのブロックを受け止め、RBのレーンを潰すのが得意な選手だ。センター(C)の正面にラインアップして、両方のAギャップ(CとOGの間)を守る2ギャップテクニックに精通したNTでもある。

セカンダリーの人材も無視できない。フロントの7人がランに集中する中、アンダーニースとディープの広いエリアをたった4人のセカンダリーで守らなければならないからだ。ランが予想されるオフェンスの隊形で2タイトエンド(TE)を採用したとしても、少なくとも2人のワイドレシーバー(WR)はディープに走り込んでくる。ランがフェイクのプレイアクションパスだった場合、最大で4人のレシーバーがフィールドに散らばる。しかも、そのうちの一人はデズ・ブライアントだ。にもかかわらずディフェンスは完璧なマンツーマンでレシーバーをカバーしなければならない。

ブロンコスはタリブ、クリス・ハリスを中心とした有能なセカンダリー陣が揃い、その堅いパス守備は“ノーフライゾーン(No Fly Zone)”と呼ばれる。空中戦が効力を持たない聖域というわけだ。

つまり、強力なNTと鉄壁のセカンダリーが揃うブロンコスだからこそ実現可能だったスキームであり、すべてのチームが簡単に模倣できるほど簡単なものではないのだ。

それでも、昨季は全く手をつけられなかったエリオット対策のヒントにはなるだろう。これをもとにこれからカウボーイズとの対戦を控えるチームがどんなディフェンスを考案してくるか、楽しみだ。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。