コラム

痛っ! 主力選手の負傷に悩むチーム、対策を求められるNFL

2017年10月15日(日) 10:24

ニューヨーク・ジャイアンツのオデル・ベッカム【AP Photo/David Richard】

スター選手の故障が相次いでいる。シーズン第5週だけでテキサンズのディフェンシブエンド(DE)J.J.ワットが膝の骨折、ジャイアンツワイドレシーバー(WR)オデル・ベッカムが足首の骨折でそれぞれ今季絶望となった。いずれもチームの中心となる人材で、影響は必至だ。ジャイアンツはさらに今オフにフリーエージェント(FA)で獲得したばかりのブランドン・マーシャルまでが足首の手術で今季中の復帰が見込めなくなり、いまだに獲得していない初白星がさらに遠くなった。

シーズンはまだ半分にも満たないが、今季はチームを代表するスター選手の戦列離脱が多い。開幕週にはカーディナルスのランニングバック(RB)デービッド・ジョンソンが手首を骨折した。ジョンソンはシーズン終盤には復帰できる可能性が高いが、昨季開幕から15試合連続で総獲得距離100ヤード超を記録したキーマンの欠場の影響はあまりに大きく、その穴は埋められていない。カーディナルスは開幕前に解雇したクリス・ジョンソンを呼び戻したものの、1キャリー平均2.5ヤード獲得と大きな貢献はなかった。そこでセインツで活躍の場を見いだせないでいたエイドリアン・ピーターソンをトレードで獲得し、ジョンソンを再び解雇している。

スーパーボウル候補にも挙げられたレイダーズはクオーターバック(QB)デレック・カーが第4週のブロンコス戦で腰椎の横突起を骨折し、第5週のレイブンズ戦に欠場した。第6週のチャージャーズ戦には早くも復帰とのうわさもあるが、チームは3連敗。全勝のチーフスに3ゲーム差をつけられている。

開幕戦でパスが好調だったバイキングスのQBサム・ブラッドフォードは古傷の膝が悪化し、その後、3週で欠場した。第5週のベアーズ戦で先発復帰したものの、試合中に故障箇所を悪化させて再び戦列を離れている。バイキングスでは彗星のように現れた新人RBダルビン・クックもACL断裂でシーズン絶望となっており、苦戦が続く。

激しいコンタクトスポーツであるがゆえにケガはつきものだ。それに備えた選手層を整えられれば理想だが、それは不可能に近い。戦列を離れる人材が主力選手である場合、戦力の低下は否めないのだ。

しかし、その現実を「仕方ない」で片づけてはならない。期待されていたチームの失速やスター選手の故障欠場はリーグ全体の人気に影響を及ぼすからだ。昨年14年ぶりにプレーオフ復帰を実現し、さらなる飛躍が期待されるレイダーズがカーの負傷で再び負け越すようなことがあれば、がっかりするのはレイダーズファンだけではない。レイダーズの復活でより面白いプレーオフを望んでいる一般のファンまでもが興味を削がれてしまうのだ。

ジャイアンツは開幕5連敗と苦しんでいるが、ビッグプレーを生みだす能力を持つベッカムはやはり集客能力の高い存在だ。そのベッカムが不在であればジャイアンツファンは何を楽しみにスタジアムに足を運べばいいのか。

NFLも故障者に対する制約を年々緩めてきている。かつては故障者リザーブリスト(IR)入りした選手はそのシーズンには復帰できなかった。それが2012年のルール改正により1人だけ復帰を認められるようになった。当初は復帰可能な選手をあらかじめ指定する必要があったが、昨年にそのしばりもなくなった。そして今季は復帰人数が2人となっている。

こうした緩和の背景にある要因の一つはよりタイトになるスケジュールだ。日曜日の試合から中3日しかないサーズデーナイトゲームは全32チームが実施することになっているし、ロンドンゲーム後のバイウイークも撤廃された。労使協約(CBA)によって練習時間も短縮されたが、選手にとって試合のスケジュールは厳しくなる一方だ。

タイトなスケジュールは疲労の蓄積を招き、故障と無関係ではない。選手の故障への対応はこれからも変わっていくだろう。今後、変更が議論される可能性があるのはとロースター登録枠(53人)、試合出場登録枠(46人)、プラクティススクワッド上限(10人)の拡大だ。これが実現すればデプスを厚くすることが可能で、主力選手の戦列離脱による戦力低下を少しはくい止めることができる。もっとも、在籍選手が増えればそれだけチームが払うべきサラリーも増額することになり、オーナーやリーグは難色を示すだろう。

現行CBAは2020年に満期を迎える。新協約締結交渉における大きな課題のひとつは故障対策になると思われる。ただし、これは選手会側とオーナー、リーグの間に大きな隔たりがある。早くも減CBAが失効する2021年にロックアウトもしくはストライキが予測されているほどだ。そうした事態を招かないためにも、故障者に対する対策は今からしっかりと立てていかなければならない。

トランプ大統領はしきりにNFLの人気低下を喧伝する。それを鵜呑みにすることはないが、主力選手の故障によって試合の面白さが減少するようであれば、いずれはそれが現実となる可能性は捨てきれない。リーグ全体での対策が急がれる。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。