コラム

「Fly, Eagles, Fly!」NFLトップを走るイーグルスの快進撃

2017年10月28日(土) 13:29

フィラデルフィア・イーグルスのチアリーダー【AP Photo/Michael Perez】

イーグルスの快進撃が止まらない。第7週のマンデーナイトゲームで地区ライバルのレッドスキンズを破り、5連勝。6勝1敗はリーグトップの成績だ。2004年シーズン以来となるスーパーボウル出場への期待が高まる。

2年目のカーソン・ウェンツは試合ごとの成長ぶりが目立つ。フィールドの動きを正確に読み、判断にも間違いがほとんどない。イーグルスはタイミングのパスを多用するから、この能力は必須だ。そして、それはショートからミドルの成功率の高いエリアのみならず、ディープパスでも発揮される。

レッドスキンズ戦での第2クオーターにワイドレシーバー(WR)マック・ホリンズに通した64ヤードのタッチダウンパスはその好例だ。右フランカー(FL)に位置したホリンズはスナップと同時にややインサイドにコースをとってパスルートをあがる。ディープゾーンにさしかかるとサイドライン側に走路をとってセーフティ(S)を誘い出し、その裏を取る形でインサイドに再びコースを戻した。その瞬間にウェンツからのパスが肩越しに落ちてきて、キャッチしたホリンズはそのままエンドゾーンへと駆け抜けたのだった。

ウェンツはドロップバックした後、パスラッシュをかいくぐりながらポケットの中で前にステップを踏み、Sを抜いたホリンズめがけてパスを放る。パスを投げた瞬間はまだホリンズがSを釣り出すためにアウトサイドにカットした瞬間だ。にもかかわらず、インサイドに戻ってきたホリンズの手にロングパスがドンピシャで収まったのである。

ホリンズのパスルート、Sの位置、ホリンズがインサイドに戻ってくるタイミングと自分との距離のすべてが頭に入っていないと成立しないプレーだ。

こうしたプレーは前週のパンサーズ戦でも見られた。ウェンツはNFLでの先発経験20数試合にしてすでにベテラン並みのビッグプレーメーカーの仲間入りをしたといっていい。

サードダウンでのコンバージョン率が高いのも今季のウェンツの特徴(イーグルスはリーグトップの50.51%の成功率)だが、それもフィールドの読みと判断が正しくできるからこその結果だ。

好調のオフェンスを支えているのはウェンツだけではない。新加入のランニングバック(RB)ルギャレット・ブラントはこれまでのイーグルスにはなかったパワーランナーで、体格を生かしたダイブプレーは大きな武器だ。レシーバー陣にはアルション・ジェフリー、ネルソン・アゴローのスピード系WRにTEザック・アーツがエンドゾーンターゲットとして貢献する。ラン、パスともにバランスのいい布陣ができあがっている。

ディフェンスはディフェンシブタックル(DT)フレッチャー・コックスが好調だ。ケガで2試合に欠場したが、1回のストリップを含む3.5サックの成績を残している。インサイドからパスプロテクションのポケットを崩し、クオーターバック(QB)にプレッシャーをかける。Sマルコム・ジェンキンスはパスカバーだけでなく、タイミングのいいブリッツを見せる。

スペシャルチームではRB兼パントリターナー(PR)のケンジョン・バーナーに注目だ。パントリターンの距離は平均16.3ヤードでNFL2位。タッチダウンこそまだないが、好リターンを連発している。

イーグルスの強さは攻守・スペシャルチームのすべての分野でプレーメーカーがいることだ。そのすべてがかみ合うことでお互いの弱点を補い合い、チームに勝ち星を呼び込んでいる。

ただし、プレーオフで勝ち進めるかどうかはまた別の問題だ。昨年のカウボーイズも13勝3敗でNFC第1シードを獲得しながら、初戦でパッカーズに敗れた。プレーオフは過去の出場経験が大きくものを言うのだ。新たな出場チームが出てきてもディビジョナルラウンドまでには淘汰され、結局は常連が残るというのが最近のポストシーズンの傾向だ。昨年はカウボーイズ、レイダーズ、ドルフィンズがその波にのまれ、一昨年もバイキングスとレッドスキンズが初戦敗退した。例外は昨季4年ぶりの出場ながらスーパーボウルまで進出したファルコンズくらいだ。

負けたら終わりのプレーオフには独特の緊張感があり、それに耐えうるメンタルの強さが必要だ。ウェンツやアゴロー、RBウェンドル・ホワイトウッドには未知のゾーンである。こうした若手をプレーオフ経験の豊富なブラントやジェンキンズらリーダーシップで引っ張っていきたい。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。