コラム

49ersのガロポロ獲得は正解か

2017年11月05日(日) 07:19

サンフランシスコ・49ersのジミー・ガロポロ【AP Photo/Jeff Chiu】

トレードの期限の直前に電撃移籍が起きた。レギュラーシーズン折り返しを経ていまだに勝利のない49ersはペイトリオッツからバックアップクオーターバック(QB)ジミー・ガロポロをトレードで獲得したのだ。交換条件は来年のドラフト2巡指名権。ペイトリオッツは一時的にトム・ブレイディの控えが不在の状態になったが、数日後、ガロポロのトレードと同時に49ersをリリースされたブライアン・ホイヤーを獲得している。

控えQBの中でもガロポロは高い評価を受けていた一人だ。昨年はブレイディの出場停止処分中に2試合に先発出場していずれも勝利、4タッチダウンパスに対して被インターセプトがゼロの成績を残した。そのため、今年のオフにはトレードの対象として話題に上ることはあったが、ペイトリオッツは3番手のジャコビー・ブリセットをコルツにトレードしたものの、ガロポロはチームに残していた。それだけにこの時期でのトレードは予想外だった。

49ersはホイヤーから新人C.J.ベサードにQBを替えたばかり。ところが、このベサードも2試合の先発でパスの成功率は52.7%、レーティング65.2で期待されたオフェンスの起爆剤とはなりえなかった。

ブラウンズとともに未勝利の続く49ersは上位指名権の獲得できる来年のドラフトでQBを指名するか、フリーエージェント(FA)でベテランQBを獲得する可能性が濃厚と考えられていた。来年はメイソン・ルドルフ(オクラホマ州立大学)、ジョシュ・ローゼン(UCLA)、ラマー・ジャクソン(ルイビル大学、昨年のハイズマントロフィー受賞者)といった人材が揃う。また、FAではヘッドコーチ(HC)のカイル・シャナハンがかつて攻撃コーディネイターとしてレッドスキンズで指導したカーク・カズンズの獲得もうわさされる。カズンズは2年連続でフランチャイズ指名を受けて、1年契約でプレーしている。つまり、レッドスキンズが契約継続を望まなければFAとなるのだ。

シャナハンの攻撃システムは経験の浅いQBには難しいとされる。だからカズンズを獲得すれば育成期間を経ずしてオフェンス力が上がるという期待はある。しかし、それはあくまでもレッドスキンズがカズンズとの契約延長を断念する前提だ。

オフを待たずに新QBを獲得した背景にはチーム史上初となる開幕8連敗という事実が働いているだろう。1980年代の黄金期を記憶しているファンが多い49ersでは来年のドラフト1位指名を獲得するために黒星が続く事態は看過できなかったのに違いない。ここに名門であるが故の苦悩がある。

さて、ガロポロを獲得した今、49ersとシャナハンにはいくつかの選択肢がある。今後、ガロポロがチームに勝利を呼び込み、将来のフランチャイズQBとして擁立するに足りる存在になると確信できればドラフトやFAでのQB獲得は必要なくなる。来年のドラフトではOLなどほかに必要な人材に高順位の指名権を使うことができる。

これが最も理想的なシナリオだ。ガロポロがQBに定着すればペイトリオッツに与えた2巡指名権はむしろ安い条件だったろう。

問題はガロポロも期待外れだった場合だ。残念ながら、こちらの方が確率は高い。やはり49ersは新たなQB獲得に動かざるを得ない。ガロポロはNFL入りの際にペイトリオッツと結んだ契約の最終年にあたるため、49ersがトレードの際に契約延長をガロポロに与えなければ彼は来年3月でFAとなる。49ersは懐を痛めることなくガロポロを放出して新たなQBを模索できるのだ。その場合、FAとなったガロポロとペイトリオッツが再契約する可能性は否定できない。

ただし、育成にかかる時間を考えればドラフトでQBを獲得した場合、来年のチーム成績も振るわないことを覚悟しなければならない。新人QBがチームに勝利をもたらす例は昨年のダック・プレスコット(カウボーイズ)などごく稀な例しかないのだ。鳴り物入りでシャナハンを迎えた49ersのファンがそれを許容できるのだろうか。

ここで今一度、カズンズの存在感が大きくなる。レッドスキンズは現在3勝4敗と苦戦し、NFC東地区で独走態勢を固めつつあるイーグルス(7勝1敗)にすでに2敗して逆転地区優勝の望みは薄い。レッドスキンズがカズンズを断念して、新たなQBをドラフトで指名したいと考えたらどうなるか。49ersの持つであろう上位指名権と引き換えにカズンズをトレードするという選択肢が浮かんでくるのではないか。もちろん、レッドスキンズもベテランのカズンズに代えて新人QBを育成するには時間がかかることは承知の上だ。しかし、同地区でプレスコットやカーソン・ウェンツ(イーグルス)の成功を見ているだけに、検討の余地はあるかもしれない。

49ersのガロポロ獲得が吉と出るか凶と出るかはわからない。しかし、来年のドラフトとFAの状況に影響を与える可能性を秘めていることだけは間違いないだろう。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。