コラム

好調が続くAmazonプライム・ビデオのTNF配信

2017年11月05日(日) 15:50


グリーンベイ・パッカーズ対シカゴ・ベアーズ【Scott Boehm via AP】

ネット大手『Amazon(アマゾン)』のライブストリーミング配信サービス“Amazonプライム・ビデオ”によるサーズデーナイトフットボール(TNF)配信が好調のようだ。

同社は2017年シーズンのTNFを10試合、有料サービスのアマゾンプライム会員向けにストリーミング配信する権利を獲得し、日本を含む世界向けに試合の模様を配信している。

初回は9月28日に行われたベアーズ対パッカーズ。NFLはこの試合のストリーミングを30秒以上試聴した会員が世界で37万2,000人に上り、平均視聴時間は55分だったと発表した。昨年、同じTNFのストリーミング配信を行ったのはソーシャルメディア大手の『Twitter(ツイッター)』だったが、やはり最初の配信となったジェッツ対ビルズ戦の視聴者数は24万3,000人を記録したが、Amazonはこれを10万人以上、上回っている。平均視聴時間も22分から大きく伸びた。

また、この試合は第1クオーターの終わりに雷雨で47分の中断があったうえ、35対14でパッカーズが大勝した。こうしたこともあって『CBS』が放送したテレビ中継の視聴率は9.9%で昨年のジェッツ対ビルズよりも前年度比で7%ダウンしている。にもかかわらずストリーミングの数字は伸びたことも興味深い。

このストリーミングではスペイン語やポルトガル語などでの実況も行われており、アメリカ国外からの試聴の30%近くがこうした言語を選んでいたという。また、アメリカ以外で最も試聴が多かったのはメキシコ、次はドイツだったと言われている。

さらにAmazonによれば10月19日に開催されたチーフス対レイダースまでの4試合の配信で総視聴数は710万を記録し、試聴があった国と地域は187に及んだとのことだ。シーズンが進むにつれ、これらの数字は安定してきており、平均試聴時間は51分に伸びているようだ。また試聴に使用している機器はインターネット対応テレビをはじめ、モバイルアプリをインストールしたスマートフォンやタブレット、インターネットブラウザなど多岐に渡っている。

Amazonのスポーツビデオ部門のトップ、ジム・デロレンゾ氏はケーブルテレビ業界誌『Cablefax』に対し、「うまくいっています。われわれは顧客がどのように反応しているのか、またその顧客からのコメントに常に注目しています。それらはポジティブなものがほとんどでした。人々はストリームの品質が優れていることを理解したようです。私たちが行っているさまざまなプラットフォームで見ることができる利便性が好まれています」と成果を語っている。

ストリーミング配信の対象となっている10試合のTNFは昨シーズンも今シーズンも、アメリカではCBSもしくは『NBC』が地上波でテレビ中継しており、さらにケーブルチャンネルである『NFL Network(NFLネットワーク)』でも中継されている。ストリーミングはいわば3番目の試聴方法であり、不利な立場だ。それにもかかわらずAmazonは昨年のツイッターが支払ったとされる1,000万ドルの5倍、5,000万ドルの契約金を支払って今回の実施に至っている。

その狙いについてAmazonのブライアン・オルサブスキー最高財務責任者は会見で、ビデオを試聴するプライム会員はAmazonのサイト内に滞留する時間が他よりも長いことを指摘し、通販など他のビジネスと結びつけていくことを示唆した。2018年はさらにビデオへの投資を増やすとし、「ビデオ事業は最も重要な顧客ベースであるプライム会員と共に大きな成果を上げています。引き続き無料トライアルから有料会員への変更率や会員更新率、エンゲージメントのアップに努めていきます」と事業への注力を語っている。

世界的にストリーミング配信事業への参入が増えるなか、ライブで試聴されることが多いスポーツコンテンツは奪い合いとも言える状況になりつつある。それだけにAmazonの成功は、そうした競争をさらに激化させることになりそうだ。

わたなべ・ふみとし

渡辺 史敏
兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。