コラム

マーテラス・ベネットをめぐる新たな確執

2017年11月19日(日) 11:20


ニューイングランド・ペイトリオッツのマーテラス・ベネット【AP Photo/Jack Dempsey】

現地12日に行われたサンデーナイトフットボール、ペイトリオッツ対ブロンコスでペイトリオッツのタイトエンド(TE)マーテラス・ベネットは3レシーブ、38ヤード獲得の活躍を見せたが、これは新たな確執を決定づけるものとなった。

昨シーズン、ペイトリオッツに所属していたベネットは55レシーブ、701ヤード、自己最多の7タッチダウンを記録し、スーパーボウル優勝に貢献した。シーズン後、フリーエージェントとなったベネットは3年総額2,100万ドルでパッカーズと契約し、移籍していたのである。

新天地での今シーズンは開幕から7戦連続で先発出場していたが、プレーは精彩を欠き、24レシーブ、タッチダウン0にとどまっていた。これは肩の負傷を抱えながらのプレーだったことが原因とされ、第8週のバイウイーク後、第9週ライオンズ戦では出場登録から外されている。さらにチームは第10週のベアーズ戦でも出場登録しないことを発表。さらに8日にはケガの状況をチームに報告しなかったことを理由にベネットの放出したのである。

こうしてウェイバーにかけられたベネットを翌9日に拾ったのがペイトリオッツだ。この時、ベネットは引退の意向を示しているとも伝えられ、プレーできるのかどうか分からないベネットを獲得したペイトリオッツの意図をいぶかしがる声も多かったのである。実際、『NFL Network(NFLネットワーク)』のイアン・ラポポートは10日に、ベネットは肩の回旋筋腱板と上方肩関節唇が断裂しているとも伝えていた。

が、その10日に行われたペイトリオッツの練習にベネットが参加。居合わせた取材陣を驚かせたのである。

さらに同日、ベネットはソーシャルメディアの『Instagram(インスタグラム)』で、パッカーズの解雇は契約ボーナスの支払いをしないために行われたとパッカーズを非難するコメントを投稿したのである。

それによれば「パッカーズは3月10日の訪問時に自分の肩を検査し、それをクリアしていた」と開幕前の健康状態は良好だったとした。さらに「良好なX線写真もくれた。その後、シーズン中、特にカウボーイズ戦(10月8日)で悪化した。そのため検査を頼み、検査してもらった。プレーを続けるか手術するか数日考えた後、手術を選んだ。それでここにいる」と経過を明かしている。

その上で、チームドクターとチームによる放出の決断は全て支払いを拒否するためだったと激しい言葉を使いながら非難した。「こでは全て金に関するものだ。金が全て。自分はそれを得るが、ウソはつかない」と。スポーツ専門局『ESPN』によるとパッカーズは630万ドルの契約ボーナスの一部を回収に動く可能性があるということだ。

こうした中で、重傷と思われていたベネットが移籍後すぐ練習に参加しただけでなく、実戦で活躍したのである。

この練習参加の経緯についてベネットはスポーツ誌『スポーツイラストレイテッド』のピーター・キングに対し、「ビル(ベリチック・ヘッドコーチ)が“練習できるか”と聞いてきた。自分は“今はただ寝たい”と言ったら、彼は“ああ、今日は金曜日だ。あそこに行って、いくつかスナップに参加しろ”と言い、“分かった、行くよ”と言ったんだ」と語ったということである。

この話を文字通りに受け取ることはできないかもしれない。ベネットが今シーズン限りで引退する考えを持っているので、すぐの手術するのではなく、まずはプレーを続行することを説得したのだろうとも考えられる。特に昨シーズン、ペイトリオッツに在籍していただけにコミュニケーションはとりやすかったであろう。ただこれだけペイトリオッツの対応が早いのは、予めベネットの状態を知っていたためではないかとの邪推が出てくるのも当然だろう。いずれにせよベネットとパッカーズ、さらにパッカーズとペイトリオッツの関係が悪化したことは明らかだ。

開幕時、ベネットとパッカーズの関係は決して悪いものではなかった。以前紹介したが、ベネットはクリエイターという側面も持っており、イマジネーション・エージェンシーというマルチメディア制作会社を経営している。そのウェブサイトではベネットやクオーターバック(QB)アーロン・ロジャースやワイドレシーバー(WR)ランドール・コブが出演するユーモアにあふれた動画が多数掲載されるなどチームに溶け込んだ様子が見られていた。ベネットの言うようにケガと放出によって一挙に悪化したのであろう。

今シーズン、両チームの対戦は共に第52回スーパーボウルに進出しなければ実現しないが、この新たな確執は今後どう展開するだろうか。

わたなべ・ふみとし

渡辺 史敏
兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。