コラム

カウボーイズが最悪のタイミングで迎えるRBエリオットの処分

2017年11月18日(土) 10:19

ダラス・カウボーイズのエゼキエル・エリオット【AP Photo/Patrick Semansky】

カウボーイズのランニングバック(RB)エゼキエル・エリオットの6試合出場停止処分が第10週のファルコンズ戦から執行された。リーグが科した処分は開幕から6試合だったが、選手会の支持を得たエリオット側が差し止めを求める申し立てを行ったことでペンディング状態となっていた。

ところが、このたびニューヨークの第2巡回区連邦控訴裁判所がエリオットの申し立てを棄却したことで処分の執行が始まった。エリオット側はさらに最高裁で争うことも可能だが、結審までに相当の時間がかかることから断念した。

エリオットが復帰を認められるのは第16週のシーホークス戦となる見込みだ。プレーオフを争う大事な時期と重なり、まさに最悪のタイミングで執行が始まったことになる。

今回のケースは昨年のトム・ブレイディの出場停止処分が執行された経緯とよく似ている。ブレイディはデフレート疑惑を調査したリーグへの協力が十分ではなかったとして2015年に4試合の出場停止処分を言い渡された。これを不服としたブレイディは異議申し立てをして処分は差し止められる。しかし、リーグが控訴し、高等裁判所がそれを支持する判断を下した。それが昨季開幕戦からの4試合の欠場だ。

さらなる係争も可能だったにもかかわらず、ブレイディが甘んじて処分を受けたことは記憶に新しい。

このブレイディの例を見るとき、エリオットとカウボーイズは判断を誤ったのではないかとの疑問がわく。NFLはレイ・ライス(元レイブンズ)の事件以降、NFL選手(コーチ、関係者含む)の暴行に対する処分を厳格化する傾向にある。そして、ロジャー・グッデルコミッショナーが下した決断に選手や選手会が異議を申し立てた場合、NFLは引き下がらずに係争に持ち込む姿勢を打ち出している。

それにもかかわらず、エリオットとカウボーイズはリーグの裁断と真っ向から対抗し、結局は押し切られた。暴行に対するNFLの態度と覚悟に対する見極めが甘かった。

ブレイディの例をつぶさに検証するなら、処分撤回を勝ち取ることが現実的ではないという判断はあってよかった。それならばプレーオフのかかったこの時期よりも序盤の6試合欠場を選ぶべきではなかったか。

序盤も終盤も6試合という欠場数には変わりはないと思われるかもしれないが、それは違う。開幕から3、4週間はどのチームもまだ戦力が整っておらず、手探り状態だ。新人や新加入選手の実力を見極め、ケミストリーを作り上げる途上にあるのだ。ここではそれほどチームの戦力に格差は生まれにくい。

中盤以降になると戦術も磨かれ、選手間のチームワークもよくなって戦力が上がってくる。プレーオフ出場経験の豊富なチームほど、シーズンの半ばから終盤にかけてピークが訪れるように戦力を整える術を知っている。シーズンがまだ浅い時期に好調だったチームが10月以降に失速し、終わってみればいつもの常連チームがプレーオフに出ているような状況がこの10年ほど続いているのはこれが理由だ。

11月中旬から12月にかけてはまさにプレーオフを狙うチームがその戦力を完成形に持っていく時期だ。手探りで戦力を作り上げている序盤とはすでにチーム力が違うのである。

現在5勝4敗のカウボーイズはNFC東地区で8勝1敗のイーグルスを追う。残り7試合での逆転地区優勝はかなり難しい状況であるため、ワイルドカード枠でのプレーオフ進出も視野に入れなければならない。ところが、今季のNFCは全体的にレベルが高く、ワイルドカードでのプレーオフ当確ラインが11勝あたりまで引き上げられると予想される。カウボーイズは今後6勝1敗で行かなければいけない計算だ。その期間に昨年のリーディングラッシャーでオフェンスの核であるエリオットが不在なのだ。

シーズン序盤の欠場を選択したブレイディとペイトリオッツの例をエリオットとカウボーイズはもう少し重く見るべきだった。エリオットの欠場が序盤であったなら、カウボーイズはその間に起用するRBをフリーエージェント(FA)やトレードで獲得することも可能だった。エリオット不在の間のプランが立てやすかったのだ。

ましてや、今季のトレード期限内にエイドリアン・ピーターソンやジェイ・アジャイといった大物RBが移籍したことを考えれば、それがカウボーイズに起こった可能性も否定できないのだ。ピーターソンはFAで移籍先を探していた際に「カウボーイズは選択肢にない」と公言していたが、それはエリオットの存在があったからだ。6試合もの長期にわたってエリオットが欠場し、その間に自分がフィーチャーバックとして扱われると分かっていたら事情は変わっていたかもしれない。

スポーツに“たられば”は禁物だとよく言う。しかし、エリオットのケースは必ずしも仮定の問題ではない。危機管理である。その意味で、判断ミスがあった感は否めない。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。